※日経ビジネス電子版の連載企画「書店再興」を基にした新刊『書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために』が2026年3月27日に発刊しました。このコラムには同書のベースとなった記事をセレクトして転載しています。その第21回。

 JR敦賀駅西口にある書店「ちえなみき」は、敦賀市による公設・民営という珍しいスキームです。その運営には、敦賀ならではの“スペシャルな”理由があると、前回「『本好き』の敦賀市民を掘り起こしたちえなみき」の最後に聞きました。敦賀編の最終回となる今回は、敦賀モデルともいうべき、その資金スキームについて詳しく聞いていきます。

「ちえなみき」(TSURUGA BOOKS & COMMONS ちえなみき)はオープン以降、視察も多く受け入れておられます。市が作成された資料も、とても分かりやすいです。特に目を引くのは、「歳入」を表す「¥」のマークが景気よく並んでいる資金スキームの説明スライド。これ、見た目のインパクトがすごいですね。

(出所:敦賀市役所)
(出所:敦賀市役所)
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敦賀市まちづくり観光部 まちづくり推進課 西村勇人さん:はい、そうですね(笑)。ちえなみきが入居するのは、官民連携で敦賀市が計画した複合施設「otta(オッタ)」(TSURUGA POLT SQUARE「otta」)です。

 ottaは北陸新幹線が開通するJR敦賀駅前に、にぎわいを生み出すことを一番の目的として計画されました。市民が集まって憩える場所と、観光客を迎える玄関口の双方の機能が必要だったのです。整備にあたって、市が真っ先に考えたのが資金スキームでした。

キーワードは「稼ぐ公民連携」

ここで復習ですが、第1回前編「敦賀市が駅前一等地にマンション・ドラッグストアでなく書店をつくった理由」でうかがったように、ottaが立地する土地は敦賀市の所有で、そこに建つottaの建物は民間の所有・運営。そのottaの一角を敦賀市がテナントとして借り受けて、ちえなみきを設置・運営し、運営の実務は指定管理の形で民間に任せている、という立て付けです。近年、地方都市で特に目立つ官民連携事業の一環として誕生したプロジェクトとのことでした。

西村:はい、その通りです。ちえなみきという公設・民営の書店が誕生した背景には、市が資金スキームを事前に考え、「歳入」と「歳出」のバランスをできる限り詰めた。それが、大きなポイントだったと思います。

そのあたりを詳しく伺いたいのですが、どのようにして「歳入」「歳出」を詰められたのでしょうか。

西村:ottaでは「稼ぐ公民連携」をキーワードに、公共事業と民間事業を組み合わせることで財政負担の軽減を図っています。

 そのために採用したのが、TIF(タックス・インクリメント・ファイナンシング)と呼ばれる考え方です。TIFは再開発プロジェクトの事業費の一部を、そのエリアの固定資産税などの増収で賄う考え方です。

建物を民間に任せることで、税収増を図るわけですが、どこが増えるのでしょうか。

西村:民間に土地(公有地)をお貸しして得られる定期借地料と、そこに建った建物から得られる固定資産税が市の「歳入」になります。代わりに、公共施設の「ちえなみき」がテナントの一つとして入居しますので、市が支払う家賃(テナント料)と、ちえなみきの運営者に支払う指定管理料が「歳出」になります。その「歳入」と「歳出」を回す中で生み出されるお金が、駅前でのにぎわい創出に再投資されていきます。

で、駅前だけで本当に回していけるのでしょうか? 昨今、行政が主導して作ったハコ物が、行き詰まってしまう例は、特に地方のまちに多く見られます。

西村:ここでottaの概要をあらためて説明させていただきますと、ottaはAゾーン(約4300平方メートル)とBゾーン(約3600平方メートル)、合わせて約7900平方メートルの再整備・再開発です。

 Aゾーンには、ちえなみきの他に子育て支援施設、飲食店、物販店、広場公園、立体駐車場があります。Bゾーンには、ホテル、スターバックスコーヒー、コインパーキングがあります。

(出所:敦賀市役所)
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 建物部分を担う民間はSPC(特別目的会社)を組成して事業にあたっていて、その初期投資額は26.2億円。それに市の資金5.2億円を加えた31.4億円が当初の事業費です。

市の5.2億円は何に使われたのですか。

西村:主にちえなみきと公園整備です。

 行政主導の再開発プロジェクトは通常、国からの様々な補助金を工夫して、資金調達に努めます。ottaの象徴になっている芝生の「駅西広場公園」も、公園整備の国費が入っています。結果的に市の持ち出しは5.2億円の中の1.7億円に抑えることができたのです。

計画を立てると同時に、いかに補助金を引っ張ってくるかも行政の力量になるんですね。

西村:その点は簡単にできるわけではなく、行政に熱意と努力が必要になります。手前味噌になりますが、ottaのプロジェクトは地域創生に寄与したと国から評価をいただき、2023年度に土地活用モデル大賞の最高賞である国土交通大臣賞をいただきました。

