(写真:Mihail/stock.adobe.com)
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※日経ビジネス電子版の連載企画「書店再興」を基にした新刊『書店再興 まちの本屋さんのゲームチェンジのために』が2026年3月27日に発刊しました。このコラムには同書のベースとなった記事をセレクトして転載しています。その第23回。

前回(「経産省が書店に関わろうと考えた背景」)、経済産業省(以下、経産省)の書店振興では、出版・書店業界のデジタルトランスフォーメーション(DX)化を主力に置いていることをうかがいました。ほかにも取り組んでいることはありますでしょうか。

経済産業省 文化創造産業課長 佐伯徳彦さん(以下、佐伯):今、いろいろなプロジェクトが動きつつあります。実は、出版・書店業界のバリューチェーンで、現在、利益が出ているのは一部の出版社だけなんです。

経済産業省 商務・サービスグループ 文化創造産業課長 佐伯徳彦さん
経済産業省 商務・サービスグループ 文化創造産業課長 佐伯徳彦さん
1977年生まれ。2000年東京大学法学部卒業。01年、東京大学大学院総合文化研究科を中退し、経済産業省入省。19~22年、日本貿易振興機構ロサンゼルス事務所次長。24年から「コンテンツ産業官民協議会」「映画戦略企画委員会」の政府側の構成員として、「エンタメ・クリエイティブ産業政策研究会」を開催。同年、文化創造産業課長(海外需要開拓室長、アート・ファッション政策室長、デザイン政策室長を兼務)。経済産業省の書店振興プロジェクトチームの事務局を務める(写真=猪俣 博史)

そのような現実になっているんですね。

佐伯:書店も取次も本だけで利益を出すのは難しい。その中で、慣行となっている利益配分をはじめ、業界の構造を改革していくことは必須だと考えています。そうなると、基本はやはりデータ整備で、全体の返本率を減らしていくことになります。

ともかくDX化が第一だ、と。

DXで業界を「見える化」することが役所の使命

佐伯:書店や取次といった民業に役所が介入することはできませんので、DXによる「見える化」で、ビジネス環境を整えることが、我々の務めになるんですね。

 実はDX化は書店での万引き防止にもなります。書店での万引きは、利益を圧迫する隠れた大問題なんです。大きな書店では年間で1店舗あたり100万円弱の損失があるといいます。

え、その金額は驚きです。

佐伯:本1冊を売った時の、書店の取り分は定価の22%前後です。もとより利幅が薄い中で、1冊でも盗られてしまったら、その5倍を売らないと取り返せない。そう考えると深刻な問題です。

経産省が力を入れるRFID(無線自動識別タグ)は、抑止になりますか。

佐伯:本にRFIDのタグが付いていれば、支払いの済んでいない本は、書店のゲートで注意音を鳴らすことができます。書店で実証実験を行ったところ、万引きされる量が年間ベースで約1400冊から66冊にまで減るという結果になりました。

数字で実証できているんですね。

佐伯:万引きそのものに効果がありますし、万引きされた時に店員さんが追いかけて、ケガをされるなどのリスクも減ります。

経産省の補助は、RFID対応のゲート設置への補助金とか、そういうものになりますか。

佐伯:ゲートも含めてシステム一式を導入するための補助金、という形に仕立てられないか検討しています。

 もう一つ、電子商取引の際の手数料も、書店の経営には痛いものなんですね。例えばカード決済では3%の手数料がかかりますが、そうなると書店の利益は20%を下回る結果になってしまいます。私どもから電子商取引の業界にお願いして、書店での手数料は低く設定していただく環境整備を進めており、一部のクレジットカードでは実際に2%程度に下がっています。

再販をやめろとの声はほとんどない

書店業界特有の再販制度(再販売価格維持制度)、委託販売制度についてはいかがでしょうか。それらによって本は書店が独自に値付けを行うことができなかったり、独自の競争力が生まれにくかったりする、という声があります。

佐伯:再販制度については、我々がお聞きしている中で「直ちにやめるべきだ」という声は、ほとんど聞きません。本の投げ売りが始まるような事態を許容したら、本が持つ重要な文化的側面が失われ、また業界全体が崩れてしまいます。値引き競争によって、さらに書店がなくなることが予想されますので、書店も取次も出版社も、そのようなことはしたくない。

