その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は森岡謙仁さんの『 ドラッカーに学ぶ!管理職 養成講座 』です。
【はじめに】
本書は、職場・チームの成果を高め、そして自らを成長させるマネジメントの方法について書いた本です。
現代は混迷の時代です。このような時代には、自分の考えをしっかり持ち、自らを成長させることで未来を切り開くことが求められます。
「これからはますます多くの人たち、とくに知識労働者のほとんどが、自らをマネジメントしなければならなくなる。自らを最も貢献できるところに位置づけ、つねに成長していかなければならない。」
これは、最晩年のドラッカーが1999年発行の『明日を支配するもの』(p.192)第6章「自らをマネジメントする」の中で語ったことです。
人生の大半は仕事です。2人以上のチームで仕事をし、互いの専門性と強みを合わせ、社会や組織の要求に応えることが求められます。まさにマネジメントの能力が成果を左右します。
ドラッカーの言葉にある「知識労働者」とは、学校教育で学んだ知識(読み書き計算)を基に仕事をしている、読者の皆さまを含めた私たち全体を指します。私たち一人ひとりが、自らをマネジメントすること、ドラッカーがいうところの「マネジング・ワンセルフ(Managing Oneself)」を求められているのです。
ミドルマネジャーが抱える課題
筆者は、2003年以来、日経ビジネススクールで6年間・日経BP主催で15年間合わせて22年間一貫してCIO養成講座(注1)の講師をしています。1000名を超える受講者のほとんどが上場・中堅企業の経営層とその候補者であるため、経営層が自社のミドルマネジャー、つまり職場やチームのリーダーに対して何を望んでいるのかを、多少なりとも理解しています。
経営層がミドルマネジャーに期待する8つの能力を挙げると、次の通りです。
(1)より良い社会をつくる普遍的価値の実践力
(2)SDGsに代表される社会的課題を解決できる専門力
(3)信頼できる仕事のパフォーマンス力
(4)専門性を陳腐化させない継続的な学び力
(5)人事部に頼らず自らのキャリアを切り開く能力
(6)一緒に働く人や組織に対する貢献力
(7)共に働く人とチームとして成果をあげる関係性の構築力
(8)経営者マインドを持ち第二の人生を切り開く能力
これらに加えて、デジタル技術やAI(人工知能)を仕事で活用できるスキルや、外国人と仕事をする能力があれば、それに越したことはありません。これらは広い意味で自らをマネジメントする能力そのものなのです。
さらに上を目指す人のために筆者が加えるならば、
・世界情勢に関心を持ち自分の仕事の方向性を考える能力
・世界史・日本史を学び自らの民族的な長所と短所を理解する能力
・よりよい社会経済をつくるために新たな課題を提案する能力が、今の時代には求められています。
自らを成長させる心得
本書のタイトルにもある「管理職」とは、役割・職能を指す言葉です。その呼び方は組織の業種・規模やおかれている立場によって変わりますが、その意味するところは「マネジメントを実践できる者」であり、人を管理する管理者を表す言葉ではありません。実際、マネジメント能力が無い管理者よりも、マネジメント能力がある技術者のほうがはるかに頼りになります。重要なのは、必要な管理職能を持っているか否かであり、直属の部下がいるかどうかは関係ありません。
このような管理職の心得にふさわしいドラッカーの言葉を見つけました。
「成長は、常に自己啓発によって行われる。企業が人の成長を請け負うなどということは法螺(ほら)にすぎない。成長は一人ひとりの人間のものであり、その能力と努力に関わるものである。いかなる企業といえども、自己啓発に関わる努力の肩代わりをすることはできない。」(『マネジメント』[中]p.66)
筆者の経験からしても、成長に向けて自らをマネジメントできない者が職場やチームを率い、組織とともにより良く成長することはできないのです。
マネジメントをどこで学ぶか
読者の中には、マネジメントは自分で学べる、あるいは大学院で学べるものだと思っている人もたくさんいるでしょう。素晴らしい上司(マネジャー)に育てられた経験がある人は幸運です。自分を成長させてくれた元上司から受けた正しいマネジメントを学び、実践してきたからです。ところが、そのようなマネジメントでさえ、ある場面でしか成果を出さないのです。バブル崩壊後、低迷する日本の社会経済の中で、組織が抱える新しい経営環境の変化やAI・デジタル化の流れの中では、成功する保証はどこにもありません。世界の先進国でさえ、うまく行っていないように見えます。
ドラッカーもマネジメントは先進社会の決定的な機関になったとしたうえで、「さらには、あらゆる国において、社会と経済の健全さはマネジメントの健全さによって左右されるというものである。そもそも国として、発展途上国なる国は存在せず、存在するのはマネジメントが発展途上段階にある国だけであるということに私が気づいたのは、ずいぶん前のことだった。」(『マネジメント[エッセンシャル版]-基本と原則』日本の読者へ、2001.11)と語っています。バブル崩壊以降、低迷を続ける我が国の社会経済を見ると、形だけの先進国であり、実はマネジメント発展途上国である日本の姿が透けて見えるのは筆者だけでしょうか。
