その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は水谷享平さんの『 話が長いエンジニア、答えを急ぐ営業 すれ違いを武器に変える「仲介思考」の育て方 』です。
【はじめに】
エンジニアと営業は仲が悪い
「どうしてこんな簡単なことが伝わらないんだろう」
仕事でこんな思いを抱いたことはありませんか。
ごく当たり前のことを理解してくれない、必要な情報を教えてくれない、論点がずれすぎている。話が絶望的にかみ合わず、お互いに「もっとまともな人と仕事がしたい」と思っている――。
こうしたすれ違いは社内の至るところに存在しますが、特に有名なものが「エンジニアと営業のすれ違い」です。ものを作る人と届ける人という、本来であれば会社の両輪を担うはずの人々が、うまくかみ合わずに仕事が停滞してしまう。
営業から見れば、エンジニアは話が長くて結論が見えない。聞いてもいない技術の話を長々とされるが、結局のところ答えが何か分からない。
エンジニアから見れば、営業の持ってくる話は不十分で正確性に欠ける。こちらがていねいに説明をしても取り合わず、答えを急かされる。
この構図は、何十年も前から変わっていません。技術は進歩し、ビジネスも洗練され、AIだって普及してきました。それなのに、エンジニアと営業のすれ違いは関係なく続いています。むしろ「エンジニアと営業は仲が悪い」というのは、「巨人ファンと阪神ファンは仲が悪い」と同じくらいの「あるある」として、しばしばネットや創作のネタにされます。物語の中で見るぶんには面白いのですが、いざ自分が働いている会社でこの対立が生じると、正直かなり厄介です。本来であれば力を合わせて進めるはずの業務が、大きく滞ってしまうからです。
業務の進行が悪くなることに加えて、対立が顕在化してくると社内の空気も悪くなります。発言の自由度が減り、社内政治までもが関わってくると、いよいよ「心理的安全性」とは対極の世界が訪れます。
いくつか典型的なすれ違いを挙げてみましょう。
- 品質を求めて工数をかけたいエンジニアと、利益を求めて原価を抑えたい営業
- 担当顧客から報告された不具合修正を求める営業と、優先度を上げないエンジニア
- 技術的負債を解消したいエンジニアと、新機能を作ってほしい営業
- 早くローンチしてほしい営業と、きちんとテストしたいエンジニア
- 製品をデモしたい営業と、固まっていない仕様を外に出したくないエンジニア
この因縁深いすれ違いに対して、私たちはどう対処すればよいのでしょうか。
エンジニアと営業はすれ違ったままでいい
最初にこの本の結論を書いてしまいます。
エンジニアと営業のすれ違いは避けられませんし、むしろすれ違ったままでいいのです。
「いやいや、エンジニアと営業がすれ違わない方法が知りたくてこの本を読んでいるんだ」と思ったら、ごめんなさい。この本はエンジニアと営業のすれ違いをなくす方法を書いたものではありません。エンジニアと営業のすれ違いを生かして、より良い未来を作り出していく方法を模索した本です。エンジニアと営業がすれ違うのは避けられません。これは構造的な問題で、エンジニアと営業の役割が分かれている以上、必ず発生します。というか、エンジニアと営業はすれ違うべきなのです。
「すれ違ってもいい」ではなく、「すれ違っているほうがいい」。
企業というのは本来、同じ目的を持って集まった集団です。会社の仕事を通じて社会貢献をするにせよ、昇進して収入を上げるにせよ、自らが所属している会社という組織自体の成功を望む思いがあるはずです。
同じ目的を持った人たちが集まっているのだから、いつもみんな仲良く協力して物事を進めていけるはず――というのが夢物語なのはご承知の通り。エンジニアと営業に限らず、会社の中では、毎日もめ事が絶えません。私は日系や外資、大手からベンチャーまでさまざまな形態の組織に所属してきましたが、社内政治が発生しない会社は存在しません。人が集まると必ずすれ違いが生まれるのです。
しかし、よほどの物好きでない限り、自分が所属する組織内ですれ違いが生じることを喜ぶ人はいないでしょう。私も「みんな仲良く、楽しく」が好きなタイプなので、気まずい空気は大の苦手です。それでも、社内ではすれ違いが起きる「べき」だと思っています。さらに言えば、会社が集団なのは、すれ違うためとも言えるのです。
