歴史を振り返ると、大戦経験者が少なくなると戦争が起こってきました。戦争の惨禍を知る世代が激減する日本では、これまで以上に意識的に歴史から学び、平和を守るすべを探る必要があります。田中孝幸氏の新刊『世界を解き明かす 地政学』から、本文を抜粋、国際情勢を読み解くための地政学の視点と知識を紹介します。
大戦経験者がゼロになる世界で起こること
総務省の資料によると2025年現在、日本の80歳以上の人口は1289万人と推計されています。これは、第2次大戦を少しでも経験した世代にあたります。
このうち85歳以上は690万人、90歳以上だと290万人です。日本人の平均寿命は84歳です。今後、戦争の惨禍を知る世代人口が激減するのは明らかです。
さらにいえば、95歳の人口は76万人で、100歳以上は9万人です。この世代は、戦時中に軍人・軍属として従軍した経験を持ちます。これらの年齢層は30年ごろまでに全人口の0.1%以下に落ち込みます。
大戦後も世界各地で紛争が絶えない中、日本が80年にわたって戦争と無縁でいられたのは、日本の地政学的な幸運がありました。
超大国のアメリカにとってソ連に対抗する上で日本がとても重要で、守る必要があったのです。島国で攻められにくい地形も有利に働きました。
ただこうした環境がこれからも続くかは不透明です。世界各国では第2次大戦の記憶が風化しています。ヒトラーのような侵略者に甘さを見せる融和主義は、かえって相手を増長させて大きな戦争につながるという教訓も失われつつあります。
人間は、自分で体験したことからしか深く学ばない
一定周期でバブル景気を繰り返す世界経済にみられるように、人間には自らが体験したことからしか深く学ばない性質があります。書物からいくら知識や教訓を学ぼうとしても、裏打ちする体験がなければ血肉とするのは簡単ではないのです。
第1次大戦は19世紀の大規模紛争だったクリミア戦争から約60年後に勃発しました。当時の平均寿命はイギリスでも40~50歳で、大戦の開戦時にはクリミア戦争の従軍経験がある人はほとんどいなくなっていました。その結果、戦争を巡る幻想や過激な意見がはびこりやすくなり、悲惨な戦争に突入することになりました。
すでに多くの先進国では、ヒトラーのように他民族や外国への大衆の憎悪をあおり、立身出世を目指そうとする政治家が台頭しています。
大戦経験者がいなくなる時代を迎える日本人は、これまで以上に意識的に歴史から学ぶべき点を取り入れ、公正な平和を守るすべを探っていく必要があります。
台湾問題やロシアのウクライナ侵攻、グリーンランド問題など、地政学の視点が必要となるニュースが年々増え続けています。戦後80年で世界は再び、大国が勢力圏拡大にしのぎを削る時代に入ったようです。これからさらに紛争が増える時代になるのでしょうか? すべてのニュースには、背景や理由があります。この本は国際情勢のポイントを網羅する1冊です。ぜひ手に取って知識を深めてください!
田中孝幸著、日本経済新聞出版、1980円(税込み)

