「ポジショニング重視」と「ケイパビリティ重視」を統合し、状況に応じて、戦略や組織のあり方やその組み合わせ方は変わることを主張したヘンリー・ミンツバーグたちカナダ・マギル大学の一派。著書でそれを「コンフィギュレーション」と呼び、戦略論をふりだしに戻しました。彼らの業績を『 マンガ 経営戦略全史〔新装合本版〕 』(三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画)から抜粋してお届けします。
34歳 『マネジャーの仕事』でマネジメントの実像を描く
55歳 『戦略計画 創造的破壊の時代』で定型的プランニングを否定
59歳 『戦略サファリ』で経営戦略論の歴史と全体像を示す
65歳 『MBAが会社を滅ぼす』で旧来のMBA教育を批判
状況に応じて2つをきちんと統合せよ
●「ポジショニング重視」か「ケイパビリティ重視」か。その答えはどちらにもなく、「場合による」と主張したのが、ヘンリー・ミンツバーグたちカナダ・マギル大学の一派でした。
●『 戦略サファリ 』(1998、邦訳は東洋経済新報社)で彼らはそれを「コンフィギュレーション」と呼び、例えば企業の発展段階(発展 → 安定 → 適応 → 模索 → 革命)に応じて、戦略や組織のあり方やその組み合わせ方は変わる、と論じました。発展期にはポジショニング重視、安定期にはケイパビリティを重視して強化し、模索期にはラーニング論で方向性を探り、革命期にはアントレプレナー論で一気の変革を目指す、という感じです。
●いや、それすらきっと状況次第なのです。その企業の置かれている環境や、ケイパビリティ次第で「何を重視するのか」には千差万別の答えがあり得ます。変革を、トップダウンで行うのか、ボトムアップで行うのか。それすら定型的な判断基準などなく、その企業のトップ次第、マネジャー次第、与えられる時間次第なのです。
答えはすでにアンゾフが出していた
●「状況に合わせてポジショニングとケイパビリティをきちんと整合・統合させるべき」という考えは、実はすでにアルフレッド・チャンドラーやイゴール・アンゾフたちがその20年前から熱心に唱えていました。アンゾフの『戦略経営論』が出されたのは1976年。規制緩和・欧州市場統合・オイルショック、と企業が置かれた状況の困難さは、世紀末と同様でした。ドラッカーが『断絶の時代』(1969)で予言したとおり、不連続な「乱気流」の時代になったのです。
●それを乗り切るには、「環境」「ポジショニング」「ケイパビリティ」は整合していなくてはなりません。しかし、もし自分たちの事業環境が、急速に変化しようとしているのなら、ケイパビリティの変革を急ぐべきだとアンゾフは言っています。組織は戦略ほど急には変われない。だから、必ず戦略は失敗する。そうならないためには、組織(ケイパビリティ)を先に変えてしまおう、というわけです。
ミンツバーグ、戦略論をふりだしに戻す
●ミンツバーグは、学究の徒でありながら、徹底的に実務・事実を重視しました。その出世作は『 マネジャーの仕事 』(1973、邦訳は白桃書房)です。彼は現実のマネジャーにへばりついてその仕事を詳細に観察することで、古典的経営論の常識を否定しました。
- 企業でもっとも大切なのはリーダーではなくマネジャー。マネジャーたちの無数の意思決定や行動が企業の活動を支えている
- マネジャーの仕事は断片的で瞬間的で雑多。その判断は「直感」によってなされている
●彼は『戦略クラフティング』(1987)で「よきマネジャーは教室では育たない」「よき戦略は机上で定型的には生まれない」と結論し、「戦略はパターン化できない」「創発的に生まれるもの」「状況次第で組み合わせよ」と叫んだのです。そして経営戦略は、ハーバード・ビジネス・スクール(HBS)のケネス・アンドルーズたちが信じていた「アート」(もしくは手工芸=クラフト)に戻りました。
シナリオ/星井博文 画/飛高翔 編集協力/トレンド・プロ
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三谷宏治・著/星井博文・シナリオ/飛高翔・画/日本経済新聞出版/2090円(税込み)