2026年1月、長期金利は急上昇しているが、これは高市政権による積極財政への懸念からなのか。書籍『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』(佐々木融 著)から抜粋・再構成。
なぜ、これまで巨額の国債発行を続けられたのか
政府債務残高の大きさをめぐる議論の中には、政府の利払い費の対GDP比で見るべきとの意見もあります。この比率も日本はG7の中で低い方となっています。ただ、これをもって日本の財政は健全だと考えるのも問題があります。むしろ日本は逆の意味で、この点に真剣に目を向けていくべきなのです。つまり、なぜ利払い費が少ないのかという点が重要なのです。
日本の国債発行は長年、日本銀行の超低金利政策と積極的な国債購入に支えられてきました。その結果、短期金利から長期金利に至るまで金利が異常なまでに低く抑えられてきたため、債務残高が大きくなっても、国債保有者に対する利払い費が低く抑えられてきました。
つまり、利払い費の対GDP比が低いのは日銀の金融緩和政策のおかげです。少し細かく数字を見てみると、政府の利払い費は1990年代は概ね10兆円台で推移していました。
それが2000年代に入り急速に減少しています。ここ数年は若干増加していますが、2024年度は8兆円台と、1990年代よりは少ないままです。国債残高、つまり借金の額が5倍程度に急増しているのに、利払い費が減少している理由は明らかです。日本銀行による長期間に及ぶ超低金利政策と積極的な国債購入により、現在すでに発行されている殆どの国債の発行時の金利が超低金利となっているからです。
国の歳出に影響するのは、過去に発行した国債の償還費と利払い費です。国債発行残高が徐々に増加していく中、償還費も徐々に増加していました。ただ、利払い費は超低金利環境が長く続いたため減少していたのです。その結果、債務残高が膨らんでも全体ではそれほど問題にはならなかったのだと思います。そして、繰り返しになりますが、それは日本銀行が超低金利政策をずっと続けてきたからなのです。
長期金利の上昇は、高市政権による積極財政への懸念か?
そして、いよいよこうした政策の問題点が表面化してきました。長期金利の上昇です。市場参加者の中には高市政権による積極財政を懸念して長期金利が上昇しているという見方もありますが、私はあまりそうは思わず、単純に日本の国債市場が正常化の道を進み始めただけではないかと思っています。というのも、2006~2007年に日本銀行の政策金利が0.5%まで上昇した際の10年国債金利のピークも2%程度だったからです。政策金利は0.75%に引き上げられたのですから、10年金利が2%を超えても不思議ではありません。
それでは、なぜここにきて国債市場が正常化の道を進み始めたのでしょうか。答えはインフレ期待の変化なのではないかと思います。これまで日本では、多少インフレ率が上昇しても「いずれはデフレに戻るだろう」という考え方が支配していたと思われます。しかし、日本のインフレ率はすでに3年半もの間、前年比2%以上で推移していて、これほど長く2%以上のインフレ率が続いたことは過去40年間一度もありませんでした。
多くの人が今まで経験したことがないようなことが起きていると感じても無理はありません。つまり、日本人のインフレ率に対する考え方が、日本がデフレに陥る前の感覚に少しずつ戻っている可能性があります。インフレ率、あるいはインフレ期待がデフレ以前の世界に戻っていくのであれば、日本の金利水準もデフレ以前の世界に戻らなければならないということになります。日本銀行の政策金利は30年ぶりとなる0.75%まで引き上げられ、市場では2026年中に1.25%までの利上げの可能性も意識されています。日本の政策金利が1.00%だった1995年当時の日本の10年国債金利は、ほとんどの時間3%以上で推移していました。しかも当時の日本のインフレ率は前年比+1%以下でした。現在の方がインフレ率は圧倒的に高いですから、今後、日本の10年国債金利が3%以上に上昇しても何の不思議もありません。
これまでの放漫財政のツケを払わされる政府
仮に日本の金利上昇がこの程度で止まったとしても、これからの日本は今までのツケを払わされることになります。なぜなら、これから新たに発行される国債・借り換えのために発行される国債の発行時の金利は、すでに上昇した後の水準の金利で発行されることになるからです。金利がこれ以上上昇しなくても、同水準に維持されるだけで利払い費は毎年徐々に増えていきます。
ちなみに、すでに長期金利は上昇していますので、2026年度の政府予算案では利払い費は13兆円を超えて過去最大となっています。金利を実勢より高く見積もっているので、実際にはここまでは増加しないと思いますが、利払い費は着実に過去最高を更新していくと思います。また、ある程度機械的に試算した結果では、今後金利が1%上昇し、その水準で推移したとしても、2034年度には利払い費が34.4兆円となることになります。2024年度と比較すると、10年で3倍以上、25兆円程度増加することになります。
これは2025年度予算の消費税収と同じ額です。つまり、今後十分予想される程度の金利水準が10年程度続けば、利払い費の増加分で、現在の消費税収分が吸収されてしまうことになります。これが、超低金利だったことをいいことに借入額を無尽蔵に膨らませてきた日本が払わなければならないツケです。
今の日本で金利が上昇して困るのは政府です。実は、家計や企業は資金余剰主体ですから、金利上昇は全体的な収益としてはプラスになります。
佐々木融/日本経済新聞出版/1100円(税込み)



