数多くの著名経営者をクライアントに持ち、伝説的なエグゼクティブ・コーチであるマーシャル・ゴールドスミス氏。『 コーチングの神様が教える「できる人」の法則 』『 トリガー 6つの質問で理想の行動習慣をつくる 』などの著者でもある同氏のインタビュー第2回。自分の悪い習慣を変えることの難しさをいかに克服するか。意志が弱くてもかまわないという意外なアドバイスが返ってきました。動画と記事でお届けします。

第1回 「【動画付き】『コーチングの神様』に聞くリーダーの役割」

毎日6つの質問を投げかける

『トリガー 6つの質問で理想の行動習慣をつくる』では、悪い習慣や行動のトリガー(引き金)を分類し、改善につながる日課の質問について詳しく書かれていますね。

マーシャル・ゴールドスミス氏(以下、ゴールドスミス) 私たちは、企業内での質問の仕方について数多く調査してきましたが、本来、意味ある仕事をするには、明確な目標が必要なのに、多くの企業では、受け身的な問いが立てられていることが分かりました。そこで、『トリガー』で触れた6つの日課の質問を開発したのです。実は、これは娘から学びました。

 娘のケリー・ゴールドスミス博士は、イェール大学で博士号を取得し、質問やリサーチについて熟知しています。ある日、娘から何気なく、「“私は最善を尽くしたか?”というフレーズで始まる積極的な質問をみんなに教えてあげて」と言われたのです。

 そして、「明確な目標を設定するために、私は今日、最大限努力したか?」といった定型の質問を毎日6つ自分に投げかけたところ、驚くほどポジティブな結果が得られたのです。私たちの調査では、日々6つの質問を自分に投げかけている人の34%が、「すべてにおいて改善」と答えたのです。ほぼ3分の2の回答者が「4項目で改善」、91%が「何かしら改善」、約9%は「変化なし」でした。

 悪くなった人はほとんどいません。なぜでしょうか? この6つの質問は、毎日、人生において、自分で完全にコントロールできるたった1つのこと、すなわち、「私は、最大限努力したか?」ということに気づかせてくれるからです。

「最善を尽くしたかどうか」に気づく質問

とはいえ、行動を変えたくても変われない、意志の弱い自分がいます。そういう人はどうしたらよいのでしょうか?

ゴールドスミス 私がときどき受ける質問の1つは意志力についてです。「行動を変えたり、新しい習慣を身につけたりすることの重要性は分かるが、それには多くの規律や強い意志力が必要なのでは?」という質問です。実際には、強い意志力など必要ありません。

 では、どうすれば、うまくいくのか? 私自身についてお話ししましょう。なぜかというと、私はこの25年間、先の6つの日課の質問を実践できるようにするために、ほぼ毎日、他の人から電話をもらっているからです。

 「こんにちは。私の名前はマーシャル・ゴールドスミスです。私は臆病者なうえに、自らを律して何かをすることはできない意志の弱い人間です。自力で達成することは難しいので助けが必要です」「それで大丈夫だよ」というわけです。

「自分で何でもできる」が行動を阻む

ゴールドスミス くだらない意志力や「自力でこなす」という無駄な考え方を乗り越えれば、人生は良くなります。実際に、「自分で何でもできる」というのは、新たな行動を阻むトリガーの1つです。世界のトップ10に入るテニスプレーヤーのうち、何人がコーチをつけているでしょう? 10人全員です。なぜ、彼らはコーチをつけるのか? なぜ、人々はパーソナルトレーナーを雇うのでしょう? 誰も自分ひとりではやろうとしません。助けが必要なのです。

 「どうすれば、意志力不足の問題を克服できますか?」というのは素晴らしい質問ですね。でも、現実的な答えは、「助けを得ること」です。自分ひとりでできるかどうかは、あなた次第です。私の場合、自力では無理なので助けが必要です。あなたも助けが必要なのに、なぜ自分に期待するのでしょうか?

