就活で「きらびやかな経験」を「うまく話さないといけない」と不安を抱えていませんか? 一方で就活は順調にいっても就職後すぐに辞めてしまうということも。これらの背景には構造的な課題が潜んでおり、自分の資質に合った企業とマッチングすることが就活のポイントです。採用を研究する神戸大学の服部泰宏教授が就活にまつわる構造的課題を解説します。『日経ムック 日経業界地図 就職活動版 2026-2027』(日本経済新聞出版編/日本経済新聞出版)から一部を抜粋・再構成してお届けします。
あいまいな基準が早期化・激化の原因に
人手不足が深刻化する現在、就活も売り手市場の状態が続いています。本来なら求職者にとって有利な状況のはずですが、大学生の就活はどんどん早期化し、1、2年次からインターンに参加し、留学やゼミ活動さえも「ガクチカ(学生時代に力を入れたこと)」づくりのために行うなど、本末転倒ともいえる状況が起きています。
その背景として、日本企業の「採用基準のあいまいさ」や「人材確保への不安」が挙げられます。
企業が採用活動を始める際には、どのような人物を採用するかという採用基準を設けますが、その基準の粒度が粗いという問題があります。
例えば営業職なら「コミュニケーション力」が求められがちですが、そのコミュニケーション力というものが「とにかく弁舌さわやかに饒舌(じょうぜつ)に語ることができる」タイプのコミュニケーション力なのか、「適切なタイミングで必要な内容を発信できる」タイプのコミュニケーション力なのか、というところまで落とし込まれていないことが多いです。
神戸大学大学院 経営学研究科 教授
企業の側でも不安を抱えている
そのため誰にでもわかりやすく弁の立つ学生や、目立つガクチカを持つ学生が、何社もの内定を勝ち取るという形になりがちです。
また、企業は毎年、「どの部署に何人必要か」といった採用目標も立てますが、優秀な学生を必要な人数確保できるかという不安を常に抱えています。そのため、他社より少しでも早く学生に接触しようとする心理が働き、その動きを見たライバル企業が「あの企業が動いたから、うちもやらなきゃ」とさらに接触を早めようとする。結果として採用活動がどんどん前倒しされるという泥沼のような競争に陥っています。
近年の就活の早期化・激化は、このような企業側の事情に、学生側も手探りで対応しようとするなかで起きていると考えられます。
能力に合ったスタート地点を見つける
私が専門とする「採用学」は、前例や慣習、主観を排して、企業が自社にとって最適な人材をどう選べばよいか科学的に解き明かしていこうとする学問です。
経営学では、企業が持つヒトやモノやお金を組み合わせたり、変換したりすることで、どのように社会に価値を生み出せるか、会計やマーケティング、人事など様々な観点から考えていきます。
社員の能力というものはすでにそこにあるもの、所与のものとして考慮されがちですが、採用学では社員の入社時というスタート地点の能力に注目します。これは関数のグラフで言えば「切片」にあたるもので、求職者の能力をどう見分けるか研究しています。
当然、人によって値が異なりますし、一元的ではなく多元的なものです。要はこの切片の値をどう設定するかというのが企業にとっての採用であり、裏を返せば就活生にとっては、現時点での自分の能力はどれくらいか、どの会社からスタートするのが一番よいのか考えるということにもなります。
もちろん、企業によってどのような能力が重視されるかは異なります。ある企業における「高い切片(高い能力)」が、別の企業でも評価されるとは限りません。就活生にとって重要なのは、自分が持っている資質を「高い切片」として評価してくれる場所を見極めることです。
日本企業が評価する2つの能力とは
とはいえ、日本において多くの企業で共通して優秀だと認められやすい能力が存在します。
1つ目は、「不確実性への許容力」です。近年、事前に職務内容を明確にするジョブ型雇用を標榜する企業も増えてきました。しかし実質的には、企業が必要とする業務に応じて人材を配置するメンバーシップ型雇用の企業が多いです。はっきりと「あなたの仕事はこれです」とは決まらない状況のなかでも、腐らずに働いていける人が比較的評価されやすいという実態はあると思います。