そうなったら、元も子もないですね。

佐伯:ただ、利益率の分配が事実上、出版社側の決定事項になっていることについては、改革の声が強いと思っています。

本は最終価格と卸値を出版社が決めるので、そこから先の取次と書店への利益配分は、どうしても固定的になってしまいます。

佐伯:取次と書店への配分を、どのように持続可能な形で上げられるかが課題です。

フランスの「文化パス」に学ぶ点

となると、DX化によって、売れている本のデータを整備し、見える化することがいい――となっていくんですね。経産省では、米国、英国、フランス、ドイツ、韓国で事例研究も行っています。その中で、日本でも応用可能な方策はありましたか。

『国内外の書店の経営環境に関する調査』(2023年10月・経済産業省商務情報政策局コンテンツ産業課) スライド2「Ⅰ.諸外国における出版物の販売価格規制等の有無」(2023年10月公表時のもの)
『国内外の書店の経営環境に関する調査』(2023年10月・経済産業省商務情報政策局コンテンツ産業課) スライド2「Ⅰ.諸外国における出版物の販売価格規制等の有無」(2023年10月公表時のもの)
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佐伯:それぞれに背景事情が違うので、すぐに応用可能というものではありませんが、フランスの「文化パス」は応用可能なものだと思いました。

「文化パス」は以下のような立て付けです。

〇18歳の青少年は2年間の有効期限で、300ユーロが支給される。(2021年コロナ禍での施策)
〇15歳は20ユーロ、16歳と17歳は30ユーロが支給される。(22年に拡大)
〇「文化パス」は、書籍購入、観劇、映画鑑賞などに使用できる。デジタル商品への利用には上限がある。配送は不可なので、EC(電子商取引)では使えない。

この施策で、1450万冊の書籍が、実店舗で購入されたということですから、効果はありますね。

佐伯:そのような需要喚起は、やはり大切だと思います。日本の自治体には「地方創生推進交付金」という予算がありますので、それを原資にして図書カードを配る方策は可能性があります。

いわゆる反アマゾン法的なものでは、いかがでしょうか。

佐伯:日本でも反アマゾン法のようなものが必要ではないかという議論は、「街の本屋議連(街の本屋さんを元気にして、日本の文化を守る議員連盟)」という議員連盟で出ています。送料無料やポイント制によって、実質的な値引きが行われているが、だとしたら再販制度の意味がなくなるのではないか、ということが話されていますね。

逆に、なぜフランスでは反アマゾン法が成立しているのでしょうか。

佐伯:実はフランスでも、試行錯誤が続いています。役所が送料無料を禁止すると、アマゾン側は送料1円で対抗してきて、また、それに対抗して役所が法律改正を行ったり、と。

雑誌が書店に並ぶのは日本独特

世界を見渡しても、「これだ!」みたいな、有効な方策はなかなかないのですね。日本でいえば、過去に漫画がばかすか売れた時代の夢の続きに、まだみんなが浸っていて、ドラスチックな改革が進まない感はあります。これは書店に限らず、広範な業種にも通じる話ですが。

佐伯:書店に話を戻すと、確かに日本の市場は特殊だと思います。例えば、雑誌が書店の店頭にたくさん並んでいる光景は、我々にとっては普通ですが、世界から見ると稀(まれ)なのです。海外では雑誌と新聞は、ニューススタンドといったところで売られているのが普通です。

そうですよね。新聞が毎朝自分の家に届く、なんていうのも、日本だけでしたね。

佐伯:出版界で本のビジネスは赤字が多い状態でしたが、そこを雑誌がカバーして、ひいては業界全体を支えていました。その雑誌の売れ行きが下降線を描くようになって、書店経営が立ち行かなくなり、それで店を畳むお店が増えていることはあります。

それは地域の人口減少にも、深く関連していますよね。

佐伯:それはあると思います。人口減少とともに、店主さんの高齢化が進んで、RFIDのような新システムや、電子商取引など、新しい流れに付いていけないこともあると思いますし。

まちの書店が減ったからといって、そのお店をそのまま復活させることはできないですし、それが役所の目標でもないですよね。

佐伯:そこは、新しい需要に応じられるようにやっていかなければなりません。

すでに定着しつつある動きとして、例えばカフェを併設したり、文房具やCDの売り場もつくったりしているお店は、全体での黒字に成功している例が多い。本+カフェという形は、本を売る以上に、「コミュニティー機能」を売っている。そこに「新しい需要」のヒントがあると思うのですが、お役所としてはいかがでしょうか。