 「なぜ、誰かに助けてもらうんですか? 理論を知らないんですか?」と聞かれることもあります。理論は私が書いていますから、十分に理解しています。そして、実践がどれだけ難しいかも知っています。ですが、私だって他の人に手伝ってもらう。誰かに手伝ってもらうことができれば、行動習慣を変えることに成功する確率はぐんと上がるのです。

「『自分で何でもできる』というのは、新たな行動を阻むトリガーの1つ」と話すゴールドスミス氏
「『自分で何でもできる』というのは、新たな行動を阻むトリガーの1つ」と話すゴールドスミス氏
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自分のアイデンティティーを変える

自分の行動を変えたいときに注意すべき点を教えてください。

ゴールドスミス 次のような質問をよく受けます。「自分の行動を変えるというのは、自分を偽ることにはならないんですか?」と。私たちは自分をステレオタイプ化する傾向があり、「今の私は、本当の自分だろうか?」という思い込みを持ちがちです。人生を旅する本当の自分がいて、もし、本当の自分と違う行動をとれば、今の自分はニセモノで、現実を生きていない、という思い込みです。

 私は、この思い込みを打破したいと思っています。例えば、「私は人の話を聞くのが苦手なんです」と言う人がいます。「どうして、人の話を聞けないんですか? 耳に何か詰まっていたんですか?」と聞くと、「まあそうですかね」と言うのです。

 そういう人は、自分という人間の定義をもう少し変えてみる必要があります。私たちは皆、自分を何らかの箱の中に押し込めて、それが本当の自分だと言うのです。私は、コーチングする相手に、「どうして、それが本当の自分でなければならないんですか」と尋ねてきました。

 本当の自分というのは、子供の頃から聞かされてきた自分についての物語の積み重ねにすぎません。それなのに私たちは大人になって、その物語を思い込んでしまっています。

 それは、変われないことの理由にはならないのです。遺伝的な要因でない場合は、変えられる可能性があります。人はどんな行動も変えることができ、その行動を自分のものにすることができます。行動変革において大切なのは、行動を変えるだけでないのです。自分のアイデンティティーを変えることが重要なのだと理解することです。

 例を挙げてみましょう。あなたは自分を聞き下手だと思っています。1年半の間、一緒に働き、あなたはずっと聞き上手になりました。もし、私があなたのアイデンティティーを理解する手助けをしなければ、あなたは、今の自分は本当の私ではなく、本当の私は聞き下手なんだと、引き続き思ってしまうでしょう。

 そうではないんです。今、そこにいる自分が本当のあなたです。問題は、自分を箱に入れ、何かの枠にはめ込まないこと。「いつもの自分だと、こうなんです」と言う必要はまるでないのです。それが自分のあり方だと考えている限り、私たちは、いつもの自分のままになってしまいます。

 あなたがリーダーになって、自分らしさを求めることには、誰もお金を払いにきてはくれません。あなたがプロフェッショナルに値するからこそ、リーダーとしての報酬を払うのです。あなたはその仕事で、プロらしく行動する必要があります。お金をもらっているのですから。あなたは、自分の感情のおもむくままに行動するために給料をもらっているわけではないですね。偉大なリーダーたちのように行動するように、とお金をもらっているのです。

 私がこれまで働いてきた偉大なリーダーたちは、決して自分に制約を課そうとはしませんでした。彼らは、なるべき自分になっている。そして、彼らはリーダーとしての役割を果たして、素晴らしい仕事をしているのです。

(第3回に続く)

協力/ビジネスコーチ株式会社 取材・構成/三田真美 撮影/近藤豊

人間関係を劇的に好転させる「20の悪い癖」の発見・改善テクニック!

トップ・エグゼクティブコーチとして活躍している著者が、いかに自らの悪癖を乗り越え、部下を育て、さらに自分の能力を発揮していくかをステップごとに解説する。コーチング体験から得られるステップごとに示され、非常に読みやすく、読みながら自分の悪癖を把握できる。

マーシャル・ゴールドスミス、マーク・ライター著/斎藤聖美訳/日本経済新聞出版/1210円(税込み)
コーチングの神様が教える、なりたい自分になるための6つの質問とは?

肥満、喫煙、朝寝坊、先延ばし、短気……こうした悪弊や悪習慣を直すにはどうすればよいか。自らに決定的な問いを投げかける「アクティブ・クエスチョン」を体得して、自分の問題に気づき、行動を変えやすくするセルフ・コーチングの手法をわかりやすくまとめた。

マーシャル・ゴールドスミス、マーク・ライター著/斎藤聖美訳/日本経済新聞出版/1210円(税込み)