その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はジョシュア・W・ウォーカー(著)、石垣友明(訳)の『 同盟の転機 アメリカの変貌と日本の戦略 』です。「まえがき」をお届けします。
【まえがき】
日米関係の深層を知る意味
我々は今、「ピーク・ジャパン(Peak Japan)」とも呼べる時代に生きている。ポップカルチャーから和食、イノベーションから外交に至るまで、日本の魅力は世界中にあふれている。しかし、日本は単に人気であるだけではなく、これまでにない試練にも対処しなければならない。新しい総理大臣は、国内及び海外において、第二期政権成立後、1年が過ぎようとしているトランプ大統領への対応を含め、様々な難問に直面している。
ひっきりなしに新しいニュースが報じられる世界において、日本が見出しにならず、世界の関心から外れてしまう事態は容易に生じ得る。この本は、ニュースの見出しや表面的な動きに一喜一憂せず、日米関係の奥深いところに立ち入り、両国の結びつきを知るための案内状である。
ニュースの裏側にあるアメリカを知る
世界中の国々、そして日本にとって、ほとんどの場合、現在のアメリカとその大統領は、ニュースの見出しを通じてしか知られていない。特にトランプ大統領は、ニュースの中心となったり、耳目を集めるSNSの発信をしたりすることで影響力を確保しようとすることからも、そうした傾向が著しい。またトランプ大統領の周りの熱烈な支持者や、ひっきりなしに発出される大統領令、これまでに例を見ない政策の数々は、従来の政治の発想を超えるもので、我々はそうした連日のニュースに翻弄されがちである。
しかし、本当にアメリカを理解しようとするのであれば、日本とその他の国々は、トランプ大統領の選出が、一過性の社会現象なのか、これまでのアメリカ社会からの根本的な逸脱なのかを見誤ってはいけない。アメリカのことをよりよく理解し、その上で、アメリカとの関係をうまくマネージできなければいけない。
アメリカをめぐる現在の短期的なショックと雑音の底辺には、より長期的な傾向が存在する。それらは、孤立主義への漂流、同盟への懐疑心、そしてグローバリゼーションに対する根本的な疑問である。
そうした思想的な傾向は、アメリカ社会の中で、これまで何年もかけて積み重なり、強まってきたのである。日本自身も、長年にわたり、外国人や移民、そして日本の国家としてのアイデンティティーに関する議論を国内で繰り広げてきた。それゆえに、こうしたアメリカ国内における社会問題をめぐる緊張関係については、よく理解できるのではないだろうか。
こうした文脈の中でも、日米関係を理解する上では、大統領や首相の個性を分析する以上の努力が必要である。そして、日米関係を基礎づける、より深い物語(ストーリー)に焦点を当てなければならない。現在のニュースの見出しは、ワシントンDCや永田町のリーダーばかりに集中しがちである。しかしながら、日米の本当の絆は、数えきれないほどのアメリカにおける日本の企業の成功や、文化人の功績、そして一人ひとりの普通の人々の努力によって築かれてきたのである。
こうした努力は、人知れず静かな形で、アメリカの社会を深く形作ってきた。世界的に知られた大企業が、アメリカの地元コミュニティに何十億ドルを投資し、日本文化がアメリカに輸出され、アメリカ人の世界観を大きく変えた例は数えきれない。アニメ、和食、デザイン、そして人生哲学にいたるまで、アメリカにおける日本の存在感は、一般に思われているよりも、はるかに豊かで影響力が大きい。
新たなパートナーシップを築く機会
その一方で、アメリカだけでなく、日本自身もリーダーシップをめぐる課題に直面している。新たな総理が就任する時代は、これまで以上に世界的な不透明感が漂っている。
日本はまた安倍晋三首相より前の時代のように、毎年リーダーが交替する時代に戻るのであろうか。アメリカが、世界でどのような役割を担うべきかを自問しているのと同じように、日本国内でも、政治的な転換期において、アメリカとどのように付き合っていくか、そしてトランプの時代を超えて、日米関係をどう築いていくかは、これまで以上に慎重に考えるべき重要な問題である。
