強豪がひしめき、互いの血で染まった「レッド・オーシャン」ではなく、新しい価値とコストをもとにした競争のない「ブルー・オーシャン」を創り出そうと説く戦略が、2004年に欧州からもたらされました。このような戦略コンセプトはそれまでになく、提唱したチャン・キムとレネ・モボルニュは大きな注目を集めました。2人の業績を『 マンガ 経営戦略全史〔新装合本版〕 』(三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画)から抜粋してお届けします。
・ミシガン大学ロス校で経営学を修め、教員に
・40歳 INSEADに移籍。教育・研究の傍ら、BMWなどのコンサルティングに携わる
・53歳 『ブルー・オーシャン戦略』をモボルニュと発表
・29歳 キムと共にINSEADに移籍
・40歳 『ブルー・オーシャン戦略』をキムと発表。その伝道に世界中を飛び回る
はじめての欧州発の大ヒット
●2004年、それまでになかった戦略のあり方が、欧州からもたらされました。『ブルー・オーシャン戦略』です。強豪がひしめき、互いの血で染まった「レッド・オーシャン」ではなく、新しい価値とコストをもとにした競争のない「ブルー・オーシャン」を創り出そう! と説くこのコンセプトは、マイケル・ポーターが主張し続けた「付加価値かコストかのトレードオフ」を否定するものでもありました。
●著者はINSEADのチャン・キム(W. Chan Kim、1952~)とレネ・モボルニュ(Renée Mauborgne、1963~)です。2人は以来、連続して「Thinkers 50」の上位にランクされています。
●フランス・パリの郊外フォンテーヌブローを本拠とするINSEADはその国際性(約100カ国から学生を集める)がウリであり、彼らの研究対象もアメリカ企業に偏らないものでした。2人は数年をかけて世界30業界150の戦略事例を調べ上げましたが、それも「勝者」に偏らず、「敗者」をも見つめるものでした。その勝敗を分けたものは、『バリュー・イノベーション』(1997、ハーバード・ビジネス・レビュー<HBR>)であり、のちに『 ブルー・オーシャン戦略 』(新版の邦訳はダイヤモンド社)となった考え方でした。
差別化とコストリーダーシップを両方実現
●ポーターは、「戦略とは、高付加価値追求か低コスト追求かのトレードオフである」と言いました。キムとモボルニュは、それに真っ向から反論します。「高付加価値と低コストは必ずしもトレードオフではなく、新しい高付加価値と低コストを両立させることができる」「戦略とは、新しい市場コンセプトの案出とそれを実現するケイパビリティの創造(=バリュー・イノベーション)である」と。アップルのiPod、シルク・ドゥ・ソレイユ、スターバックス、日本のQBハウスなどがその例だとされました。
●キムとモボルニュは、「ブルー・オーシャン戦略」をアートや手工芸品(ミンツバーグ)のままにはせず、戦略を生み出すための経営ツールを12種、つくり上げました。「戦略キャンパス」「なくす・減らす・増やす・創るグリッド」などです。
●岩田聡(1959~2015)率いる任天堂は実際に、DS(2004)、Wii(2006)の開発時に、これらを用い、見事に「新しい顧客(女性や大人)」に対して、新しい付加価値を低コストで提供し、圧倒的な市場創造に成功しました。
●でも、その任天堂の戦いに終わりはないとキムは07年に言っていました。ブルー・オーシャンは、成功すればするほどすぐに競合の参入を招き、レッド・オーシャンになります。ブルー・オーシャン戦略が求める「新市場の探索」と「ポジショニングとケイパビリティの創造と融合」は永遠なのです。
シナリオ/星井博文 画/飛高翔 編集協力/トレンド・プロ
シリーズ累計30万部のベストセラー『経営戦略全史』の新装マンガ版が発売! ティール組織、両利きの経営、パーパス経営などの最新の経営トピックについても加筆し、新装リニューアルの大型合本版がついに発刊。
三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画/日本経済新聞出版/2090円(税込み)