あなたが普段から利用するインターネットやLANといったネットワークは、様々な機器がつながって成り立っています。そうした機器同士のつながりを可視化するツールが「ネットワーク図(ネットワーク構成図)」です。ネットワーク図は設計や運用などIT現場の様々な業務で活用されていますが、図の描き方を体系的に学んだ人はほとんどいないのが実情です。
そんなネットワーク図をいかに分かりやすく描くかを長年研究してきたのが、『
ネットワーク図の描き方入門 分かりやすさ・見やすさのルールを学ぶ
』(2025年12月22日発売、日経BP)の著者である萩原学さんです。萩原さんはなぜネットワーク図の描き方を究めるに至ったのでしょうか。2回構成のインタビューで迫ります。前編では萩原さんがネットワーク図に関わったきっかけや、書籍に込めた思いを聞きました。
萩原さんがネットワーク図を描くようになったきっかけを教えてください。
萩原学さん(以下、萩原):新卒で入社したIT企業で、1年目にIT基盤の構築プロジェクトに途中参加したことがきっかけでした。このプロジェクトで構築するネットワークの全体像を理解するために、図を描きながら先輩たちに質問していったのです。
TIS IT基盤技術企画部エキスパート
プロジェクトに最初から参加している先輩たちは、状況を理解して業務に当たっています。一方、途中参加の私はプロジェクトがどうなっているのかも、先輩たちが何をしているのかもさっぱり分かりませんでした。
特に困ったのは、自分が担当する作業が他の部分にどう影響するのかが分からなかったことです。ネットワークは様々な機器がつながって成り立ちます。ある機器が正しく動作しても、他の機器が動かなくなってしまうと用をなしません。つまり私が担当する機器の設定によって、他の機器に不都合な影響を与えないかを理解しておく必要があるのです。

もちろん、先輩たちは設計業務の資料を整えておいてくれました。ただし、それらの資料は担当範囲ごとに分かれています。1つひとつを読んでも、ネットワーク全体の構造が私には分からなかったのです。全体が分からないままでは手を動かせませんでした。
図がないと説明が先に進まない
そこで現場にあるネットワーク機器を見た上で、資料と照らし合わせて図を描き起こすことにしました。最初は個々の機器の設定を参照し、処理手順を示す図を描きました。
作成した図を見せながら先輩に質問し、得られた回答を基に図の修正を繰り返して理解を深めていきました。こうした作業を重ねる中で、ネットワーク全体の動きを把握するのに役立つネットワーク図も描くようになったのです。
企業のネットワークは複雑で、図を使わないと質問するのも難しいのでしょうね。
萩原:はい。「分からないポイント」を解き明かしていくコミュニケーションを取るためにネットワーク図が必要でした。私が言葉で表現するのが苦手だった面もありますが(笑)。
もちろん、図の代わりに文章で表現することも考えられます。ただし、ネットワークに関して文章だけで説明するのはとにかく面倒です。
例えば、機器の設定を変更した際の影響は、隣接する機器だけでなく、ネットワーク全体に広がることが珍しくありません。ネットワークの変化を俯瞰(ふかん)する視点が必要になります。文章だけではこうした変化を説明しにくいのです。図がなければほとんど先に進みません。
自動化の研究で改めてネットワーク図に注目
仕事で必然的にネットワーク図と向き合うようになったのですね。すぐに分かりやすいネットワーク図を描けるようになりましたか。
萩原:いいえ、試行錯誤を重ねました。ネットワーク図の描き方を体系立てて教わる機会はありませんでした。新卒で入った会社にはシンプルなネットワーク図しかなく、お手本の図を見て学ぶことも難しかったです。
そのため現場の案件ごとに手探りで図を描いては先輩に確認することを繰り返し、徐々に身に付けていきました。社会人になって10年ほどの間に、数百個の構成要素が含まれるような大規模なネットワーク図も描けるようになりました。
仕事に取り組みながらノウハウを体系化されてきたのですね。
萩原:そうですね。もっとも、書籍を執筆できるほど体系化したのはだいぶ後になってからです。現在所属する企業の業務で、ネットワーク運用の自動化に取り組んだことがきっかけです。
ネットワークを運用する多くの現場では、手作業がいくつも残っています。驚くほど昔と変わっていません。これは先ほどお話しした通り、ある機器の設定を変更するとその影響が全体に波及するというネットワーク特有の難しさがあるためです。
やみくもに設定を自動化してしまうと、思わぬ場所でトラブルが発生しかねません。人間がネットワーク図を確認しながら作業を考えるように、自動化するコンピューターもネットワーク図を基に処理ができるようになる必要があるのではと考えました。
そこで、ネットワークの構成をコンピューターが読み込める形式に変換して読み込ませました。その上で、そのコンピューターにネットワーク図を出力させてみました。すると、人間が手作業で描いたものと比べて分かりにくく、使いにくいものでした。
このギャップは何だろうと思い、そこから「分かりやすいネットワーク図とは何か」を改めて考えてみました。自身のノウハウを整理するだけでなく、インターネット標準を策定する技術文書や、データ可視化に関する論文、インフォグラフィックスの論文などを読み込みました。
こうして得られた学びを残しておこうと思い、ITエンジニア向けの情報共有サービス「Qiita(キータ)」で記事としてまとめました。そのブログ記事が、今回の書籍につながりました。

ネットワークが専門ではない人にも読んでほしい
書籍『ネットワーク図の描き方入門』をどんな人に読んでほしいですか?
萩原:主に2つの読者像を描いています。1つは、初めてネットワーク図を描く方や、これまで図を描いたことはあるけれども「本当にこれでいいのだろうか」と不安を感じている方です。
私がそうであったように、多くの方はネットワーク図の描き方を体系的に教わったことがないと思います。先輩が作成した図を「見よう見まね」で描いたり、なんとなく描いてみた図を上司に見せ、受けた指示を基に繰り返し修正したりしているのではないでしょうか。このような試行錯誤を重ねている方の助けになる内容にしています。
もう1つは、IT企業にネットワークなどIT基盤の構築を依頼する、ユーザー企業のシステム部門の方です。システム部門の方は様々な業務を抱えていて、ネットワークを専門としていることは少ないでしょう。それでもIT基盤の構築を依頼する際には、ネットワーク図を描いてIT企業の担当者に説明する必要があります。そうした方が円滑にコミュニケーションを進める上でも、本書を参考にして描いたネットワーク図が役立つはずです。

(後編に続く)
(聞き手・構成/日経NETWORK編集 馬本寛子 写真/宮原一郎)
萩原学(著)、木村博之(監修)/日経BP/3300円(税込み)

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