これは単にトランプ大統領の行動や脅迫にどのように対応するかという問題ではない。むしろ、日本とアメリカの関係をより積極的に構築し、日本の利益を守り、世界の安定にどう貢献するかという問題である。日本はこれを安倍政権の時にトランプ大統領との関係で実現できたが、今度は一人の総理に頼るだけでなく、国の総力を挙げて取り組まなければ、成功はおぼつかない。
過去80年間、日本の多くの人々は、アメリカを日本にとっての兄貴分(older brother)としてとらえてきた。日本を守り、アドバイスし、時には厳しく接する相手として見てきた。
しかし、本当のことを言えば、日本の方が国家としてははるかに歴史が長く、文化も豊かで、強靭(きょうじん)性に富み、アメリカをはるかに超えた経験を積んでいる。現在のような世界の混乱期にあって、日本はアメリカに対して提供できることがたくさんある。経済的な投資や地政学上の戦略的な連携だけでなく、日本の豊かな文化や経験、忍耐強い社会や、相手の行動やニーズを予測して対応する「おもてなし」の精神などである。
もし、日本がこうした精神をトランプのアメリカに対処する上で活用すれば、現在の流動的な時代はむしろ、双方の敬意と将来に向けた展望に基づく、新たなパートナーシップを築く機会に変えられる可能性さえある。
「親しみ」と「驚き」の物語
本書は、私にとっては原点回帰の物語ともいえる。私は日本と深いつながりを持つ家庭に生まれ、日米両国の文化のはざまで育ち、先人たちが築いた日米両国の架け橋を行き来する人生を送ってきた。私が今回この本を世に問うことは、日本のことを一番よく知っている日本の読者に対して、日本に関する自分の経験を共有しようとすることに近い。これは無謀な試みともいえる。というのは、誰にとっても日本は簡単な国ではなく、日本人にとってさえも、日本のことを理解したと思った瞬間、新しい側面が明らかになるからである。
本書で紹介するのは、私の日本に関する個人的な体験だけでなく、また国際関係に関する学術的な研究でもない。これは幼少期を北海道で過ごした「道産子(どさんこ)のアメリカ人」が、仕事を通じて日米関係と国際的な外交の中核に関わった、生(なま)の視点を提供するものである。
私は、研究者や実務家としてだけでなく、日米関係に関わる両国民の価値観を通じて成長した、息子、父、そして日米の架け橋として、この本を著した。私は日米の価値観が持つ双方の優れた面を通じて育った一方で、その良さを自分で体現できてはおらず、本書で示した内容を実践できているわけでもない。また個人的な経験をもとに書いているがゆえに、日米関係に関する見方も万全ではないことも痛感している。
願わくは、日本の読者がこの本の内容について親しみと同時に驚きを感じてほしい。親しみについては、本の内容が、日本の人たちが日常を通じて経験する調和、しなやかさ、そして刷新の精神に対する敬意の表明だからである。それらこそが第二次世界大戦以降の日本の旅路を象徴する内容だからである。
本書の内容に驚きがあるとすれば、人生の大半を通じ日本の国と人々と密接に関わってきたアメリカ人として感じた点を指摘しているからである。本当の友人は、真実を語るときに、仮にそれが居心地の悪いことであっても躊躇(ちゅうちょ)はせず、相手の鏡となって、本人が気づいていない弱さだけでなく、当たり前と感じている長所についても語ることができると自負している。
日本が今日の分裂と不確実性に満ちた世界において、より大きな役割を担うためにも、私は日本のソフトパワーや強固な経済力、そして明確な目的意識が、これまで以上に重要になると感じている。本書を通じて、日本の幅広い読者が、これまで自分たちがアメリカや日本に対して抱いていたイメージを考え直し、日米のパートナーシップについて、より大胆な発想で考えるきっかけとなればと願っている。
【目次】










