森岡毅氏率いる刀(大阪市)が主導し、沖縄北部に7月25日に開業するテーマパーク「ジャングリア」。運営会社ジャパンエンターテイメント(沖縄県名護市)のCEO(最高経営責任者)で、刀の創業メンバーでもある加藤健史氏に、『森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像』著者が、今後の成長イメージを聞いた。

最初の3年が重要

森岡さん率いる刀はこれまでも多くのテーマパークの再生を手掛けてきましたが、ジャングリアはゼロからつくり、かつ総事業費は700億円超と規模も大きいですね。どのようにして軌道に乗せていきますか。

加藤健史・ジャパンエンターテイメント代表(以下、加藤氏):最初の3年間が特に重要であると考えています。私たちがつくったエンターテインメントが、消費者に価値となってきちんと届くのか。試行錯誤しながらつくり上げていかなければなりません。

 従業員がお客さまを誘導し、安全を確認してアトラクションに乗ってもらい、体験を終えて戻ってきたら、また次の人が乗る。こうした作業一つをとっても、決して簡単ではありません。従業員がお客さまにどう働きかければ、体験価値が上がっていくのか。取り組むほどに従業員の処理能力が向上して、お客さまの待ち時間を短くできるでしょう。こうした作業に永遠に繰り返して取り組み、顧客満足度を高めていく必要があります。

 必ずしも完成に3年の時間を要するということではありません。ただ、取り組むほどにサービスの質を高めていく必要があります。私はユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)の開業も経験しています。その経験上、最初の3年というのは一つの重要な期間であると思います。

7月に沖縄北部に開業するジャングリア(写真=ジャパンエンターテイメント)
7月に沖縄北部に開業するジャングリア(写真=ジャパンエンターテイメント)

刀の強みは、データを駆使して最適な価値を提供する数学マーケティングです。積極的にデータ活用をしますか。

加藤氏:開業前にももちろんトライアルをしますが、開業後にはデータがたまっていきます。データを読み込んで分析する。そこからプランを見直して、さらに次のアクションを起こす。こうしたPDCA(計画・実行・評価・改善)を週単位で、かつ高速で回していきます。その中で、私たちのエンターテインメントをつくり上げるための勝ち筋が見えてきて、手順がフィックスしていくことになるでしょう。

 周辺の交通状況についても、1年もたてばかなりのデータがたまってくる。この時期には訪日外国人や地元のお客さまはどの程度であるのか。また何月何日は何人のお客さまが来られるのか。予測との差が小さくなるほど、空港とパークをつなぐシャトルバスのあるべきダイヤ設定も見えてきます。

10年後のイメージを教えてください。

初年度収益が次のステップの試金石に

加藤氏:今年の開業部分のエリアは約60万平方メートルで全体の敷地面積としては120万平方メートルあります。この中でお客さまの消費額を上げるには、2つのアプローチがあります。まずはパークでより長く滞在してもらうこと。もう1つは、来ていただけるための他の目的も用意してより多くのお客さまに来ていただくことです。

 後者は既に取り組んでいて、例えばスパはパーク以外の目的になり得ると捉えています。テーマパークとスパの両方を利用するお客さまもいればスパだけを利用されるお客さまもいる。このように、異なる目的で来られるお客さまを増やすため、ホテルや商業施設をつくることは選択肢としてあり得ます。

1976年生まれ。早稲田大学卒業後、2000年にユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)。開業前より新規アトラクションを複数立ち上げ、高効率なオペレーション開発に従事。飲食・物販部門でも売り上げ予測モデルを開発。USJ時代から沖縄パーク開発に関わる。刀の創業メンバーで取締役。「ジャングリア」を運営するジャパンエンターテイメントCEO(写真=吉成 大輔)
1976年生まれ。早稲田大学卒業後、2000年にユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)。開業前より新規アトラクションを複数立ち上げ、高効率なオペレーション開発に従事。飲食・物販部門でも売り上げ予測モデルを開発。USJ時代から沖縄パーク開発に関わる。刀の創業メンバーで取締役。「ジャングリア」を運営するジャパンエンターテイメントCEO(写真=吉成 大輔)

残りの敷地は2つ目のテーマパークをつくることもあり得るし、宿泊施設や商業施設を建てる可能性もあるのですか?

加藤氏:その通りです。最も重要なのは、動線をうまく設計して多くの消費が落ちる仕組みをつくることです。まずは北側の60万平方メートルで開業しますが、残りの南側の60万平方メートルにも手を加えると、人の流れは変わっていく。今あるものをこのままにし続けるのでなく、収益が上がるように少しずつ変化させ、将来に向けて大きく成長させていきます。

残りの敷地に着手するのはどのタイミングでしょうか。

加藤氏:初年度の収益と集客が次のステップを考えるべきか否かの大きな試金石になるのは間違いありません。

(写真=吉成 大輔)
(写真=吉成 大輔)

ジャングリアの運営会社であるジャパンエンターテイメントは初年度から黒字化を目指しますか。

加藤氏:もちろん黒字化を目指します。ただ、1年目は、想定外に起こることに費用をかけることも満足度を担保させるには必要だと考えています。利益が出にくいことが起きるかもしれませんが、同時に効率化も進めます。おしなべて1年間で利益が出るようにしていきたいです。

「旅先で選んでもらう集客施設」

ジャングリアは都市型テーマパークである東京ディズニーリゾート(TDL)やUSJとはどう違いますか。

加藤氏:後背地人口が非常に多い首都圏や関西圏とは市場の大きさが異なるので、まず数で勝負することはありません。TDLやUSJは(首都圏や関西圏に住む人々が)週末のレジャーの行き先として意思決定されるテーマパークです。

 それに対して、ジャングリアは旅先の集客施設になります。つまり、旅の行き先、具体的には沖縄に行った先で訪問したいと思っていただけるテーマパーク。ジャングリアは沖縄に来られる旅行者の中で回るビジネスモデルとして設計しています。そこがTDLやUSJとの大きな違いです。

そういったつくり方のテーマパークは世界に存在するのでしょうか。

加藤氏:ないでしょう。需要予測の下でその範囲でできるビジネスとして投資するという「鉄のおきて」の中で成立するとの結論に至ったのがジャングリアです。

 (新型コロナウイルス禍前には)沖縄県には年間1000万人超の観光客が訪れていました。そういった観光客が3泊4日で旅行する際、どうすれば選ばれるのかといった観点からスタートさせるのがジャングリアの事業です。

日経ビジネス電子版 2025年2月3日付の記事を転載]

希代のマーケターとして知られる森岡毅氏の強さの根源を日経ビジネス記者が徹底解剖。挫折を経験した森岡氏はどのようにして立ち直ったのか。快進撃の背景にある、森岡氏率いる100人の異能集団「刀」とは?マーケティングだけでなく、森岡流の組織論やリーダー論も学べる1冊!2024年12月発売。

中山玲子著/日経BP/1870円(税込み)