内容紹介

社会科学・人文科学の古典を新訳で届けて来た日経BPクラシックス29タイトル目となる本書は、ハイデガーの技術論の核心を示す4つの講演・論文「技術への問い」(1953年)、「建てること、住むこと、考えること」(1951年) 、「物」(1949年)、「世界像の時代」(1938年)を収録する。
生成AIが登場し、人間とテクノロジーをめぐり、政治・経済・社会が新しい局面を迎えている今、核兵器による惨劇を目にした20世紀最大の哲学者ハイデガーが技術の本質をどう考えたのかを知るには恰好の書と言える。
 巻末に「訳者あとがきに代えて」として、中山元氏による「ハイデガーの四つの技術論の位置」という解説が付いている。以下、その一部を引用する。
 
「世界像の時代」と「物」および「建てること、住むこと、考えること」という講演の記録では、人間が自分の周囲にあるさまざまな道具を作り出す営みの背後に、人間がすべてのものを「対象」として表象する営みがあることを示してきたが、1953年に発表された「技術への問い」は、自然に働きかける人間が利用する技術について集中的に考察している。
 すでに「世界像の時代」において、近代において人間が世界を像とみなし、自然に存在する物を対象とみなしながら、人間が自然に暴力を加えて征服することが、歴史の「進歩」であるという見方が育っていたことが指摘されていた。この論文ではこのように人間が自然を像として、対象として認識することに伴って、人間が自然の一部であり、自然のうちで生きることの意味が見失われて、自然を支配することによって幸福になることができると信じ込んだことがどのような帰結をもたらしたかについて、自然の支配のための手段として利用する技術という観点から掘り下げようとする。
 (中略)
 戦後のハイデガーは、この近代的な理性批判の可能性っを追求することに力を注いだ。人間のほんらいのあり方として、挑発的な姿勢によって自然を支配し、利用することでなく、自然の語る言葉に耳を傾け、自然の一部としての人間の存在のあり方に思いを潜めることを哲学の重要な使命だと考えたのである。ハイデガーは哲学と思索の務めは、大地に根差す人間のあり方に目を注ぎ、「この原子力時代において、新たな土台と地盤が、すなわちそこから人間の本質とそのすべての仕事が、新たな形でふたたび成長することができるような新たな土台と地盤が、人間にふたたび与えられる」(ハイデガーの「放下」論文から)可能性を模索することだと考えた。ハイデガーは、<挑発性>を否定するこのような姿勢を「放下」(ゲラッセンハイト)と呼ぶ。「あるにまかせる」という意味の放下の姿勢は、人間が自然とのあいだでふたたび和解し、調和した生き方をするようになるための重要な手掛かりとされている。このようなあり方のうちでこそ、初めて人間が技術によって徴用されるのではなく、技術を駆使しながらも自然とともに安らかに生き続ける可能性がみいだせるとハイデガーは考えたわけである。

【目次】
・技術への問い
・建てること、住むこと、考えること
・物
・世界像の時代
                                                                                                                              ハイデガーの四つの技術論の位置
    ――訳者あとがきに代えて