沼上幹・一橋大学名誉教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター研究院教授の著書、日経文庫『組織デザイン』は、機能する組織をつくるための発想と対策を解説し、2004年の刊行から約20年たった今も多くの読者に支持されてロングセラーとなっている。本書から抜粋・再構成してお届けする連載第4回は、垂直分業・水平分業・並行分業・機能別分業といった様々な分業の内容と特徴を解説する。

垂直分業と水平分業

 そもそも分業とはどのようなものなのだろうか。この最も基礎的な問いに答えるために、まず何らかの仕事全体を考えることにしよう。経営学の伝統に従って、やるべき仕事のことをタスク(課業)と呼んでおこう。

 いま、たとえば、パン屋さんの仕事、つまりパンを作って販売するというタスク全体を考えてみることにしよう。パンを売って利益を上げるという最終目標に向かって、どういうパンを作れば売れるのか、どうやって作れば効率的か、どういう販売のやり方をするのが効果的か、等々考えるべきことは山ほどある。考えてばかりでもタスクは完了しない。実際に小麦粉をこね、成形し、焼き上げ、販売地点まで配送し、販売し、代金を回収するという一連の具体的な作業を実行する必要もある。

 考えるタスクも実際に実行するタスクも、全部合わせて図1に示されているような三角形で表せると考えておこう。この三角形の上の方は考える作業を、下の方は実行する作業を表しているとしよう。

図1 垂直分業と水平分業
図1 垂直分業と水平分業
(出所)日経文庫『組織デザイン』
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 図1(a)には、パンの製造と販売をワンセットにして、考える仕事と実行する仕事が分離されている状況が描かれている。主人と奴隷の関係とか、厳しいパン職人と新米の徒弟との関係などを想定すればよい。どうやればよいかとか、何をすればよいかといったことを実行する人は考えず、ただひたすら言われた通りのことを実行する。逆に考える作業を担う人は、実行を他人に任せて、とにかく考える作業に集中する。

 一般に、考える作業と実行する作業を分割したり、長期戦略を策定するタスクと短期の現場適応を考えるタスクを分離したりすることを垂直分業という。「考える」と「実行する」を両極とした場合、考える側に軸足を置いたタスクと実行する側に重点を置くタスクに分割することを垂直分業と呼ぶのである。

 図1(b)には、考える作業と実行する作業を分離することなく、パンを製造して販売するという仕事の流れに沿って分業が行われる場合が描かれている。つまり、まずパンを製造する作業と販売する作業に大きく2つにタスクが分けられ(①と②)、さらにそのうえでパンを製造する作業が「こねる」「成形する」「焼く」の3つのタスクに分割されているのである(①のみ)。このような分業のやり方を水平分業と呼ぶ。

並行分業――数量の分担を行う

 垂直分業は「考える」と「実行する」の二分法しかないが、水平分業には分割の軸が多様にありうる。たとえば、需要が増えたので3人の職人を雇い、その3人全員にそれぞれ食パン作りの全工程を任せるという仕事のやり方もある(図2(b)②)。作業台やオーブンを3人で共有しながら、パン生地をこねたり、成形したり、焼いたりするという作業を並行して行っているので、このタイプの分業を並行分業と呼ぶことにしよう。「同一」あるいは「類似」の作業プロセスを複製して、数量の分担を行うのが並行分業である。

 この場合、食パンを担当する3人は同じ作業に従事しており、食パンを製造する工程全体を担っている。3人のうち1人を解雇して2人に減らしたり、2人を解雇して1人に減らしたりすると、生産量は低下してしまうが、食パンの製造自体が成り立たなくなるわけではない。並行分業は、場所や設備等を共有して、生産量全体を分担しあう、というタスクの分割方法である。

「同一」あるいは「類似」の作業プロセスを複製して、数量の分担を行うのが並行分業だ(hedgehog94/stock.adobe.com)
「同一」あるいは「類似」の作業プロセスを複製して、数量の分担を行うのが並行分業だ(hedgehog94/stock.adobe.com)
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 同じものの数量だけ分担しあうだけでなく、地域別に、あるいは顧客別に分担を決めるという分業のやり方も並行分業の一種であると位置づけることができるであろう。たとえば地域別に支店を置いて、1つの支店に1名ずつのパン職人を配置すれば、これは地域別の並行分業である。

