その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はレイ・ダリオ(著)、斎藤聖美(訳)の『 世界秩序の変化に対処するための原則 なぜ国家は興亡するのか 』です。「はじめに」から抜粋してお届けします。

【はじめに】

 これからの時代は、これまでに経験してきた時代とは大きく異なるだろう。とはいえ、同様のことが歴史の中では何度も起きている。

 なぜわかるかって? いつだってそうだったからだ。この50年ほど、責任をもっていい仕事をするために、私は、国家、そしてその市場の成功と失敗を決めるもっとも重要な要因は何かを理解しようとした。そして、それまでに直面したことのない状況を予想し対応するためには、歴史からできる限り多くの類似事例を研究し、それが生じた仕組みを理解することが必要だと学んだ。そうすることで、そういう場合にうまく対応するための原則を身に着けることができた。

 数年前、今まで経験することのなかった大きな出来事を目撃した。だが、それは歴史の中では何度となく起きてきたことだった。巨大債務と、ゼロあるいはゼロに近い金利が同時に生じ、世界の3大準備通貨(基軸通貨)で大規模な金融緩和がなされた。過去1世紀で最大と言える経済的・政治的格差と価値観の相違により、各国で大きな政治的・社会的な対立が生じた。それはとくにアメリカで顕著だった。新たな世界的勢力(中国)が興隆し、既存の世界大国(アメリカ)と既存の世界秩序に挑戦するようになった。このような出来事にもっとも類似する時代は、1930~1945年の時期だ。私はこのことを極めて憂慮している。

 過去の類似する時期を学ばない限り、何が起きているのか、これから起きる事柄に対応するにはどうすればよいのか理解できないと私は考えた。そこで私は帝国の興亡、その準備通貨、その市場を勉強するようになった。現在起きていること、今後数年間に起きうることへの理解を深めるために、歴史の中の同様のケースの仕組みを勉強する必要があったのだ。たとえば、1930~1945年の時代、オランダ帝国や大英帝国の興隆と衰退、中国王朝の盛衰などだ(*1)。これらを学んでいるときに、新型コロナウイルス・パンデミックが襲った。これも私にとっては初めての大きな出来事だったが、過去には何度もあったことだった。過去の疫病はこの研究の一部となり、私は、病気、飢餓、洪水などの自然の驚くべき仕業を見せつけられた。これらは可能性として捉えておく必要がある。自然によるこういった不意打ちは滅多に起きないが、起きたときには、厳しい不況や戦争よりもはるかに大きなインパクトを与えるものだ。

 歴史を研究して、歴史というものは比較的はっきりとしたライフ・サイクルで生じるものだと思うようになった。生命体のように1つの世代から次の世代へと進化していくのだ。実際、歴史と人類の将来は、時とともに進化する1人ひとりの物語が集まってできあがるものだと見ることができる。有史以来今日に至るまで、この物語が1つのまとまった流れになっているように見える。基本的に同じ理由で、同じことが何度も何度も繰り返し起こりつつも進化していくのだ。多くのことが相互に結びついて一緒になって進化するのを見ると、それらを支配するパターンと因果関係が見えてきて、将来を想像することができるようになった。それは歴史の中で何度も繰り返し起こり、帝国の興亡のサイクルの一部となっている。 教育水準、生産性水準、他国との貿易水準、軍隊、そして通貨などの金融市場。こういったものが帝国を作り上げていることが見えてきた。

 こういったものは周期的に動き、互いに絡み合っている。たとえば、国家の教育水準は生産性水準に影響を与える。それは他国との貿易水準に影響する。貿易ルートを守るのに必要な軍事力の強さに影響する。それが通貨や市場に影響を与え、その他多くのものに影響を与える。それらの動きがまとまって、長期的な経済そして政治のサイクルを作り出す。大きな成功を収めた帝国や王朝はそのサイクルを200年や300年継続している。私が研究した帝国や王朝はすべて典型的なビッグ・サイクルの中で興隆し、衰退していった。ビッグ・サイクルには明確な目印があるから、それを見れば今われわれはどこにいるのかがわかる。

 このビッグ・サイクルは1)生活水準を大幅に向上させる創造性と生産性に富む平和な繁栄の時期、2)富と権力を巡る争いが多発し、富、生活その他大切なものが破壊される不況、革命、戦争の時期との間を行ったり来たりする。平和で創造性にあふれる時代は、不況/革命/戦争の時期よりもずっと長く続く。たいていは5対1の比率だ。だから、不況/革命/戦争の時期は、平和で創造的な時代の合間にやってくる移行期と言ってもよいだろう。