おめでとうございます。

予測以上の収入をもたらした施設とは

西村:ありがとうございます。地方都市のプロジェクトが、このように評価されることは、やはり励みになります。

 で、ここがポイントなのですが、ottaでは実は立体駐車場の存在がカギになっていまして、ここの収入が年間約5000万円もの歳入を生み出しているんです。これは私たちにとっても、当初の予測以上の金額でした。

ちえなみきの後ろに立つ立体駐車場が全体のスキームを支えている
ちえなみきの後ろに立つ立体駐車場が全体のスキームを支えている

努力の末に、そういうボーナスが出現した、と。

西村:ottaの事業では、市の歳入となる土地代、固定資産税がそれぞれ年間1500万円ほどありますので、駐車場の収入と合わせて、歳入は年間8000万円ほどになります。

それは大きいですね。一方で、歳出はどうなっていますでしょうか。

西村:歳出はテナント料と指定管理料がそれぞれ5000万円ほどで、計1億円ほどです。

ということは、単純計算でいうと2000万円の歳出超過。そこはどのように埋め合わせるのですか。

西村:市が負担するということは、その目的は公共に資することですから、ここで民間企業のような利益を上げることは、そもそも主眼ではありません。歳出超過分については、ちえなみきや広場公園のような、市民のための居場所に必要な公的支出として予算を組んでいます。

なるほど。例えば歳出超過の金額が増えた場合でも、そこは市の予算で賄うということですか。

西村:最適な資金スキームを考えた上での話ですが、当初からそこは税収で賄っていく考え方です。ただ、漫然とプロジェクトを組んでいたら、もっと多くの予算がかかっていたと思います。資金スキームを詰めていたからこそ、駅前のランニング予算が適正化して、支出も抑えられている。そう考えています。

市長さんや、市のどなたかが国との強いパイプを持っていらっしゃった、ということはあるのでしょうか。

西村:市長も市民も、議会も役所も、それぞれに力を発揮しましたが、特別に強力なパイプがあったわけではなく、補助金の活用を最大限に考えたということですね。ただ敦賀市の場合は、原子力発電施設の立地地域に向けた交付金があります。

年間2000万円の差額の先行きは?

それは、使い勝手がありそう(笑)。そこが敦賀市ならではのスペシャルな部分ですね。

西村:ただ、それも5.2億円のうちの2.8億円ぐらいで、みなさんが思うほど巨額ではないんです(笑)。敦賀は電源立地の交付金、補助金が使えますが、市内の原発は廃炉や稼働停止が続いています。今、地方の行政はどこも厳しいのが現実で、敦賀市も例外ではありません。

原子力産業で財政が回っていたとしても、国全体が人口減少の局面ですので、楽観はできませんよね。

西村:ottaの計画が立ち上がった当時、私は観光課にいましたが、役所の中には、このままじゃ先細りだという危機感がありましたね。「新幹線の駅ができる」というチャンスを逃すな、という意識は全体が共有していたと思います。

とはいえ、敦賀市にはいま、もう一つの大きなアドバンテージが浮上しているんですよね。それは何かというと……。

西村:はい、実はふるさと納税で毎年80億円ほどの寄付をいただいています。その額は全国ランキングでも上位に位置されているのです。

敦賀市まちづくり観光部 まちづくり推進課 西村勇人さん
敦賀市まちづくり観光部 まちづくり推進課 西村勇人さん

敦賀市のふるさと納税の寄付額は、福井県内でもぶっちぎりで4年連続トップ。一般会計が年間約405億円の敦賀市にとって、これは大きな財源で、西村さんのお顔がほころぶのも納得です。なぜ、これほどの人気を博しているのでしょうか。

西村:ズワイガニ、エビを筆頭に、海産物の返礼品が人気なんです。そこは民間の業者さんが頑張ってくださって、PRなど積極的に発信されています。

なんともうらやましい状況です。が、それはそれとして、先ほど伺った「歳入」「歳出」の2000万円の差額は、今後、どのように見通されていますか。埋まっていくのか、それとも赤字幅が拡大した時のために、策を考えておられるのか。

西村:現時点では、差額が広がっていくことは予想していません。それは、立体駐車場の利用がずっと伸び続けているからです。

立体駐車場さまさまですね。今後、地方都市の駅前を活性化するには、書店と立体駐車場のセットが広がりそうです。

西村:ちえなみきに、こんなに人がいらっしゃるとは思っていませんでしたし、立体駐車場の収入も、ここまで上がるとは思っていなかったです。それはうれしい誤算ですが、利用が増えると、運営や施設のメンテナンスの経費も増えますので、今後はそこをどうバランスさせていくかが課題になってきますね。