 顧客のタイプ別に並行分業することもできる。たとえば「一般の消費者向け」と「学校給食向け」「大企業の食堂向け」などに分けて、それぞれが異なる顧客別に同じ食パンを製造していれば、それを並行分業だと位置づけることができる。「一般の消費者向け」と「学校給食向け」「大企業の食堂向け」のそれぞれの要求が異なり、それ故に異なるタイプのパンを製造し始めると、複製される作業プロセスの類似性が徐々に低下していくが、この程度の違いであれば並行分業だと位置づけておいても問題ないであろう。

 地域や顧客などの空間的な分割を行うのではなく、時間的な分割を行うことも考えられる。早朝と昼間、夜間という3つの時間帯に分けて仕事量を分配するシフト制は、時間的な並行分業だと位置づけることも可能であろう。

機能別分業――機能に応じてタスクを分割

 全体に対して果たす機能に応じてタスクを分割することを、機能別分業と呼ぶことにしよう。並行分業によって成立したサブタスクの場合、互いに足し算すれば全体が出来上がるのに対し、どこかで機能的に統合しなければ全体が出来上がらないような分業のやり方を機能別分業と呼ぶ。一般に分業という場合、並行分業よりも、むしろこちらの機能別分業の方をイメージする人が多いはずである。

 「機能別に分かれている」というのは、人体で考えると、イメージがつかみやすいはずだ。心臓は血液の循環という機能を果たし、肺は酸素の取り入れと二酸化炭素の排出という機能を、腎臓は老廃物の選択的排出という機能をそれぞれ果たしている。1つの生命体として存続するための機能を各臓器は担っており、臓器は機能別に分業しているともいえるだろう。心臓だけ取り出しても動き続けることは不可能であるし、肺だけ取り出しても動き続けるということはできない。だから、各機能を担う部分は、それだけでは不完全であり、それらが、たとえば脳によって機能的に統合されて初めて全体として生きていけるようになる。

 図1(b)の2つの水平分業のうち、左側の①には機能別分業が描かれている。たとえばパンの製造工程で、「こねる」「成形する」「焼く」に分業するのは、パンを作るという全体の作業に対して、それぞれ異なる機能を果たす部分に分解した機能別分業の例である。

 「パンを作る」というタスク全体を機能別に分割する方法は他にもある。たとえば、パンというモノ全体は、「味」や「香り」「舌触り」「価格」といった特徴の束だと考えることができる。だから、「パンの香りに責任を負う人」と「パンの舌触りに責任を負う人」「パンの賞味期限の長期化に責任を負う人」、といった分割の仕方を考えることが可能なはずである。

 生産の場面では考えにくいだろうが、研究開発のような「考える」作業についてはこのような分業も十分想定できるであろう。この分業も「香り」だけや、「舌触り」だけといった機能単体では何も意味をなさない。すべてがそろって初めて意味のある全体になるから、これも機能別分業の一種である。

 パンの例から離れると、もう1つの主要な機能別分業の例が見えてくる。たとえば自動車のエンジン製造とブレーキの製造、タイヤの製造などといった同一製品の異なる部品を製造するような機能別分業である。

 これらの部品は自動車という最終製品の中で機能的に相互依存する。あたかも人体の中で心臓と腎臓が相互依存するかのように、エンジンとブレーキとタイヤは同じ自動車の中で相互依存している。最終製品の中で相互依存している部品を分けて分業しているのだから、その作業もまたそれ自体では完結せず、皆の作業が完結することで初めて全体が完成する。この点で、エンジンとブレーキとタイヤを分けて開発・生産する分業は、並行分業とは異なり、機能別分業に分類するべきものである。

 現実に存在する組織では、これら多様なタイプの分業が組み合わされているのが通常である。たとえば図2にはそのような組み合わせの例が示されている。図中の右側も左側も、まずパン作りとパン販売に水平分業が行われ、そのうえでパン作りの部分を考え・指示するタスクと、指示を受けて実行するタスクに垂直分業されている。この垂直分業された実行部分の分業方法が異なっている。左側は食パン作りを2名、菓子パン作りを1名という並行分業がとられているのに対し、右側は「こねる」→「成形する」→「焼く」という機能別分業がとられている。

図2 多様な分業の組み合わせ
図2 多様な分業の組み合わせ
(出所)日経文庫『組織デザイン』
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日経文庫『 組織デザイン
生産性の高い組織はこうしてつくる!

業務範囲、分担、監督の仕組み。組織改革、新組織がつまずくのは、これらをきっちりと考えていないからだ。分業の決め方、調整をスムーズにする様々な標準化など、機能する組織をつくるための発想と対策を解説。

沼上幹著/日本経済新聞出版/1045円(税込み)