7月25日に沖縄で開業する注目の新テーマパーク「ジャングリア」。プロジェクトをけん引してきたのは、再生の旗手、希代のマーケターとして知られる森岡毅氏だ。数学という科学的見地からのマーケティングに強みを持つ、刀率いる森岡氏。数学的な裏付けで450億円の巨額投資に踏み切ったユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の「ハリー・ポッター」エリア開業は入場客数を激増させ、「ホームラン」となった。『森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像』(中山玲子著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする(本文敬称略)。

 ハリー・ポッターエリアへの巨額投資は、当時の森岡にとって史上最大の賭けであり、挑戦でもあった。

 現・刀CIO(最高インテリジェンス責任者)の今西聖貴とそれぞれ開業によって増える入場客数を予測。その結果から、少なくとも200万人の入場客を呼び込める可能性はかなり高い――。森岡はそう読んだ。

売上高44%増、営業利益は61%増に

 「ハリー・ポッター」エリア開業当時のUSJの入場券は大人1人6980円。入場客が年間200万人増えるとその効果は、入場料金だけでも単純計算で140億円にのぼる。

 あらゆる角度から需要を計算し、緻密な予測を立てる。450億円の投資に対し、森岡が回収できるとみた額は1000億~2000億円。明らかに投資額より需要が上回る未来が見えていた。

 「客数は必ず大きく伸ばせる」

 数学マーケティングを使った予測を基に訴え続け、最終的に同意を取り付けた。USJは社運を賭けた大型投資を断行し、2014年7月にハリー・ポッターのエリアをオープン。開業1年で入場客数は290万人増え、16年の年間入場客数は10年比で2倍近い1400万人超になった。

USJが450億円の巨額を投じた「ハリー・ポッター」エリア開業は客数を大幅に増やした(写真=共同通信)
USJが450億円の巨額を投じた「ハリー・ポッター」エリア開業は客数を大幅に増やした(写真=共同通信)

 「ハリー・ポッター」エリア開業年となった14年度のユー・エス・ジェイの業績は、売上高が前年同期比44%増の1385億円、営業利益は61%増の390億円増と大幅な増収増益となり、いずれも過去最高を記録した。

 13年に250億円を投じてUSJの株式を取得したアジア系ファンドのPAGは17年にエグジット(投資回収)。同社マネージングディレクターの橋本昭紀は、「(リターンが数倍超となる)ホームラン案件だった」と振り返る。USJが米メディア大手のコムキャストの傘下に入った15年時点で、企業評価額は約7000億~8000億円になっていた。07年の上場時の約7倍だ。

 PAGは12年、日本でプライベート・エクイティファンドを立ち上げたばかり。USJの株式取得はその第1号案件だった。

 最終的に大きなリターンを生んだ案件だったものの、ハリー・ポッターエリアへの巨額投資に対しては、USJ社内で幹部らがすぐに首を縦に振らなかったように、PAGも「当初は非常に懐疑的だった」(橋本)。

 日本全国を見渡しても、首都圏にある東京ディズニーリゾートは例外として、当時、地方のテーマパークで成功した例はほとんどなかった。USJが厳しい運営を余儀なくされてきた経緯も見てきた。

 それでも株式取得を決めたのは、森岡ら経営陣が緻密な数字による予測をして、「目標とする結果になる可能性が高いと考えた」からだ。「テーマパークという特殊なビジネスが数式で説明され、金融の世界にいる私たちにも理解しやすかった」と橋本は振り返る。

PAG「ハウステンボス買収は、刀と組んで構想が始まった」

 そしてPAGが、再び「ホームラン」を狙うのがハウステンボス(長崎県佐世保市)だ。

 22年9月、エイチ・アイ・エス(HIS)と地元企業から約1000億円で買収した。PAGの橋本は「刀と組んでやりたいと考え、始まった構想。彼らと一緒につくった経営戦略を踏まえて買収を決断した」と明かす。

 保有期間はUSJのときよりも長く「5年以上」を想定する。長期保有で企業価値を最大限に高め、2発目のホームランを狙う考えだ。企業価値をどこまで引き上げられるか。国内3位のテーマパークの復活に注目が集まる。

(つづく)

日経ビジネス電子版 2025年1月15日付の記事を転載]

希代のマーケターとして知られる森岡毅氏の強さの根源を日経ビジネス記者が徹底解剖。挫折を経験した森岡氏はどのようにして立ち直ったのか。快進撃の背景にある、森岡氏率いる100人の異能集団「刀」とは?マーケティングだけでなく、森岡流の組織論やリーダー論も学べる1冊!2024年12月発売。

中山玲子著/日経BP/1870円(税込み)