 平和で創造的な時期のほうが楽しい時期であることは間違いない。だが、こういったものすべてには進化を前進させるなんらかの目的がある。だから一概によいとも悪いとも言えない。不況/革命/戦争は多くのものを破壊するが、朽ち果てたゴミなどを一掃してくれる嵐のように、脆弱性や(過剰債務のような)過剰なものを取り除き、健全な社会基調に戻し、(痛みは伴うが)新たな始まりをもたらす。紛争が解決した後は、誰が、どのような権力を持つのかが明確になる。誰もが平和を切望するから、新たな通貨、経済、政治制度を、そして新世界秩序を作り出そうという決意がみなぎる。それが次の平和で創造的な時代を育む。ビッグ・サイクルの中には、別のサイクルが存在する。たとえば、債務の長期サイクルは100年ほど続き、債務の短期サイクルはおよそ8年続く。この短期サイクルの中にもまた、長い繁栄の拡大期があり、短期の景気後退に中断される。このサイクルの中にもう少し短いサイクルがあり……と続いていく。

 このサイクルの話で頭がくらくらする前に、重要なことを伝えておこう。それは、サイクルが整ってくると、歴史の構造が変化し、すべての人の生活が大きく変わるということだ。この変化はひどいものになることも、素晴らしいものになることもある。それは将来必ず起こる。だが予想できない。言い換えれば、サイクルの中で両極端に状況が振れるのは普通のことで、例外ではない。1世紀の間に好況/調和/繁栄の時期と不況/内戦/革命の時期が一度も起きない国はごくごく稀だ。だから、いずれも起きるものと考えておくべきだ。だが、歴史を振り返るといつの時代でも人は、将来は直近に起きたことが多少修正されたものになると考えてきた(今日でもそうだ)。それはなぜかというととてつもなく大きな好況の時代ととてつもなく大きな破綻の時代は、他のことでも同じだが、一生に一度の割合でしか起こらない。だから、歴史のパターンを何世代にもわたって研究した人でない限り、びっくりすることになるのだ。素晴らしい時代と悲惨な時代の間は長く間があくことが多いから、私たちが出くわす将来は、大半の人が期待するものとは大きく異なる可能性が高い。

 たとえば、大恐慌や第二次世界大戦を経験した私の父やその時代の人は、戦後の経済急成長を想像だにしなかった。それまでの経験とはあまりにもかけ離れていたからだ。その経験から、彼らが借金することを考えず、苦労して貯めたお金を株に投資しようとは思わなかったために好況時に儲けられなかったことはよく理解できる。同様に、何十年か後、債務が作り出した好景気だけを見て、不況も戦争も経験していない人たちが、多額のお金を借りて投機に走ったのも理解できる。彼らは不況や戦争はあり得ないと思っていたのだ。同様のことがお金にも言える。お金は、第二次世界大戦後(金にリンクした)兌換可能な「ハード」貨幣だった。だが1970年代に、各国政府は借入を可能にするため、そして企業の倒産を回避するために、貨幣を「ソフト」貨幣(つまり不換貨幣)にした。その結果、現在多くの人は、もっと借入を増やすべきだと思っている。借入や債務による資金調達が生み出す好景気は、歴史的に見れば不況をもたらし、内部対立と外部対立を生み出すことになるのだが。

 このように歴史を理解すると疑問が生じ、それに対する答えは将来を占うのに貴重なヒントとなる。たとえば、私が知る限り米ドルは世界の準備通貨で、金融政策は経済刺激策として有効に働いてきた。民主主義、資本主義は広く優れた政治・経済的制度だと受け止められてきた。歴史を学んだ人なら誰でも知っているが、政治制度や経済制度、貨幣、帝国が、永遠に続いたことはない。それなのに、制度が破綻すると誰もがまさかと思い、メチャメチャにされてしまうのだ。私や私の大切な人たちは、どのように不況/革命/戦争の時代に突入する時期を知って、うまく切り抜ける方法を見つけるのだろう。当然、私は考えた。私の仕事は、環境にかかわらず資産価値を保全することだ。だから、壊滅的な時代であってすら歴史の中でうまく機能したのは何だったかを理解して戦略を練る必要があった。

 私が学んで役に立ったことが、あなたの役にも立つのではないかと思い、それを伝えようと思った。それが本書の目的だ。じっくり考える一助になれば嬉しい。

(*1)誤解のないように付け加えると、私は過去のこういったサイクルを記述しているが、変化をもたらした因果関係を理解せずに、過去に起きたことは将来必ず起きると信じているわけではない。何にもまして私が目標としているのは、因果関係を見て、今後何が起こる可能性があるのかを理解するのに利用し、一番いい形で対処するにはどの原則が適しているか、私と同じように考えてもらいたいということだ。


【目次】

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