あなたが普段から利用するインターネットやLANといったネットワークは、様々な機器がつながって成り立っています。そうした機器同士のつながりを可視化するツールが「ネットワーク図(ネットワーク構成図)」です。ネットワーク図は設計や運用などIT現場の様々な業務で活用されていますが、図の描き方を体系的に学んだ人はほとんどいないのが実情です。
そんなネットワーク図をいかに分かりやすく描くかを長年研究してきたのが、『ネットワーク図の描き方入門』(2025年12月22日発売、日経BP)の著者である萩原学さんです。萩原さんがネットワーク図の描き方を究めるに至った背景に迫りました。後編となる今回は、書籍を出すに当たって苦労した点や、ネットワークに対する萩原さんの思いを掘り下げて聞きました。
前編で、萩原さんが自動化の研究をきっかけにネットワーク図を描くノウハウを体系化したとお聞きしました。そのノウハウを書籍にまとめるに当たっては、どんな苦労がありましたか?
萩原学さん(以下、萩原):ネットワーク図をはじめとする図表づくりが大変でしたね。そもそも図表の点数が膨大でした。192ページの書籍に160点以上を盛り込んでいます。
TIS IT基盤技術企画部エキスパート
まず、作図する際の参考にしてもらうサンプルとして4種類の大判のネットワーク図を描きました。もっとも、これらのネットワーク図をご覧いただくだけでは、分かりやすく表現するコツや図を描く流れなどを理解するのは難しいだろうと思いました。
そこで、表現のコツが分かりやすい部分を大判のネットワーク図から切り出したり、作図の流れを説明するために作成途中の図を用意したりしました。こうして点数が膨らんだのです。
さらに、図表の作成と同じくらい苦労したのが図表を完成版に整えていく作業です。ネットワーク図に修正が必要な箇所が見つかると、説明用に切り出した図や、途中段階を見せる図も修正しないと整合性が取れなくなってしまいます。この全体の整合性を取る作業には神経を使いました。
なるほど。そうした工夫と苦労が詰まった数多くの図が、書籍の見どころですね。特に注目してほしい図はありますか?
萩原:書籍の第2章や第4章などで紹介した、「物理・論理合成図」と私が呼んでいるネットワーク図です。この図の役割を説明するために、少し専門的になりますが現代のネットワークのありようを先にお伝えしますね。
現代のネットワークは機器同士をケーブルなどでつないだ見た目と、データが流れる経路がしばしば一致しません。「仮想化」と呼ぶ、1つの機器に複数の役割を持たせたり、複数の機器をあたかも1つの機器のように動かしたりする技術を取り入れている現場が多いからです。
こうした事情からネットワーク図も1種類では足りません。少なくとも、現実世界のどこに機器を設置するかなどを示す図と、データがどの経路を流れるのかを示す図が必要です。前者を「物理構成図」、後者を「論理構成図」と呼びます。これら2つの図は、ネットワーク技術者の間である程度の共通認識があります。
ただ2つの図を使い分けると、両者の整合性をいかに取るかという別の課題が生じます。整合性が取れていない場合、「あるデータはこの経路で通信するつもりだったけれど、対応する機器同士をケーブルでつなげられなかった」といった事故が起こりかねません。
この整合性が取れているかどうかを確認しやすくするための図が、先ほど挙げた物理・論理合成図です。その名が表すように、物理構成図で表現したネットワーク機器などの中に、論理構成図で整理したデータを流す経路が分かる情報を合成する図です。
実は、物理構成と論理構成の整合性を確認するためにどう図解するかは、ネットワーク技術者の間でも共通認識が固まっていません。書籍で描いた物理・論理合成図を、描き方の選択肢の1つとして見てもらえるとうれしいです。
創意工夫を重ね、思った通りに動くとうれしい
私たちが普段利用するネットワーク、実は複雑なのですね。そんなネットワークの技術に萩原さんが長年向き合っている理由を教えてください。
萩原:端的に言えば面白いからです。ネットワークで実現したいことを達成するには、複数の要素をつなぎ合わせて、どうにかして連動させる必要があります。このプロセスはかなりややこしいのですが、その分、創意工夫を重ねることがとても面白いのです。思った通りに動いた瞬間はうれしくなりますね。
面白さが高じたからでしょうか、ご自宅でも企業用のネットワーク機器を使った本格的なネットワークを運用しているとお聞きしました。ネットワーク図もあるそうですね。
萩原:マンションの一室に実験用ネットワークを構築して動かしています。就職した当初から中古のルーターやサーバーを購入して、機器の機能を試したり、試験に出てくる問題を検証したりしてきましたね。同じような環境を自宅で動かしている仲間と勉強会を開き、情報を交換することもありました。
(萩原さんが話をしながら自身のパソコン画面を大型ディスプレーに投影すると、萩原さん宅のネットワーク図が表示された)
現在は、インターネット回線と接続するルーターを中心に据えた上で、普段の生活で利用するネットワークと、実験用ネットワークをそれぞれ設けて運用しています。実験用ネットワークでは複数台のサーバー環境やパソコンを同時に動かせるようにしています。こうした自宅のネットワークを管理しやすくするためにも、ネットワーク図はもちろん役に立ちます。
(聞き手・構成/日経NETWORK編集 馬本寛子 写真/宮原一郎)
萩原学(著)、木村博之(監修)/日経BP/3300円(税込み)

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