その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は車谷貴広さんの『 優秀な人材が求める3つのこと 退職を前提とした組織運営と人材マネジメント 』です。
【はじめに】
経済産業省による「人材版伊藤レポート」※が2020年9月に公表されたことが一つの契機となり、企業の「人材(人的資本)」への取り組みが変わっています。働き手の価値観の多様化などを受けて人材市場は様変わりしつつあり、企業にはそれらの変化に即した対応が求められています。加えてここ数年、急速に人材不足や賃金の上昇といった問題が湧き上がっており、人材への取り組みは企業において非常に大きな関心事になっていると言えます。
企業の人事担当者は、「これまでのやり方では必要な人材を確保できないだけでなく、人材の流失にもつながりかねない」という強い危機感を抱いています。企業は人材について、考え方を改め、新たな指針を策定する時期に来ていると言えるでしょう。
経営コンサルティングの行き着くところは「組織や人の問題」
筆者は20年以上にわたり、経営戦略コンサルタントとして、世界的な大企業から中堅企業、ベンチャー企業に至るまで、200社近い企業の経営課題の解決に携わってきました。経営戦略やマーケティング、経営管理といったテーマを中心に支援することが多いのですが、企業が抱える課題は当然それらだけで解決するものではありません。
ある問題事象を捉えたとき、その事象には経営戦略、組織、業務、情報システム、ファイナンスなどの様々な問題が複雑に絡まっており、そのような複合的な問題構造を解きほぐしながら解決することが求められます。筆者が所属するドルビックスコンサルティング 経営戦略コンサルティング本部は、特定の領域に特化した支援も行いますが、クライアント企業が抱える問題の本質を捉え、外部の専門家とも連携しながら総合的な支援をするというスタンスを基本として臨んでいます。そのため、当初想定していたものとは異なる支援になることが多く生じます。例えば、新しい情報システムの構築を進める(という想定だった)支援において、「御社に高価な情報システムは不要で、既存の情報システムにちょっとしたツールを組み合わせるだけで大丈夫です」という提言になることは少なくありません。当初の情報システム導入の背景に照らすと、実は情報システム自体の重要性があまり高くなく、他に取り組むべき課題があるというケースです。そのようなアプローチで支援していると、入り口となる問題は異なる領域のように見えても、行き着くところは「組織や人の問題」になることが多いのです。
はやりの「DX(デジタルトランスフォーメーション)」においても、最終的に組織と人の問題がボトルネックになることが少なくありません。デジタルを前提とした企業経営では、仕事の考え方/進め方が今までと全く異なり、その会社にとって新しいタイプの人材や働き方が必要になります。従来その会社で活躍していた人たちがついていけなくなるばかりか、今までの仕事の考え方/進め方に固執するような人たちは「邪魔」にさえなります。企業がDXを進めるとき、このような「人材問題」は避けて通れないのです。
人材問題の前提が変わっている
筆者自身、これまで多くのクライアント企業に人材戦略や人事制度改定といった「人事案件」を支援してきました。昨今痛感するのは、「人材問題を議論する上での前提が大きく変化している」ことです。特に強く感じるのは、「優秀な人材」についてです。多くの企業が「優秀な人が次々に辞めてしまう」という問題に直面しています。これは企業の規模や業界に関わらず、就職人気ランキングで上位に位置する企業でも同様です。
従来の前提を引きずったままだとこのような変化を十分に捉え切れず、結果として、人事制度に「ひずみ」のようなものが生じてしまっているのではないか――そのように感じていました(図)。
そこで本書では、まず次の2点を掘り下げます。
- 人材問題を考える上での前提がどのように変わっているのか
- それに対応するために、企業はどのようなアプローチが求められているのか
特に「優秀な人材が次々に辞めてしまう」という点に重点を置き、本書では多くの読者が悩んでいるであろう次の疑問に答えます。
- 優秀な人材の退職はなぜ増えているのか?
- 優秀な人材は何を求めているのか?
- 企業は「優秀な人材が次々に辞めてしまう」という問題に対してどのような考え方でアプローチすることが必要なのか?
- 優秀な人材を守る/確保するために、特に人事制度において具体的にどのような仕掛けが必要なのか?
これらを理解し、読者自身が自社の人材問題を解決できるようにする――これが本書の目的です。
人材問題は人事の議論だけでは解決できない
本書は主に人事部門の方を対象としていますが、経営者の方々にもお読みいただければと思っています。なぜなら、現在の人材問題は人事部門の議論だけでは解決できないからです。
実際、人材問題を扱うコンサルティングの現場では変化が起きています。従来であれば、人材問題は人事コンサルティング会社(もしくは部門)で扱うケースが多かったのですが、ここにきて、経営戦略コンサルティング会社(もしくは部門)に声がかかることが多くなっています。それはつまり、人材問題に悩む主体が人事部門だけではなく、経営層に広がったことを意味します。
本書は「人材マネジメント」を軸に書いていますが、人材問題は人材マネジメントだけでは解決できないので、「組織運営」(組織マネジメント)についても触れています。
人材マネジメントについては、人事制度などを広く網羅的に述べるのではなく、「優秀な人材が次々に辞めてしまう」という問題事象を起点として、その対応に必要なアクションに絞って解説しています。業界、事業特性、組織風土などによって取るべきアクションは異なりますが、基本的な考え方はある程度共通しており、「どのように考えるべきか」「何をすべきか」をお示しし、解決に向けた行動に必要なことを体系的にまとめています。
「優秀な人材が次々に辞めてしまう」という問題に取り組む上で、本書が読者の一助になれば幸いです。
車谷 貴広
【目次】










