沼上幹・一橋大学名誉教授、早稲田大学ビジネス・ファイナンス研究センター研究院教授の著書、日経文庫『組織デザイン』は、機能する組織をつくるための発想と対策を解説し、2004年の刊行から約20年たった今も多くの読者に支持されてロングセラーとなっている。本書から抜粋・再構成してお届けする連載第5回は、個々の作業者の作業を調整し、そのアウトプットを統合するための5つの仕掛けを解説する。

標準化とヒエラルキーの形成

 いったん分割したものを統合しなければ、組織全体のアウトプットは完成しない。そのためには個々の作業者の作業を調整し、そのアウトプットを統合しなければならない。
 調整・統合の基本的な仕掛けは、大きく分けると次の5種類である。

 (1)標準化
 (2)ヒエラルキー(階層制)
 (3)環境マネジメント――環境への能動的働きかけによる調整の必要性削減
 (4)スラック資源活用による組織内相互依存関係の緩和
 (5)水平関係の設定

 標準化とは、各作業のアウトプットが相互に統合可能になるように事前に手順やスペック、使用機械等を決めておくことである。この事前の取り決め通りに物事が進めば、自然に統合されたアウトプットが生み出されるはずである。

 だが、実際には標準化によって事前に規定された通りにすべての物事が進むわけではない。顧客の要求が突然変わったり、作業者がミスをしたり、事故が起きたりするなど、不確実性が存在する。だから、事前に決められた通りでないことが発生したときに、その問題を解決する仕組みが必要になる。

 その典型が、例外事象が生じるたびに判断を下す監督を置くことである。こうして作業者の上に管理階層が形成され、ヒエラルキーが作られていく。

 事前の調整・統合手段である標準化と、事後的な調整・統合手段であるヒエラルキーの両方がそろって初めて組織の基本が出来上がる。決められた作業を決められた通りに遂行する標準化と、ヒエラルキーによる裁定が組み合わされたものを本来は官僚制と呼ぶ。

標準化とヒエラルキーの両方がそろって初めて組織の基本が出来上がる(写真:Gajus/stock.adobe.com)
標準化とヒエラルキーの両方がそろって初めて組織の基本が出来上がる(写真:Gajus/stock.adobe.com)
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 しかし、世の中の多くの人が「官僚制」とか「官僚」という言葉に過剰に嫌悪感を抱くという問題がある。型にはまった責任逃れの答弁を行う「高級官僚」とか、ほとんど無意味な手続きに固執するが故に、目の前で困っている人を助けられないお役所の「官吏」というイメージが普及し、「ここは官僚的でダメだ」という批判が日常用語化してしまったために、本来合理的な組織の基本であったはずの「官僚制」という言葉にはあまりにもダーティなイメージが付随するようになってしまった。本来なら、このような間違った認識を変えることも学者の役割ではあろうが、嫌悪しているものを積極的に理解しようとすることは多くの人にとって難しい。

 だから、ここでは感情的にニュートラルな言葉として、「基本モデル」という言葉を使うことにしよう。これが組織における調整・統合の基本であり、その他の調整・統合の仕掛けは、この基本を若干変更したり、基本に付加されたりしていく、ということになる。

バリエーションが多い水平関係

 組織の基本モデルに対して、さらに調整・統合の努力を付加していく仕掛けとして、5番目の水平関係がある。水平関係には多様なバリエーションがある。関連しあった部署の担当者が互いに直接連絡をとりあって調整を行うという最も単純な水平関係から始まり、ブランド・マネジャーのような中間形態を経て、最も強い水平関係であるマトリクス組織に至る。

 ブランド・マネジャーやマトリクス組織は、実は既存のヒエラルキーにもう1つ別のヒエラルキーを追加するという形になっており、水平関係というよりも直接監督の一種だと位置づけた方がよいのかもしれない。しかし、ここでは慣例に従って水平関係として一括して説明を加えることにする。

環境マネジメントとスラック資源活用

 標準化とヒエラルキーと水平関係は組織が分業を積極的に調整・統合しようとして用いる手段であるのに対して、残りの2つ、すなわち(3)環境マネジメントと(4)スラック資源活用による組織内相互依存関係の緩和は、どちらも、ある意味では組織内における調整・統合努力の放棄・省略を目指すものである。その意味では、「調整・統合を進める手段」というよりも「調整・統合を考える際に考慮に入れるべき手段」と呼ぶべきであろう。

 環境マネジメントは、適切な環境部分を選択したり、環境に対して積極的に働きかけたりすることによって、組織が自ら調整しなければならない負担を負わないようにする努力とその手段のことである。スラック資源の活用とは、たとえば工程間在庫を許容して直列型機能別分業の作業間調整にゆとりをもたせ、互いの調整の必要性を減じることをいう。

ITの進歩が組織に影響を及ぼす

 なお、これらすべての調整と統合の仕組みとIT(情報技術)の活用は密接に関連している。たとえば標準化された書類処理作業がIT化され、販売担当者が売上伝票を1回入力するだけで販売分の補充依頼、生産計画へのデータ入力、部品発注等々のすべての作業が終了するということもITによって可能である。あるいは管理者が自らパソコン画面上で在庫の滞留状況をチェックし、部下が上司に売れ行き不振を報告する前に上司が自分で問題を発見するということもいまでは珍しいことではない。

 イントラネットやインターネット、メール・システム等も、社外との取引を単純化してくれたり、直接折衝を容易にしてくれたりするようになっている。組織はそもそも情報処理システムとしての特徴をもつのだから、ITの進歩は組織のあり方に様々な影響を及ぼすのである。

日経文庫『 組織デザイン
生産性の高い組織はこうしてつくる!

業務範囲、分担、監督の仕組み。組織改革、新組織がつまずくのは、これらをきっちりと考えていないからだ。分業の決め方、調整をスムーズにする様々な標準化など、機能する組織をつくるための発想と対策を解説。

沼上幹著/日本経済新聞出版/1045円(税込み)