7月25日に沖縄で開業する注目の新テーマパーク「ジャングリア」。プロジェクトをけん引してきたのは、再生の旗手、希代のマーケターとして知られる森岡毅氏だ。誤差1%と高精度の需要予測を導き出す森岡氏率いる刀の数学マーケティング。森岡氏は、基となるデータの使用で留意すべきは「保守的であること」と強調する。『森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像』(中山玲子著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする(本文敬称略)。
森岡毅が率いるマーケティング集団「刀」のインテリジェンスチームは細かな分析を担うが、大きな視点からも正しさを追求している。
「人間は感情の生き物であるとの前提に立つ」
インテリジェンスチームの河合桃子はこう強調する。
会社のエゴ、経営者のエゴから生まれた事業やアイデアではないのか。何らかの利害関係によって判断がゆがめられていないか。担当者であるあまり、感情が入りすぎて事業の見通しが甘くなっていないか――。
どこの会社にもありそうな事例に対し、刀のインテリジェンスチームは「本当に正しい意思決定ですか」「本質的に正しいですか」と問い続ける。
たとえ流行していても、グランピング施設にサウナは導入しない
例えば、刀が運営するグランピング施設「ネイチャーライブ六甲」。同施設の立ち上げ時、世間ではサウナが流行していた。全国の他のグランピング施設ではサウナ導入によって集客につなげている事例が多くあり、同施設でもサウナ導入案が浮上した。
だが、数カ月にわたって議論や検証をした結果、サウナは施設の体験価値をさらに高めるものにはならないと判断。ネイチャーライブ六甲では、六甲山の中だからこそできる、緑の自然の中でアウトドア料理を客が作る体験などにフォーカスすべきとの結論に至った。
安易に流行に流されず、施設の本質的価値とは何かを考えて投資を判断する。インテリジェンスチームは、常に目の前の提案が正しいのか、疑問を投げ続ける。

「需要予測は保守的でなければならない」
21世紀は「データの世紀」と言われる。足元では生成AI(人工知能)の活用も進んでいる。あらゆる企業がこの波に乗り遅れまいとAIを積極的に導入するが、データを選ぶプロセスで主観が入っていないか。そもそも、AIにどんなデータを入れるかは人間に委ねられている。
「需要予測のモデルは修正を重ねるので、昨日よりも今日はより賢くなる。そして明日はもっと賢くなる」
森岡の言葉だ。そしてこうも言う。
「失敗したプロジェクトのデータほど早く消される傾向にある。本来、こうしたデータもAIに食わせる必要があるが、実際は、都合のいい偏ったデータしか食わせていないことが多い」
実態と異なるデータを森岡は「毒入りデータ」と呼ぶ。そんなデータが導き出すのは上振れした予測だ。楽観的なデータを基にした予測は楽観的になる。「需要予測は保守的でなければならない」と森岡は数字に厳しい。
正しいデータを入れれば日々、需要予測は進化する。インテリジェンスチームとマーケターが意思疎通を重ねながら、刀の需要予測は日々磨きをかけ、高い精度を導くようになっていく。
かつて「かわいいが分からない」と悩んだマーケターは、人とは異なる得意分野を活用し、別ルートでさらなる高みを目指した。挫折をバネに唯一無二のスキルを身に付けた森岡は、いつしか希代のマーケターと呼ばれるようになった。
(つづく)
[日経ビジネス電子版 2024年1月22日付の記事を転載]
中山玲子著/日経BP/1870円(税込み)