ちえなみきの運営について、評価指標としている数字はありますか。

西村:KPI的には入込数(来館者数)で見ています。入口に赤外線センサーがあるので、ほぼ確実な数字が出ていて、25年3月末時点の累計で約87万人が来館されました。指定管理で運営していますので、売り上げもKPIに入れるべきじゃないか、という議論もありますが、私たちはここを公共による「知的情報インフラ」として捉えていますので、そこは資本の論理にくみしないようにしています。

(出所:敦賀市役所)
(出所:敦賀市役所)
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来館者、利用者数が出ていればよし、ということですね。

西村:入込数に特段の落ち込みがなければ、継続の価値があります。

ここまで、いろいろと詳しいお話をありがとうございました。敦賀市のご経験から、書店減少の時代へのアドバイスがあったら、ぜひ教えてください。

西村:やはり、第一に空間の作り方ですね。書籍の並べ方も大事ですが、その前に全体空間のインパクトだと思います。ちえなみきでは「世界樹」と名付けた、ひと目で印象に残る空間のアイキャッチがあります。

迷路に迷い込むような気分で、次々と好奇心が広がっていって、本を探す楽しみを実感します。この空間をトリガーにして、本好きの人は“ワールド”に引き込まれていき、それほど本に親しんでいない人でも、何か引っかかって館内を探索してしまう。そのような空間ですね。

心地よい読書のための空間と時代に合わせた選書。いま、ロシアのことを知りたい人はきっと多い
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図書館、マクド、ミスド「だけじゃない」居場所

西村:もう一つ、ぜひお伝えしたいことがあります。ちえなみきの正式表記は「TSURUGA BOOKS & COMMONS ちえなみき」というものです。「BOOKS」も大事ですが、「COMMONS」つまり「共有地」を付けて、そこを意識したことが強みになったと考えているんです。

ちえなみきの2階の共有スペース(前回参照)では、市民が様々なイベントを開催・参加している
ちえなみきの2階の共有スペース(前回参照)では、市民が様々なイベントを開催・参加している

 学生さんにとっては、学校でも家でもないところ。親子連れの方にとっては、家とはまた違うところ。そのようなサードプレイス的な場所として、そこで勉強したり、グループワークをしたり、イベントに参加したりできる。行政が単に書店を作るというのではなく、書店を核にして居場所づくりを実現できた。そこがこのプロジェクトが継続している理由じゃないでしょうか。

ちえなみき統括責任者 笹本早夕里さん(以下、笹本):ちえなみきができる前、敦賀のまちには高校生が勉強しに行く場所は図書館ぐらいで、他にはあまりなかったですよね。

ちえなみき統括責任者 笹本早夕里さん。勤務に至ったユニークな経緯は前回参照
ちえなみき統括責任者 笹本早夕里さん。勤務に至ったユニークな経緯は前回参照

図書館、マクドナルド、ミスタードーナツのほかに、高校生が行ける場所が新しくできた。若い人が集まると、その場所はやっぱり活気が出ますよね。

笹本:あと、市外から観光などでいらした方が、お土産として本を買っていかれることが、意外と多いんです。

ああ、その気持ちは分かりますね。普段はネット書店で買っていても、旅先でいい本屋さんに出合うと、思い出に文庫本なんかを買いたくなります。

西村:観光と言えば、ちえなみきが観光バスのルートに入ることがありまして、これも我々にすれば驚きなんですが。

いえいえ、よく分かります。

笹本:観光でいらした方が、「これ、ちょっとお土産にするわ」とおっしゃって、そこからスタッフと会話が弾んだりしています。例えばお子さんに持って帰るのにも、お菓子だけじゃなくて本を添える。そういった需要もあるんだ! というのは発見でした。

西村:敦賀市では、ちえなみきで得た空間づくりやコミュニティの形成の手法を「チエナミキ・インフラストラクチャー」と名付けて、新たに開発を計画している文教施設の整備にもつなげていきたいと考えています。

前編、中編、後編と3回にわたってお話を伺いました。敦賀市で公設書店が成立したポイントとして、財政の裏付けが強かったことと、「BOOKS」と「COMMONS」の両者を組み合わせたこと、その2つがよく分かりました。
 背景には、職員の平均年齢が若い市役所の存在もありました。八戸ブックセンター(青森県八戸市)、そして、ちえなみきに続いて、従来のハコモノに代わる行政のコンテンツとして、公設書店が多様に登場していく流れを期待してしまいますね。

(敦賀編、おわり)

日経ビジネス電子版 2025年5月23日付の記事を転載]

「本屋さんがなくなる」悲観論ばかりが叫ばれる書店業界で、直木賞作家・今村翔吾氏を初め、個人が、企業が立ち上がる。経済産業省や地方自治体も黙っちゃいない。昭和の発想を切り替えて、書店を「頑張れば稼げる」ビジネスに変えていく具体的な試みはいくつもある。これらの発想は異業種にも応用可能だ。

清野由美(著)/日経BP/2530円(税込み)