その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は小野里樹さん、鈴木庸介さんの『 DX Ready基幹システム刷新術 』です。
【はじめに】
DXが成果を生み出さない原因は何か?
DX(Digital Transformation)とはデジタルデータを活用する業務変革・ビジネス変革であり、それを実践するために、多くの企業ではおおもとのデータを保管する基幹システムのモダナイゼーションを進めています。ただ、残念ながらDXの大きな成果を得ている企業は少ないのが実情です。
DXの成果が出ないのは、データを活用する側の問題──。今、この本を手に取ったあなたは、そう、言い切れるでしょうか?
筆者は、DXが大きな成果を生み出していない理由の一つは、基幹システムにあると考えています。例えば、システムトラブル時に致し方なくパッチしたようなイレギュラーなデータなど、残っていないでしょうか。似たようなデータがあるにもかかわらず、現行機能を保証するために、名寄せをせずにそのままデータを二重持ちにしていることはないでしょうか。データの業務上の意味や関係性、必要性すら分からなくなってしまったデータはないでしょうか。
もし会社の上位層が、現場のデータを正しく分析して課題と施策を考える場合、現場のデータは品質の良い生データである必要があります。その生データとは、基幹システムが保有している、品質が確保されたデータに他なりません。前述したような、いわゆる“ごみデータ”がある状況では、間違ったデータで分析する可能性があり、大きな成果を出す変革はとても困難です。
偉そうに書いていますが、筆者自身、少し前までとても胸を張れる状態ではありませんでした。筆者は大手メーカーの基幹システムを担当するエンジニアで、過去には基幹システムを老朽更新する際のデータ移行時に、“ごみデータ”のお掃除をしていました。そのデータ作業自体、長年システムを維持してきた有識者に大きく依存し、どのようなデータがあるのか、その管理すらできていませんでした。
また、基幹システムの内部に目を向けると、問題はデータ品質だけでなく、システムのプログラムロジックが複雑化し、業務変革どころか改善にもひと苦労している状態でした。
こうした状態から抜け出すにはどうしたらいいのか──。筆者はこの課題に正面から取り組み、試行錯誤を繰り返して1つの考えにたどり着きました。それは、「データマネジメントの考え方を取り入れて、まずデータの問題を解決する」というアプローチです。
一般的な基幹システムにはデータにもプログラム(機能)にも問題はあり、基幹システムを老朽更新する場合、プログラムに着目することが多いのですが、DXで成果を出すにはそれではうまくいかないと気付いたのです。先にデータの問題を解決できれば、プログラムロジックもシンプルにできてシステムも改善しやすく、業務への変化にも追随しやすくなります。
データを活用して業務を改革する(=DXを推進する)には、「基幹システムに保有しているデータの品質が高く、柔軟にプログラムを変化できる状態」になっていることが欠かせません。こうした状態を本書では「DX Ready」と呼んでいます。DXで成果を出せないでいるのは、基幹システムがDX Readyではないからです。基幹システムがDX Readyになっていて、初めてDXをGo(推進)することができるのです。もし基幹システムのデータ品質やシステムの柔軟性に不安を感じるのであれば、早々にReady状態にする必要があります。
本書のターゲットと得られるメリット
本書は、基幹システムを担当されている方、主にリーダーとして会社から基幹システムの固定費低減やデータ活用推進の指示を受けているものの、進め方に悩まれている方を想定して執筆しました。ユーザー企業の情報部門やSIer、業種や官民を問わず、基幹システムを担当されているすべての方を対象にしています。また、「基幹システム」と表現していますが、会社の業務データを扱う事務系システム全般が本書の対象になります。
本書を読み終えると、基幹システムをDX Readyにするためのプロセスを理解し、実践できるようになります。そのことにより、現在担当しているシステムについて、DXへ向けたモダナイゼーションの企画立案から新しいシステムの構築、その後の維持・保守までをリーダーとして推進できるようになります。その前提として、基幹システムをDX Readyにすることの必要性と、DXへのつながりを説明できるようにもなります。
