近年、就活が早期化し、学部の1・2年生のうちから始まる人も増えています。どんな準備をすればいいのかわかりにくく、とてもあいまいです。就活支援や組織開発、採用に詳しい専門家、そして社会人の先輩へのインタビューから、就活を乗り切るポイントを『日経ムック 日経業界地図 就職活動版 2026-2027』(日本経済新聞出版編/日本経済新聞出版)より抜粋・再構成してお届けします。今回は、学生向けのキャリア支援や就活アドバイスなどを手掛ける株式会社Strobolights代表の羽田啓一郎さんによる「今の就活生の事情と、社会人の先輩として親にできること」についてです。

大学3年夏からスタート。進む就活の早期化

 現在は「就活の早期化」が進んでいます。大学3年生(修士1年生)の夏休みに実施される「夏インターン」で早期選考を行い、早ければ3年生の10月には内定が出ることもあります。つまり、現在の就活は3年生の夏から始まっているのです。

 表向きの就活解禁日は大学3年生(修士1年生)の3月です。しかし、就活解禁日はあくまで政府から企業への要請であり、法的拘束力はありません。

 そのため実際には企業は、就活解禁日より前にインターンなどで学生と接点を持ち、そこで出会った学生たちを早期選考に呼んで、他社よりも早く優秀な人材を獲得しようと動いているのです。

羽田啓一郎(はた・けいいちろう)さん
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羽田啓一郎(はた・けいいちろう)さん
株式会社Strobolights代表取締役社長、立命館大学産業社会学部 客員教授
マイナビで大手企業の新卒採用営業を担当し、全社年間MVPを受賞。2020年3月に独立し、企業のアドバイザー業務や大学の講師業の傍ら、学生や社会人向けキャリア支援サービスを展開する。

 人材の囲い込みのために、内定承諾書の提出を学生に求めて就活を終えるよう促す、いわゆる「オワハラ(就活終われハラスメント)」を行う企業もあります。こうした企業の対応に混乱してしまう学生もいることでしょう。

 「来年3月解禁なのに、なぜ今インターンや面接に呼ばれるのだろう」「内定承諾書にサインしたら、その企業に入らなければならないのか」などと不安になる学生も多いと思いますが、就活解禁日に法的拘束力がないことや、内定承諾書にサインをしても辞退することは可能であることなど、学生側も正しい知識を持って就活に臨むことが求められます。

氷河期世代よりもつらそうな今の学生

 よくいわれる通り、現在の採用市場は「売り手市場」です。「大学生の平均内定社数は約2.5社」という調査もあるほど、環境的には今の学生は非常に恵まれているといえるでしょう。

 ただ、「氷河期世代」の私の目から見ると、氷河期世代の学生よりも今の学生のほうが、なんだかつらそうです。現に、“就活うつ”になってしまう学生も珍しくありません。

 今の学生は、電子商取引(EC)サイトで最適な商品をレコメンドされてきたような、いわば外部から居心地の良い環境を提供されることに慣れた世代です。

 そんな学生が、企業によって選考で落とされるという不愉快な経験をすると、「自分という存在が全否定された」と強く感じてしまうのです。多数派とまでは言えないものの、落とされる恐怖心から「最初から選考を受けない」という学生も一定数いる印象です。

 また、先に述べたようにインターンや早期選考など、企業の採用活動がどんどん早期化していますから、その流れに乗り遅れてしまう学生も出てきます。

 そうした学生が、「友だちが早期選考に呼ばれた」とか「あの子にはもう内定が出たらしい」などと聞くと、「私は出遅れてしまった」と不安になってしまう。そうするとさらに就活が億劫(おっくう)になり、なかなか動き出せないという負のスパイラルに陥ってしまうのです。

 さらに、働くということに対してネガティブなイメージ、つまり「労働=搾取」というような認識を持つ学生も少なからずいます。就職活動では基本的に企業は学生に優しく接しますが、優しくされればされるほど「何か裏があるんじゃないか」と思って口コミサイトなどを見に行く。

 その口コミサイトには、退職者が書いたネガティブなコメントが掲載されていたりしますから、「やっぱりそうか」「何を信じればいいのか」と疑心暗鬼になるわけです。

 ですが、一部の本当にブラックな企業でもない限り、企業の情報に裏はないですし、企業が嘘をついているわけでもない。働くことにはつらいことや厳しいことがあるのは当たり前なので、そうした口コミに惑わされず、企業を信頼して就活に臨んでほしいと思いますね。

