近年、就活が早期化し、学部の1・2年生のうちから始まる人も増えています。どんな準備をすればいいのかわかりにくく、とてもあいまいです。就活支援や組織開発、採用に詳しい専門家、そして社会人の先輩へのインタビューから、就活を乗り切るポイントを『日経ムック 日経業界地図 就職活動版 2026-2027』(日本経済新聞出版編/日本経済新聞出版)より抜粋・再構成してお届けします。今回は学生や企業をつなぐキャリア支援の場“知るカフェ”を運営する株式会社エンリッション社長・柿本優祐さんによる「昨今の就活事情と就活のはじめの一歩」についてです。

自身の就活体験から“知るカフェ”を構想

 私は現在、大学生が無料で利用できるカフェ“知るカフェ”を運営しています。

 このカフェは、学生であればドリンクが無料、Wi-Fiや電源も自由に使える「学生ファースト」の空間。運営費は企業の皆さまからの利用契約料で賄われており、大学1・2年次から気軽に利用可能。企業の採用担当者と直接会話をしたり、イベントなどを通じて様々な業界や企業のことを学んだりしながら、やりたいことを見つけられる場となっています。

柿本優祐(かきもと・ゆうすけ)さん
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柿本優祐(かきもと・ゆうすけ)さん
株式会社エンリッション 代表取締役
同志社大学商学部卒業後、株式会社ワークスアプリケーションズに入社。2013年、株式会社エンリッションを創業。母校である同志社大学前店を皮切りに、現在まで国内の大学内外に20店舗を展開している。

 “知るカフェ”の原点は、私自身の大学時代の経験にあります。

 私は1年生の頃から、金融や商社、メーカーなど多くの企業の方々と接する機会に恵まれ、その方々と話をするために、企業のパンフレットを取り寄せて仕事の内容などを調べるようにしていました。ですから3年生になる頃には、部屋には企業のパンフレットが山積みになっていましたし、自分が働きたい企業のイメージを持つこともできていました。

 ところが周囲の友人たちの就活を見ていると、3年生になってから慌てて企業から資料を取り寄せ、有名な企業から手当たり次第に何十社にもエントリーして、受かったところに就職するというものでした。

 一方でその頃、新卒で入社した社員の約30%が3年以内に離職しているというデータを見たり、アメリカの学生は大学入学後にまずインターン先を探すというような話を聞いたりしていました。そこで、日本の学生の就活のあり方はこのままでいいのか、という疑問を抱くようになったのです。

 とはいえ、誰もが自分のように積極的に社会人とつながりを持てるわけではありません。そこで、学生が早い段階から社会人と触れ合い、キャリア観を醸成できる場所―大学でも家庭でもない場所があれば、大学生の就活も変わるのではないかと考えたのです。

 大学3年生のときにこのビジネスモデルを構想し、卒業後に2年間社会人経験を積んだのちに独立、2013年に母校の同志社大学前に1号店をオープンさせました。

「ハイブリッド化」するコロナ禍後の就活

 コロナ禍を経て、就活のあり方も大きく変化しました。

 コロナ禍前は説明会などの大人数に対する情報発信からその後の試験も面接もすべて対面で行われていました。それがコロナ禍に入り授業もオンライン化するなかで、大人数への情報発信はwebで、それ以外のOB・OGやリクルーターに会社の実情を聞いたりする場は対面でという、ハイブリッドな情報発信がスタンダードになってきています。

 ハイブリッドになってきた一因に、内定辞退率の高さがあります。コロナ禍で説明会から面接まですべてオンラインに切り替えた結果、内定辞退者が増えてしまったのです。すべてがオンラインで完結してしまうと、内定を辞退することへの心理的ハードルが低くなってしまうんですね。

 そのため、コロナ禍後は対面選考への揺り戻しも起きていますが、売り手市場ということもあり、内定辞退率はまだまだ高い状況にあります。

 内定辞退を防ぐ最大の手立ては内定後の「フォロー」にあると私は考えていますが、オンラインではそうしたつながりが希薄になりがちです。その点、企業からすれば“知るカフェ”は、社員と学生が気軽に話をできる場になるため、内定者フォローに役立っているようです。また、社員も社内より、会社から離れたほうが本音を言いやすいでしょう。

 一方、学生のほうも、近年はワークライフバランスを重視した働き方を求める傾向にあります。そうした情報は企業の説明会や面接では聞きにくいものですが、“知るカフェ”のようなカジュアルな場であれば聞きやすい。このように、企業側、学生側双方のニーズによって就活の「ハイブリッド化」がどんどん進んでいると感じています。