正しい問いからマネジメントを学ぶ
そうなると、このような時代においても自らを成長させるとともに、より良い組織づくり、より良い社会づくりに貢献できるような正しいマネジメントをどこで学ぶことができるのか、という疑問を解決しなければなりません。この疑問に正面から取り組んだ一人が、ピーター・ドラッカーです。詳しくは、第1章に譲ることにして、ここでは彼の次の言葉を紹介します。「実に、この間違った問題への正しい答えほど始末におえないものはない。」(『マネジメント』[中]pp.118-119)と述べていますが、「この間違った問題」とは、我が国が行った1941年の対米開戦を指して述べているのです。間違った問題や課題を設定し、一生懸命に答えを出して正しいと思われる答えを出せたとしても、やはり不幸に至る間違った答えなのです。従って、私たちはマネジメントを学ぶ場合、「正しい問い」から学ぶ必要があるのです。
新しい日本のマネジメントを創る管理職のためのMSC
本書を執筆するにあたり、ベースとした書籍は3冊あります。1954年発行『現代の経営』、1973年発行『マネジメント』、1999年発行『明日を支配するもの』です。これらの本は、今からさかのぼること約70年、50年、25年前にドラッカーが書いたマネジメントの本ですが、内容は、「たくさんの問い(質問)」からできています。その問いは、自らが成長し、より良い組織をつくり、より良い社会をつくるために必要な問いです。私たちが自分事として自らに問い、自らの組織により良い成果を出させ、よりよい社会づくりに貢献するために実践していくべき問いです。
筆者は、ドラッカーを20年研究していますが、彼の説いたマネジメントの有効性を日々確認させられています。その成果の一つが、本書で解説するマネジメント・スコアカード(以下、MSC)なのです。
本書の対象読者である職場やチームのリーダーは、上司を持ち部下や後輩を持つ中間管理職です。職場やチームの成果に責任を持つこと、部下を育成すること、上司を支え部署や組織の成果に貢献することが求められます。ドラッカーが説いたマネジメントとそのフレームワークであり、ツールでもあるMSCを学び実践することで、このような要請に応えられるものと信じています。自らを成長させ続けることで、次のステップとなる「第二の人生」の準備もできるのです。
本書の構成
本書の構成は、次のとおりです。
第1章は、ドラッカーが説いたMSCの概要を紹介します。
第2章は、読者が管理職(ミドルマネジャー)として自らをマネジメントし、自らを成長させるのに役立つ「8つの問い」を、マネジャーとして直面しそうな具体的な事例(ケース)とともに紹介します。
第3章と第4章は、職場やチームを成長させる「30の問い」を紹介します。
まず第3章では、MSCの上半分に相当する「基本計画」を、事業の定義と5つの重要な質問(問0~5)を基に作成する方法を解説します。2つのケースを基に、基本計画の立て方と、基本計画の使い方を解説します。
第4章は、MSCの下半分に相当する「実行計画」を、24個の問い(問6~29)を基に作成する方法を解説します。第3章と同じく、2つのケースを基に、実行計画の立て方と、実行計画の使い方を解説します。
新しい日本のマネジメントを創るために
失われた30年といわれる日本経済ですが、日本流のマネジメントの限界が露呈した、との見方もできます。
本書にサブタイトルを付けるとすると、「新しい日本のマネジメントを創るために」となります。
混迷の時代、マネジメント能力がないために機能しない組織、業界、社会も変革期を迎えています。ドラッカーは、機能しないことを病(やまい)と捉え、その治療医としてのコンサルタントと社会人教育を生涯続けました。病を治療するための処方箋が、体系化されたマネジメントであり、それがMSCなのです。自らをマネジメントすることの第一歩は、MSCにある「問い」に答えることです。先にあげた、経営層がミドルマネジャーに期待する8つの能力は、これらの問いに答え、かつ実践することで、徐々に鍛えられます。本書を読み、MSCの問いに答え、少しずつ実践することで、職場やチームの成果を高めるとともに、自らの成長を実感していただけるものと信じています。
本書は、世界で初めて、ドラッカーが断片的に語っていたMSCを体系的に解説した本でもあります。また『現代の経営』から70年、『マネジメント』から50年、『明日を支配するもの』から25年という歴史の流れに沿った一冊です。
ドラッカーがマネジメントに込めた真意をどれだけお伝えできるか分かりませんが、可能な限り分かりやすさに主眼を置き、1冊の書籍にいたしました。お読みいただくだけでなく、フレームワークとして、また道具として使っていただければ幸いです。
マネジメントに課題を感じている人に。
2024年12月23日 森岡 謙仁
【目次】



