開業が2025年7月に決まった沖縄北部のテーマパーク「ジャングリア」。だが、10年以上前、森岡毅氏のそうした構想を笑うものは少なくなかった。『森岡毅 必勝の法則 逆境を突破する異能集団「刀」の実像』(中山玲子著、日経BP)から一部を抜粋してお届けする(本文敬称略)。

 「極めてシンプルに表現すると、刀が目指すのは、日本の食いぶちをつくる会社になること」

 森岡はそう断言する。

 森岡毅が率いるマーケティング集団、刀(大阪市)の事業は、大きく3種類。「イマーシブ・フォート東京」や「ジャングリア」といった自社が主になって手掛けるテーマパーク事業に、既存企業を対象としたコンサルティング事業。そしてオンライン診療サービスの「イーメディカル」のような価値創造を主眼に置いた事業だ。一見、脈絡を感じさせないが、共通するのは「日本を強くする」目的があることだ。

 背景には、30年以上も停滞が続く日本経済への危機感がある。

 「(高度成長期に築いた)親たちが築き上げた財産が大きかったから、今も変化せずとも食べていける。多くの産業で、新しい事業を生み出すより、既得権の中で稼いだ方がいいという考えがある」と森岡は指摘する。

 高度経済成長期に日本を支えた電機業界はアジア勢に敗れ、自動車業界もかつての勢いはない。バブル経済の絶頂期は世界の時価総額ランキングの上位に多くの日本企業が入っていたが、今となっては日本一のトヨタ自動車でさえトップ10に遠く及ばない。

 上位を占めるのはアップルやマイクロソフトなど米テック企業。新陳代謝が進み、大きな産業が育っている米国とは対照的に、日本の産業構造は高度経済成長期とほとんど変わらない。

 「製造業への一点集中によってこれまで日本経済は支えられてきたが、時代は変わった。私たちが新しい事業をつくらなければならない」(森岡)

 このままでは日本の将来を支える産業がなくなってしまう。その危機感が、森岡を動かしている。

冷笑された沖縄プロジェクト

 「片道4時間圏内に20億人もの人口を抱える沖縄には、ハワイを超えるポテンシャルがあります」

 15年春、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のCMO(最高マーケティング責任者)だった森岡は当時、CEO(最高経営責任者)のグレン・ガンペルと共に東アジアの地図を見せながら説明していた。

 相手は当時の官房長官、菅義偉。この頃、USJが目指していた第3のテーマパーク構想についてだった。のちに、森岡が創業した刀によるジャングリア構想につながる話だ。

沖縄振興に注力してきた菅義偉は森岡や刀の志に共感する(写真=的野弘路)
沖縄振興に注力してきた菅義偉は森岡や刀の志に共感する(写真=的野弘路)

 政府として沖縄振興を目指す立場にあった菅はこのときのことを「非常に印象に残っている」と振り返る。森岡の話は腑に落ちた。自らが描く沖縄の未来にも合致し、菅は記者会見でもUSJの沖縄進出を支援する姿勢を示した。

 だが当初、森岡の構想には笑う者も少なくなかった。

 「沖縄がハワイを超えるなんて無理」

 ある者はそう言って冷笑した。しかも、沖縄県で立地を目指すのは、観光客でにぎわう南部ではなく、未開発な地域が多い北部。鉄道も整備されていない。普通なら、立地がいいとは言えないこうした場所にテーマパークをつくろうとは思わないだろう。

バタフライエフェクトを起こす

 森岡や刀の見方は異なる。

 自ら先陣を切って巨額の案件に挑むことで、ジャングリアを起点に周辺に経済効果を波及させるのが狙いだ。観光客が増えれば、交通機関が整備され、ホテルや商業施設が増える。そこまでを見通している。テーマパークをつくることや刀がもうかることだけが目的なら、この立地につくる発想にはならない。目指すのは、沖縄、そして日本に新たな食いぶちをつくることだ。

鳥の巣を模したレストランから絶景を見下ろせる(写真=ジャパンエンターテイメント)
鳥の巣を模したレストランから絶景を見下ろせる(写真=ジャパンエンターテイメント)

 「蝶が羽ばたいて、ひとつパッと揺らぎが起こったら世界が変わる“バタフライエフェクト”という現象がある。私たちは、そういった変化の起点をつくりたい」(森岡)

 日本を強くする大義にかなうプロジェクトでありながら、独自のマーケティング手法を用いると沖縄北部が発展する未来も見えた。「沖縄は日本で最も伸びしろがある地域」(森岡)。新型コロナウイルス禍の影響を除けば、沖縄県の観光客数推移は右肩上がりの傾向にある。19年に記録した1000万人の大台を再び突破するのは時間の問題だろう。森岡や刀は沖縄に大きなポテンシャルを感じている。

(つづく)

日経ビジネス電子版 2025年2月7日付の記事を転載]

希代のマーケターとして知られる森岡毅氏の強さの根源を日経ビジネス記者が徹底解剖。挫折を経験した森岡氏はどのようにして立ち直ったのか。快進撃の背景にある、森岡氏率いる100人の異能集団「刀」とは?マーケティングだけでなく、森岡流の組織論やリーダー論も学べる1冊!2024年12月発売。

中山玲子著/日経BP/1870円(税込み)