これがいわゆる多様性です。多様性と聞くとジェンダーの話を思い浮かべる人もいるかもしれません。しかし、さまざまな視点を持った人たちが集まることで、1人で物事を進めるよりもより良い結果を出すことを目指すのが、企業が多様性を重視する理由のひとつです。ですから、性別や年齢などの分かりやすい属性にとどまらず、各メンバーの思考の違い自体が多様性なのです。DeNA創業者の南場智子さんは、かつて講演で「人は多様であるほうがいい。チームは多様なメンバーから組成されていたほうがうんと強い」とおっしゃっていました。まさにこの考え方です。
エンジニアと営業のすれ違いというのは、つまるところ多様性の発露です。むしろ、エンジニアと営業がまったくすれ違っていなかったとしたら、それこそ恐ろしいことです。おそらく、エンジニアか営業のどちらかが自分の意見を言えていない状態なわけですから。
エンジニアと営業がすれ違うのは望むところ。それなのに、結果として仕事が滞ったり、人対人として仲が悪くなったり、嫌悪感を抱いたり、攻撃し合ったり。そうしたネガティブな影響が出てしまっているのが現状かもしれません。ポジティブな目的のはずのすれ違いがネガティブな結果につながってしまっている。その現状をどう変えていくかを考えていくのが、本書の目的です。
新卒でいきなり仲介役に
少しだけ私の経歴を紹介させてください。私はこれまでの社会人経験のほとんどを、この「仲介役」ポジションとして過ごしてきました。
大学は電気工学が専門で、いわゆるエンジニアサイドでしたが、新卒で入ったGoogleで最初に配属されたポジションが「テクニカルアカウントマネージャー」でした。日本語で言えば「技術営業」です。
社会人経験もなく仕事や業界に対する解像度も低かった当時、いきなりエンジニアと営業の間に入るポジションになってとても混乱したのを覚えています。友人の多くがエンジニアや営業など分かりやすい仕事をしている中で、私は自分がどんな価値を出して、どんなキャリアを歩んでいくのかいまいち分からず、とにかく先輩たちのまねをして過ごしていました。それから多少部署やポジションの名前が変わったりもしましたが、結局Googleを退職するまで6年間、ずっと似たようなポジションにいました。
Googleを離れた後はVR/AR業界のスタートアップに入社しました。それまでとはうって変わって小さなスタートアップだったので、本当にすべての仕事を担当しました。執行役員としてプロダクト・エンジニア責任者からスタートし、人事全般、経営企画、制作ディレクター、それにもちろん営業も。スタートアップの経営陣として「浮いている仕事は全部やる」という精神で過ごしていたのを覚えています。直近では外資系半導体スタートアップで官公庁案件を担当したり、社会人大学で授業をさせてもらったり、現在はまた日本のAIスタートアップで新規事業開発をしています。
とにかく何でも屋として、エンジニアと営業をはじめとする多くの専門家に助けてもらいながら、ある種の仲介役としてずっと社会人経験を送ってきました。自分に確固たる専門分野がないぶん「周りの専門家が輝けるにはどうすればよいか」を長年模索してきました。本書ではその内容をできる限り詰め込んだので、ぜひとも役立ててください。
本書の内容
本書の構成は次のようになっています。
第1章では、具体的なエピソードを例に挙げ、問題の解像度を高めます。実際にエンジニアと営業はどのようにすれ違い、それがどんな問題を引き起こすのか。そのときにエンジニアと営業はそれぞれ何を考えているのか。何が問題の本質なのかをあらためて考えていきます。すれ違うこと自体が問題ではないとしたら、私たちが解決すべき真の問題は何なのでしょうか。
第2章では、すれ違いが起きるメカニズムを明らかにします。これは第3章以降の土台となる部分で、表面的な「発言」や「行動」にとらわれずに、すれ違いの根本的な原因を深掘りします。
第3章から第5章では、すれ違いを乗り越えてより良い未来を作るための「仲介思考」を3つのステップに分けて紹介します。第3章では「謙虚さ」、第4章では「理解」、第5章では「発見」という順番で、実践法や、習得方法を解説していきます。
第6章では、仲介役として働くことについて考えます。仲介役に対するよくある誤解を解いた上で、AI時代において仲介思考の重要性が高まっている点についても触れていきます。
第7章では、状況別でのすれ違い対応方法について言及します。また、すぐに始めることができる仲介思考トレーニング法をまとめて紹介します。
各章の最後にはまとめも載せているので、参考にしていただければと思います。
【目次】