書店にコミュニティーの機能は必須

佐伯:コミュニティー機能は必須だと思います。というか、まちの書店さんは、もとからそのような機能を持っていた場所でしたよね。ただ、書店がほかの利益で回ればいいか、といったら、それはアイデンティティーを失うことになります。我々の務めは、書店がちゃんと食べていける利益配分になるよう、環境を整えていくことで、そこを考えるとDXによるデータ整備に、やはり落ち着いていくんですね。

この「書店再興」のインタビュー・シリーズでは、独立系と呼ばれる新刊書店のオーナーにもお話を聞いています。下北沢の「本屋B&B」の内沼晋太郎さんは、キャッシュレス決済の補助金は、ありがたいことは確かではあるが、それ以上にイベントへの補助など、ソフトウエアへのサポートを手厚くしてもらいたいと強調しておられました(「韓国の書店支援策と紙の本の明るい未来」)。

佐伯:それは確かにおっしゃる通りですね。人気のある新刊書店は、店づくり、棚づくりにこだわって、様々な工夫をされています。そのようなこだわりや工夫が、もっと広がればいいと思います。

昨年(24年)の秋はコロナが開けたというムードの中で、日本各地でブックフェアが盛んに開催されていました。

佐伯:私も新橋の古本市に出かけました。雑誌中心のブックフェアだったのですが、歴史的に見ても面白い本が並んでいて、楽しめました。「へえ、こんな本があるんだ」と、思わず手が伸びるような場所を、意識的につくっていくことが、やっぱり大事だなと思いました。

例えば「前橋ブックフェス」など、普段は人通りが少ない地方都市でも、みんなの文化祭みたいな雰囲気で、びっくりするぐらいの人出がありました。内沼さんがおっしゃっていたのは、韓国はそういったイベントへの補助が充実していて、日本でもそのようなソフトウエア支援が根付くとうれしい、というものでした。

前橋ブックフェスの様子(写真=清野 由美)
前橋ブックフェスの様子(写真=清野 由美)

すでに国は書店支援を開始している

国の支援に関しては、省庁間の連携もあるのでしょうか。

佐伯:書店の関係では今後、省庁連携で「書店活性化プラン」をつくっていこうと考えています。経産省内部の組織では、中小企業庁と日常的に連絡を取り合って、経営支援のスキームを整えています。

そのような支援は、知られていないケースが結構あります。

佐伯:役所は発信力がまだ弱くて、そこは我々の課題ですね。一番使いやすいものとして「小規模事業者持続化補助金」があります。これは3分の2以内の補助で50万円まで支援を行う内容です。例えば作家さんを招いてのフェアや対談イベントや、棚の一部を変えたいという時などに使うことができます。

 ほかにも「IT導入補助金」(上限50~450万円)、「事業承継・引継ぎ補助金」(上限150万円~800万円)など、いくつかの仕組みがあります。(参考:中小企業庁「書店経営者向け 支援施策活用ガイド」)

国が書店支援に前向きですので、書店経営をされている方や、これから書店のオーナーになってみたいという方は、ぜひ情報にアクセスしていただきたいですね。

佐伯:書店に行く人、書店を経営する人を増やすことと、それから、流通構造の中で適切な分配が行われるようにすることを、我々も応援します。役所が分配比率を決めることなどはできませんが、今の時代に合った、望ましい配分がなされるようなサポートに取り組んでいきたいです。

いろいろ考えておられる中で、経産省の書店支援の端的なキーワードはDX化である。そのことが、よく分かった今回のインタビューでした。

(経産省編、おわり)

日経ビジネス電子版 2025年6月4日付の記事を転載]

「本屋さんがなくなる」悲観論ばかりが叫ばれる書店業界で、直木賞作家・今村翔吾氏を初め、個人が、企業が立ち上がる。経済産業省や地方自治体も黙っちゃいない。昭和の発想を切り替えて、書店を「頑張れば稼げる」ビジネスに変えていく具体的な試みはいくつもある。これらの発想は異業種にも応用可能だ。

清野由美(著)/日経BP/2530円(税込み)