その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は小早川鳳明さんの 『コンサルタント的 省力説明術。』 です。
【はじめに】
筆者は、国内企業・海外企業の企業買収や経営再建・事業承継に長年携わってきました。外国企業買収後に株主として現地企業に乗り込んだり、グローバルコンサルティング会社の一員として、グローバル企業の国際M&Aを手掛けたりしたこともあります。こうした活動の中で、日本人・外国人、役員・一般社員と、本当に多様な国籍・階層の人々と仕事をさせてもらいました。
そこでよく出会ったのが、冒頭の3つの悩みを持つ人々です。
頑張っても、仕事がうまくいかない理由
このような悩みを持つ人の多くは、仕事に対して真面目な頑張り屋です。「たくさん資料を作って、たくさん相手に説明すれば、周りの人を納得させることができ、自分が思い描いた通りに仕事が進んでいく」と思い込んでいます。
確かに、組織の中で仕事をうまく進めるためには、周囲に上手に説明をして理解を得ることが不可欠です。しかしこれは、頑張るだけではうまくいきません。時間を費やしてたくさんの情報を準備したとしても、情報が多すぎると本当に必要な情報がぼやけてしまいます。自分がせっかく調べたり考えたりした成果が相手にうまく伝わらなくなってしまいます。しかし、これでは周囲の理解は得られず、仕事はうまくいきません。残念ながら評価もされないでしょう。
その結果、このような状況に陥ってしまうのです。
「よかれと思って、頑張って細かく説明したが、相手をいらだたせた」
「よかれと思って、たくさん情報を盛り込んだ資料を作ったが、結局何が言いたいのかと怒られる」
仕事がうまくいくのは、「説明力」が高い人
●「仕事で何かを説明する際は、オリジナリティーの高いストーリーを作ったり資料をゼロから新しく作ったりしなくては」と考えている。
●「資料作成時には似たようなフレームワーク(枠組み)の使いまわしは避けるべし」と思っている。
どちらかに心当たりがある人は、これらが原因で仕事がうまくいっていない可能性があります。
仕事がうまくいっている人は、説明や報告のための資料をゼロから作ることはありません。資料作成でオリジナリティーを出すことにこだわりません。
むしろ定番のテンプレートや説明のパターンを繰り返し使用して、さまざまな説明シーンに対処します。そうすることで説明がシンプルになり、分かりやすい説明ができるようになります。こうして周りの人の評価が高まり、仕事がうまく回るという好循環が生まれるのです。仕事がうまくいく人は、頑張りすぎずに上手な説明ができる「説明力」が高い人なのです。
説明力が高い人に共通する5つの「脱力」
高い説明力を持っている人に共通するのは、「脱力」が上手なことです。ここでいう脱力とは、「頑張らずに力を抜くこと」を指します。
脱力系説明スキルを高めるには、これまでの常識を捨てる必要があります。ポイントは、多くの人が従来努力してきたであろう5つを「頑張らない」ことです。
本書では、この5つを順に説明していきます。
①クリエーティブに考えない【思考法・分析編】
まずは思考・分析です。一般に思考にはクリエーティビティーが重要だとされますが、実際は世間に広く知られているフレームワークを利用したほうが分かりやすい説明ができます。世間に広く知られているということは、それだけ多くの人にとって理解しやすいということだからです。
ただし、よく知られているフレームワークだけでは複雑な事象が説明できません。第1章では、基本的な思考のフレームワークをうまく活用して、複雑な情報を整理する方法を紹介します。
②ゼロから作らない。プレゼンは〝構成〟がすべて【プレゼン編】
脱力系説明スキルを備える人は、プレゼンの構成をゼロから考えません。使い慣れたパターンを使いまわします。相手が欲しがっている情報を効果的に伝えるための「鉄板の構成」を持っていて、それを活用するのです。
プレゼンの中身が変わっても、この構成は変える必要がありません。鉄板の構成は、どんな場面にも通用するのです。第2章でその中身を紹介します。
③難しいテクニックは使わない。〝化粧〟で乗り切る【資料作成編】
脱力系説明ができる人は、PowerPoint(パワーポイント)の高度な機能は使いません。その代わりに、「手書き8割」で資料を作ります。そのほうが相手に伝わる資料を作りやすいからです。
修正にも手間をかけません。「この資料では分かりにくい」と上長から指摘されたとしても、最初から真面目に考え直すことはしません。小手先の表現テクニックを組み合わせ、表面上の見え方を変える〝お化粧〟をして乗り切ります。第3章では、相手を納得させられる脱力系資料作成方法を紹介します。
④オリジナリティーある資料は作らない【定型化編】
脱力系説明ができる人は、資料や文書作りに3つのパターンを持っています。この3つを状況に合わせて使い分けます。
いつも似たような資料ばかりを作るのはよくない、もっとオリジナリティーを出さなければ―。そんな考えは捨てましょう。仕事で必要な資料の種類は限られています。3つの王道パターンを持っておくことで、資料の質が安定し作成時間も短縮できます。
ただ、説明の場面や相手に合わせて情報の粒度を微調整することは必要です。第4章でその方法を紹介します。
⑤情報収集の網は広げない【情報入手編】
脱力系説明ができる人は、資料作りのための情報収集も頑張りません。ポイントは、網を広げず当たりをつけてから情報収集に着手すること。これを難しい呼び方で「仮説思考」と表現することもありますが、実はこれは誰もが日常生活で無意識のうちに実践しています。それを仕事にも生かせばよいだけです。
頑張って幅広く情報を集めても、多くの場合時間の無駄となってしいます。これを避けるために、どのように当たりをつければよいのか第5章で解説します。
実は①〜⑤は、外資系コンサル出身者が毎日、鍛えているスキルでもあります。筆者自身、研修トレーナーも務めていましたが、若手社員を指導するときもこれらを伝えていました。これまで共に働いてきた外資コンサル出身者たちも、この5つを基礎スキルとして身につけていました。
本書では、これらを読者の皆さんが、日々の仕事をイメージして身近に感じていただけるよう、実際にありそうなシーンを設定しながら説明しています。
なお、本書で説明する内容は、知識として覚えてもまったく意味がありません。読者の皆さんには毎日のあらゆる仕事の場面で生かしていただきたいと考えています。ご自身の仕事と結びつけながら身につけていただけるよう、各回の最後に宿題もつけています。力を抜いて高い「説明力」を体得するために、是非実践してみてください。
【目次】