なお本書では、システムのうちアプリケーション部分を対象としています。ハードウエアやOS、ミドルウエアなどのインフラ基盤に関するモダナイゼーションは本書の対象外となりますのでご注意ください。
本書の内容
本書では、レガシーシステムといわれる基幹システムを、DXへつながるようにモダナイゼーションするための一連のプロセス、再構築の企画構想からシステム再構築(開発)、維持・保守までを説明しています。
第1章では、現行の基幹システムが抱えている課題認識から入り、「DX Ready」とは何かを定義しています。そして、第2章と第3章で基幹システムをDX Readyにする方法を、筆者の実経験を基にまとめたプロセスを説明しています。
第2章では現行の基幹システムで保有しているデータの分析方法、分析結果からデータの問題を見つけ、そこから業務とシステムの課題へひも付ける観点を説明しています。そして、見つけた課題から対応策の検討、再構築プロジェクトとして起案するまでのプロセスとポイントを説明しています。各プロセスの説明では、なるべく実践的になるように、各プロセスで直面する課題とその対応策にも言及しています。
第3章では、実際にシステムを構築するプロセスを説明しています。第2章で立案した対応策をシステムへ実装するための方法とポイントになります。システムの開発手順については、各社に慣れ親しんだ開発手順が整備されていると想定されたため、既存の開発手順をすべて置き換えるのではなく、既存の各社の開発手順に組み込めるように留意しました。具体的には、各開発工程において、対応策を基にデータ品質を高め、そこからシンプル・スリムにシステムを実装するためのプロセスとポイントを説明しています。
第1章から第3章が既存基幹システム(=レガシーシステム)をDX Readyにモダナイズする方法論であり、本書のメインとなります。
第4章では、基幹システムをDX Readyにした後、DXの一歩目を踏み出すときの留意点に触れています。特に、業務を変革するために描いた将来のビジョンを、ビジョンだけに終わらせないことに注力しています。
そして最後の第5章とAppendixでは、本書に一貫して取り入れている「データマネジメント」について述べています。当方法論を実践する上で最低限必要となる知識について補完しています。また、より深いデータマネジメントの学びにつなげるために、データマネジメントの知識体系「DAMA-DMBOK(Data Management Body of Knowledge)」との関係を整理しています。
読者の皆さんへ
DXを推進するには基幹システムをDX Readyにすることが重要だと考えていますが、DX ReadyとはDXの土台づくりであり、それだけでは重要性が理解されづらい側面があります。なぜなら、その効果が花開くのは、DXを実現できたときだからです。しかし、良質な土でないときれいな花を咲かせることはできません。また、良質な土づくの方法を一から模索するのは、愚直で、とても労力がかかります。
筆者自身、1人で活動を始めた当初は、DXの土台づくをしたいという思いはありましたが、多少のデータモデリングの知識しかなく、活動の一時中断や中止の危機もありました。しかし、愚直に活動を続けた結果、小さいながら具体的な効果が言えるようになり、次第に社内外の仲間も増え、様々な知見を基に活動を進めて、最終的にはプロジェクトとして活動することができました。本書は、そのような泥臭い作業を振り返り、改めてプロセスとしてまとめたものになります。
この本を手に取ってくださった方の中にも、同じ悩みや課題を持たれている方がおられるかもしれません。そのような方に、本書が一助になれば幸いです。
DXはバズワードではありません。DXの重要なカギを握っているのは、基幹システムを担当している皆さんです。基幹システムはDXには欠かせないものなのです。きっと、ここまで文章をお読みいただいた方は、自らの手で社内のDXを実現したいと思われている方だと思います。そして、この先に待ち構えるいくつもの困難な課題も突破していける方だとも思います。
大丈夫です。最初は1人でも、自ら行動を起こし活動の情報を発信すれば仲間は増えていきます。その活動の傍らに、本書があれば筆者としてはこの上ない幸せです。本書と一緒に、DXへ向けた一歩を踏み出しましょう。
筆者を代表して
小野里樹
【目次】