2つ目は、「学習する能力」です。「経験から学ぶ力」と言ってもよいかもしれません。顧客や上司から注意やフィードバックを受けた際に、ふてくされずにそれを経験として落とし込んで「次はどうしたらよくなるのか」と学び修正していける人は、企業にとって魅力的な人材に映るでしょう。
早期離職の背景に「期待のミスマッチ」
近年は、入社した社員がすぐに辞めてしまう「早期離職」も大きな課題となっています。この背景には、転職がしやすくなったことに加え、企業と学生双方による「期待のミスマッチ」という構造的な問題があります。
企業としては多くの学生にいい会社だと思ってほしいわけですから、当然その会社のいい部分、いわばキラキラした部分を多く見せようとします。また、採用を担当する社員にも人柄や雰囲気のよい人材が充てられがちです。
一方で、割り当てられる業務が地味であったり、定型的で面白みに欠けていたりしても、企業は求職者の離反を防ぐために、実際の情報を明確にしないで、濁してしまうことがあります。
さらには、求職者の学生も受け取った情報をよく吟味せず、過度に期待を膨らませ入社し、仕事のリアルを知り、失望するといった事態が起きます。
このように、採用活動ではお互いがいいところだけを見てマッチングするため、入社後に「思っていた仕事と違う」「こんな組織だと思わなかった」というミスマッチが起きてしまうわけです。
様々な意見を聞いて多面的に企業を見る
こうした状況を防ぐために多面的に企業のことを知ることが重要です。集団のなかの一人の印象で組織の全体像を評価してしまう傾向が人間にはあります。複数人に会うことで、組織を多面的に知ることができ、企業像を正確に見極めることができると思います。
説明会に出てくる採用担当者やエース社員だけでなく、OB・OG訪問やインターンシップなどの機会を通じて、多様な社員と会い、現場のリアルを聞いてみると、少しずつ会社の印象の解像度は上がっていきます。残業の実態など聞きにくいことをあえて質問してみて、本当のことを語ってくれるか、その反応を見てみるという手もあります。
就職サイトなどの書き込みを参考にする人も多いと思いますが、その会社に合わずに辞めていった人の書き込みには、辞めていく人なりのバイアスがかかっている可能性があることも意識しておくべきでしょう。
内向的な学生に向いている職場がある
学生と話していて、「自分は内向的なのでビジネスパーソンとしてうまくやっていけるのか」という不安を最近よく聞きます。
就活においては、とかく外向的でよくしゃべる人間のほうが有利に思われがちですが、実際の社会は必ずしもそうとは限りません。仕事によっては内向的でじっくり取り組む人のほうが向いているものも数多くありますし、静かなリーダーシップが有効な場面もたくさんあります。世間の「優秀な人材像」や、企業の「求める人材像」に無理に自分を合わせようとするのではなく、自分に合う働く場所を、焦らず探してほしいです。
服部教授が選ぶ就活生におすすめの本
原著の刊行は1978年と古い本ですが、「キャリアとは組織と人との折り合いである」と説く古典的名著です。自分がどう幸せに生きるかを優先するのではなく、かといって会社に迎合して生きるのでもない。10年後、20年後にどんな課題が訪れるのか、仕事だけではなく人生のステージも踏まえて解説しています。職場における他者理解にも役立つ内容が豊富です。
『 働くひとのためのキャリア・デザイン 』(金井壽宏著、PHP研究所)
就活も含め、何年かに一度自分のキャリアをプランニングする「キャリア・デザイン」という考え方 に加え、まず今、目の前の仕事に打ち込んで流されてみるという「キャリア ・ドリフト」の考え方を提示。あまりにも先のことばかり考えていると、目の前の仕事で成果を残せず、チャンスを逃してしまうこともあります。不確実性の高いこれからの時代を生き抜く上での示唆を与えてくれる本です。
(第3回に続く)
文/葛原武史(カラビナ) 構成/茂木拓朗(日経BOOKSユニット)
日本経済新聞出版編/日本経済新聞出版/1760円(税込み)