企業を信じて就活に臨んでほしいと語る羽田さん
企業を信じて就活に臨んでほしいと語る羽田さん
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社会人の先輩として親にできること

 このように就活環境や学生の価値観が親世代とは大きく異なるなか、親のスタンスとしては、基本的には「ヘルプを求められたら助ける」くらいがちょうどいいのではないかと考えます。子どもといっても、20歳を超えた大人です。

 口うるさく「ああしろ、こうしろ」と指示するのではなく、本人の主体性を尊重し、お子さんが選んだ道を応援するというスタンスでいてほしいと思います。もちろん、子どもから質問や相談をされた際には、社会人の先輩として的確なアドバイスを与えてほしい。

 ただ、的確なアドバイスをするには保護者の方自身も、業界・企業動向が自分の知識と一致しているかの確認が必要です。スマホが存在せず生成AIも一般的でなかった親世代と現在の企業を取り巻く環境は全く異なります。

 「ベンチャーよりも大企業のほうが安定してるから…」などと、親世代の常識・イメージだけでアドバイスをするのは避けましょう。また、ほかに親にできることがあるとすれば、次のようなものが挙げられます。

  1. 子どもの志望業界・企業にいる社会人を引き合わせて、リアルな企業情報を収集する機会を子どもに提供する。
  2. 自身の仕事について子どもに話す。

 ①は、実際に私の父親がやってくれたことです。就活における最も有効な情報収集手段は、「当事者に会うこと」です。ですから、学生にはできる限り志望業界・企業で働く当事者に会って、その企業で働くうえで最低限必要な素養や適性を確認してほしいと思っています。

 例えば出版業界を目指すうえでは大量のテキストを扱う耐性が一定求められるでしょうし、マーケティング業界では仮説・検証を繰り返す地道な粘り強さが必要でしょう。そうした素養や適性がどの程度必要なのかは、当事者に会って話して感じることが一番です。

 本人が大学の先輩などを探すという手もありますが、親としても、知り合いの知り合いくらいの関係性をたどれば、子どもが志望する業界あるいは企業の社員とつながって、誰かしらお子さんに紹介できることもあるかと思います。

 しかも、親の知り合いであれば年齢や役職がかなり上の人も多いでしょうから、子どもと年齢の近い先輩などとは違う話が聞けるはず。もしそういうツテに心当たりがあれば、ぜひ紹介してあげてほしいと思います。

 ②についても「子どもが抱く企業イメージと企業の実情のギャップを埋める」という意味で有効かもしれません。親が勤める食品メーカーを志望していたものの、親の話を聞いて「華やかに見えて、想像以上に裏方の仕事が多い」と志望先から食品メーカーを外した学生も実際にいました。

 少し気恥ずかしいかもしれませんが、自身の仕事について話すことで、お子さんの就活のミスマッチを避けるきっかけになるかもしれません。

就活のミスマッチを防ぐ方法

 以前、「接客の仕事が好きだから」と百貨店を志望した学生がいました。しかし、接客をしたいなら、その百貨店に出店しているブランドの企業に就職すべきであり、ブランドを誘致して賃料を得るテナント方式の百貨店に就職するのは明らかにミスマッチです。

 このように、その企業が“誰に・何を売っているのか”という業界構造やビジネスモデルを把握することは就活の基本中の基本。その意味で、マイナビやリクナビなどの就活情報サイトは、企業の事業内容や就職条件を見たり、企業へエントリーしたりするのに便利です。

 また『日経業界地図』のような書籍は企業間の関係、例えばライバル会社とどういう関係にあるかを知るのに有効です。

 このような情報源を活用することは、就活生の業界研究だけでなく、保護者の方の知識のアップデートにも必ず役立つと思います。

取材・文/庄子歩 構成/黒田琴音(日経BOOKSユニット) 写真/則世

巻頭インタビューは小説家の朝井リョウさんとJAXA宇宙飛行士の米田あゆさん。今、就活生やその保護者/親が気になっている「就職人気企業ランキング」や、自己分析・ES・インターンシップ対策はもちろん、注目31業界の動向・売上・年収がわかる業界地図、「親世代にもっと知ってほしい注目企業」まで幅広く収録。

日本経済新聞出版編/日本経済新聞出版/1760円(税込み)