1月23日、ニューヨーク連邦準備銀行による異例の「レートチェック」観測でドル円相場が急落した。これはアルゼンチンへの支援事例と同様、トランプ政権から選挙を控えた高市政権への「贈り物」である。書籍『インフレ・円安・バラマキ・国富流出』の佐々木融氏による速報解説。

トランプ政権から高市政権への贈り物(写真:Usman/stock.adobe.com)
トランプ政権から高市政権への贈り物(写真:Usman/stock.adobe.com)
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NY連銀によるレートチェックの政治的狙い

 1月23日のニューヨーク時間午前、米ドル/円相場でニューヨーク連邦準備銀行による「レートチェック(為替介入の前段階としての価格確認)」が行われたとの観測が広がった。これにより相場は158円台前半から155円台半ばへと約1.6%急落し、連動してユーロ/米ドルも上昇した。筆者は当初、165円程度までの円安進行がない限り介入はないと予測していたが、予想以上に早いタイミング、かつNY連銀が主体となってレートチェックが行われたことに驚きを隠せない。

 この背景には、衆院選を控え160円超の円安を回避したい日本の自民党(高市政権)と、米国の長期金利上昇の責任を日本に転嫁したいトランプ政権(ベッセント財務長官)の利害の一致が見て取れる。特に米国側には、アルゼンチン・ペソへの対応と同様の政治的意図が透けて見える。

アルゼンチンに続く、高市政権への政治的支援という側面も

 今回の米当局の行動には、主に以下の3つの背景が考えられる。

1.日本の財務省との協調演出:ベッセント財務長官は以前より「過度な為替変動は望ましくない」としており、日本の当局と懸念を共有している姿勢を示すため、為替介入を伴わないレートチェックという形で協力した可能性が高い。

2.金利上昇の「日本犯人説」の補強と波及阻止:市場では、トランプ大統領がグリーンランド購入に関連して欧州への追加関税を表明したことが米金利上昇の主因とみられていた。しかし、ベッセント長官は日本の長期金利上昇が米金利に波及していると示唆し、責任の所在を日本に向けようとした。円売りと日本国債売りがスパイラル的に進み、それが米国債市場へ悪影響(日本による米国債売り等)を及ぼすことを未然に防ぐ狙いがあったと考えられる。

3.選挙前の政権サポート(アルゼンチン・モデル):最も注目すべきは、選挙を控えた高市政権への政治的支援である。米財務省は2025年10月、アルゼンチンの中間選挙直前に、トランプ派のミレイ政権を支えるためペソ買い介入やスワップ協定締結を行った前例がある。今回も同様に、日本の選挙前に円安をけん制することで、親トランプ的な高市政権をサポートする意図があった可能性が高い。ただし、円市場の規模はペソとは比較にならぬほど大きく、他通貨へも影響が波及してしまっている。

介入では円安基調は転換しない

 実際、1月23日に為替介入が行われたかは統計を待つ必要があるが、仮に行われていなくても、今後円安が進行すれば日本単独での介入可能性は高まったといえる。

 一方で、米国との本格的な「協調介入」の可能性は低い。ベッセント長官は本質的に為替は金融政策で解決すべきとの考えを持っており、また現状の米ドル安が米国のインフレ圧力を再燃させるリスクを懸念しているためだ。

 重要な点は、「介入で円安基調は転換しない」という歴史的事実である。2022年や2024年の介入局面を見ても、一時的に円高に振れた後、数週間から数カ月で介入前の水準に戻っている。今回もレートチェックや単独介入があったとしても、それは時間稼ぎにすぎず、年末に向けた1ドル=165円という円安予想に変更はない。日銀が利上げに対し慎重姿勢を崩していないことも、円安圧力を継続させる要因となる。

「責任ある積極財政」への市場からの警鐘

 円安の根底にあるより深刻な問題は、日本の財政規律に対する市場の不信感である。高市首相は衆院選公約として「食料品の消費税を時限的に0%にする」案を検討し、解散会見で「責任ある積極財政」を掲げた。しかし、この発言直後、日本の債券市場は激しく反応し、長期・超長期金利が急上昇した。

 ベッセント長官が「日本の債券市場では6標準偏差の値動き」と指摘したこの金利急騰は、市場からの明確な「警告」である。一度下げた消費税を2年後の参院選前に戻すことは政治的に極めて困難であり、巨額債務を抱える日本政府にとって、恒久的な歳入減と金利上昇による利払い負担増は致命的となり得る。

 S&Pなどの格付け会社も、消費税減税が財政を悪化させるリスクを指摘しており、日本国債の格下げリスクが高まっている。もし格下げが現実となれば、邦銀のドル調達コストが上昇し、本邦企業によるドル買い需要が急増することで、さらなる悪性円安を招く恐れがある。

 政府が最も避けるべきは、金利上昇を嫌気して日銀に国債購入を増額させ、人為的に金利を抑え込むことだ。それはインフレ懸念を増幅させ、実質金利のマイナス幅を拡大させることで、通貨安を決定的なものにしてしまうだろう。

 今回のレートチェック騒動は、単なる為替市場の攻防にとどまらず、日本の財政運営と金融政策の整合性が限界を迎えつつあることを示唆している。選挙対策としての近視眼的な円安抑制や財政拡張は、結果として市場のしっぺ返しを食らい、円安・金利上昇・インフレという「悪い均衡」へと日本経済を追い込むリスクをはらんでいる。

為替の第一人者が、円安の根本原因を解き明かし、今後起こりうるシナリオと防衛策を提示する。静かに進行する危機の本質を把握し、インフレの時勢を生き抜くための一冊。

佐々木融/日本経済新聞出版/1100円(税込み)