“知るカフェ”の店内。大学1年生から大学院生までが無料で利用でき、学生と企業、あるいは学生同士が気軽に交流できる。
“知るカフェ”の店内。大学1年生から大学院生までが無料で利用でき、学生と企業、あるいは学生同士が気軽に交流できる。
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「安定志向」「オヤカク」の裏にある日本の就活事情

 最近の就活事情として、「安定志向」や、就職先が親に確認をとる「オヤカク」の増加が挙げられることがあります。

 たしかに、今の学生は福利厚生や働き方といった部分を重視する傾向があり、そういった部分で親の意見を求める傾向があるのかもしれません。

 この、学生の「安定志向」「大企業志向」の要因には、就活期間の短さも挙げられると思います。大学3年生になってみんながヨーイドンで就活を始めるとなると、どうしても誰もが知る「大企業」や「有名企業」から当たってみるということになりがちです。

 そうした意味でも、“知るカフェ”のような場所で、大学1年生からゆっくり時間をかけてベンチャー、中小も含め様々な企業の情報に触れてほしいです。自分が本当に働きたい場所を見つけるための大きな助けになると思います。

 例えば、“知るカフェ”では企業の人事担当者と学生が交流できる「Meetup」という少人数の交流会を開催していますが、これはいわゆる企業の説明会とは異なり、“知るカフェ”の学生スタッフが企業と一緒に企画して実施しているものです。

 学生がどんな情報を求めているかを最もよく知っているのは学生なので、学生が考えたイベントには人が集まりますし、また企業さんにとっても「自分の会社や業界が学生からどう見られているか」を知る貴重な機会にもなっているのではないでしょうか。学生と企業、双方にとって実りの多い場になっていると思います。

“知るカフェ”のロゴは、仕事や人との「縁」をつなぐ、つながる場でありつづけるようにとの意味を込めて、すべて円形で構成されている。
“知るカフェ”のロゴは、仕事や人との「縁」をつなぐ、つながる場でありつづけるようにとの意味を込めて、すべて円形で構成されている。
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自分を「知る」ことが就活の第一歩

 “知るカフェ”は先に述べたイベント企画のみならず、店舗運営のほぼすべてを学生スタッフに任せています。各店舗には目標(KPI)があり、学生スーパーバイザーによる抜き打ちチェックも行われます。

 いい緊張感のある環境だからこそ学生たちはビジネスの基礎体力を身につけ、大きく成長します。企業さまから、「知るカフェで働いていた学生がほしい」といううれしい評価をいただくことも多くあります。

 ただ、スタッフの採用に関してだけはエンリッションの社員が行っており、ビジネスをしっかり任せられそうな学生――具体的には、成長力があり、素直で、これまでに何かを成し遂げた実行力のある学生を採用するようにしています。

 「素直さ」とは、上司や先輩からの指摘を「ありがとうございます」と受け入れられる人間力ともいえます。まだ経験の少ない時期は、こうした素直な人のほうが他者からの指摘をどんどん吸収し、成長していけるのです。

 もちろん、面接に遅刻してくるような人は絶対NG。オンライン面接で、部屋に干してある洗濯物が映り込んでいる学生など、「自分がどう見えるか」に無頓着な人も採用は難しいです。

 現在、“知るカフェ”は国内外に20店舗。今後、より多くの大学に“知るカフェ”を展開していきたいと思っていますが、“知るカフェ”は単なるきっかけにすぎません。“知るカフェ”の「知る」には、様々な業種や企業について知ること以前に、「自分のことを知る」という意味も込められています。

 自分は何をしたいのか、何ができるのかを知ることは、その後の勉強にもアルバイトにも生きてきますし、就活にもきっと生きてくると思います。

「“知るカフェ”を自分のことを知るきっかけにしてほしい」と語る柿本さん
「“知るカフェ”を自分のことを知るきっかけにしてほしい」と語る柿本さん
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(第2回に続く)

文/葛原武史(カラビナ) 構成/黒田琴音(日経BOOKSユニット) 写真/佐伯亜由美

巻頭インタビューは小説家の朝井リョウさんとJAXA宇宙飛行士の米田あゆさん。今、就活生やその保護者/親が気になっている「就職人気企業ランキング」や、自己分析・ES・インターンシップ対策はもちろん、注目31業界の動向・売上・年収がわかる業界地図、「親世代にもっと知ってほしい注目企業」まで幅広く収録。

日本経済新聞出版編/日本経済新聞出版/1760円(税込み)