数多くの著名経営者をクライアントに持ち、伝説的なエグゼクティブ・コーチであるマーシャル・ゴールドスミス氏。『 コーチングの神様が教える「できる人」の法則 』『 トリガー 6つの質問で理想の行動習慣をつくる 』などの著者でもある同氏に、変化の激しい時代における、リーダー・マネジャーの心構えや部下・同僚とのコミュニケーションで大切にすべきことなどを3回にわたって聞きました。今回は第1回。動画と記事でお届けします。
リーダーシップはより重要に
このたび、『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』は、約15年ぶりに文庫本となりました。その間、ビジネスリーダーの世界はどう変わったのでしょう?
マーシャル・ゴールドスミス氏(以下、ゴールドスミス) 『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』は、2007年に刊行された本ですが、おかげさまで今も多くの方々にご愛読いただいています。米企業CEOを対象とした調査ではこれまでに読んだビジネス書ベスト10の1冊に選ばれています。ロングセラーになったことに私自身が大変、驚いています。
刊行から15年以上がたち、確かに世の中は変化しました。ただ、1つ言えることは、リーダーシップの行動面における重要性が低くなったわけではないということです。むしろ、より重要になっています。今日、リーダーの発言はすべてインターネットに載せることができます。ソーシャルメディアの重要性も、15年前よりもずっと高まっています。リーダーは、自分の行動、見た目、話し方に、特に注意しなければなりません。
すべてのリーダーが直面する集中力という課題
ゴールドスミス 新型コロナウイルス禍で、私は友人のマーク・トンプソンをはじめ60人の素晴らしい仲間と600時間を過ごす機会に恵まれました。その折に互いの人生について語り合いました。そこでの重要な話題の1つは、話し方に敏感になることの大切さでした。直属の部下や周囲に、より繊細に振る舞うことが、これまで以上に求められているということです。
加えて、リーダーが今、かつてないほど直面しているのが「集中力」の問題です。仕事の合間にソーシャルメディアを見るなど、同時並行的に様々なことをこなす中で、私たちの注意力はそがれ、集中力を維持して働くことがとても難しくなっています。
私が書籍で伝えてきた自分を律する術(すべ)は、欠かせません。毎日、自分の人生を見つめ、日々の規律について考えたり、集中し続けたりすること自体が、以前よりもずっと難しくなっています。そのことが、今日のリーダーシップをこれまでになく難しいものにしているのです。
『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』の原題は、「これまでのやり方では、この先には行けない」というものです。もし、あなたがこれまで以上の成長を遂げたいならば、「コミュニケーションの仕方を変えなさい」という、書籍を通じて私が伝えてきたメッセージは、時を経て、ますます重要になっています。
マネジャー、リーダーにとって、コミュニケーションの面で、今、いちばん大切なことは何でしょうか?
ゴールドスミス 過去10年で起きた大きな変化の1つは、オンラインコミュニケーションが非常に重要になったことでしょう。多くの人はオフィスに行かず、オンラインでコミュニケーションを取ります。上司との対面でのやり取りは、ほとんどの人にとって以前より少なくなりました。でも、コミュニケーションの重要性が減ったわけではありません。むしろ、その重要度は増しています。
なぜか? コミュニケーションがより難しくなっているからです。
いつも周りに人がいれば、コミュニケーションは取りやすい。そばにいないで仕事をするようになると、「我々はどこへ向かっているのか?」「ミッションは?」「目標は?」「このより大きなミッションにどうやって合致させるのか?」「何がうまくいっているのか?」「より良くするために何が必要か?」など、物事をより明確にすることが求められます。
マネジャーたちは、オンラインでどんな手助けができるかに焦点を当て、手を差し伸べようとしているでしょうし、私が書籍で伝えてきたコミュニケーションに関するメッセージは、オンラインでもそのまま通じるものです。
マネジャーは、自分の発言の受け取られ方について、より意識的になる必要があるということです。なぜなら、オンラインの世界では、好むと好まざるとにかかわらず、発言などを簡単にコピーでき、記録ができ、誰かに送ることができます。言葉に加えて、非言語(ノンバーバル)コミュニケーションもより重要になってきます。
部下にはケアの気持ちをもって向き合う
『コーチングの神様が教える「できる人」の法則』では、マネジャーがつい言ったり、やったりして、部下のやる気をそいでしまう「20の悪い癖」について言及されています。
ゴールドスミス 私たちのコミュニケーションの多くは、何を話すかという内容だけでなく、どう見られているかということが、同じくらい重要なのだということです。例えば、経営者は座って、次から次へと部下からのプレゼンに耳を傾けなければなりません。プレゼンの前後もずっと忙しいし、部下からのプレゼンはおそらく20回くらい見たことがあるような内容です。聞きながら、「そのプレゼンはもう何度も見ているから先に進めて」とつい言いたくもなる。でも「相手の話をよく聞かない」のは、成功した人によくある「20の悪い癖」の一例です。
私があらゆるリーダーに伝えたいのは、「常に思いやり、ケアの気持ちをもって対応するように」ということです。たとえ、以前に聞いたことのある内容だったり、退屈なプレゼンであったりしても、ぐっとこらえてその感想を脇に置いておく。そして、部下の話にしっかり耳を傾ける。思いやりをもち、部下に対して、しっかりと「ケア」しているということを態度で示す必要があります。それが偽物ではない、リーダーとしてのプロの仕事なのです。
(第2回に続く)
協力/ビジネスコーチ株式会社 取材・構成/三田真美 撮影/近藤豊
『 コーチングの神様が教える「できる人」の法則 』
トップ・エグゼクティブコーチとして活躍している著者が、いかに自らの悪癖を乗り越え、部下を育て、さらに自分の能力を発揮していくかをステップごとに解説する。コーチング体験から得られるステップごとに示され、非常に読みやすく、読みながら自分の悪癖を把握できる。
マーシャル・ゴールドスミス、マーク・ライター著/斎藤聖美訳/日本経済新聞出版/1210円(税込み)
『 トリガー 6つの質問で理想の行動習慣をつくる 』
肥満、喫煙、朝寝坊、先延ばし、短気……こうした悪弊や悪習慣を直すにはどうすればよいか。自らに決定的な問いを投げかける「アクティブ・クエスチョン」を体得して、自分の問題に気づき、行動を変えやすくするセルフ・コーチングの手法をわかりやすくまとめた。
マーシャル・ゴールドスミス、マーク・ライター著/斎藤聖美訳/日本経済新聞出版/1210円(税込み)


