その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は池山徹さん、狩野泰隆さん、小林直貴さん共著の『 もっと絞れる AWSコスト超削減術 』です。
【はじめに】
現在のシステム開発において、クラウド環境の利活用は欠かせません。クラウドベンダーは自社サービスを拡充させ、インフラ構築だけでなくAI(人工知能)などの最新技術までも手軽に使える環境を整えています。クラウド環境なしに急変するビジネスに追従できるシステム構築は難しいのが現状です。
クラウド環境を提供するベンダーの中でも注目したいのは米Amazon Web Services(アマゾン・ウエブ・サービス、AWS)ではないでしょうか。世界的にもユーザー数が多い同社のサービスは、優れたところがたくさんあります。例えば初期費用がかからず低価格でありながら、ユーザーに寄り添って継続的な値下げを実施しています。またAIなどの最新技術を用いたサービスや堅牢(けんろう)なセキュリティー機能を備えたサービスを提供しています。24時間の日本語サポートも日本人にとっては有益です。
しかし最近、AWSサービスの活用を進めている企業のIT部門から「AWSのコストを見積もるのが難しい」「AWSサービスに想定以上のコストがかかってしまった」といった話を聞くことが増えてきました。IT現場に限らず、経営層からもよく聞く話です。AWSに支払う料金は従量課金制ですが、米ドル建てです。クラウド環境が一般的になった2020年前後の為替レートに比べると、2024年2月時点では円安です。執筆を進めていた2024年2月には1米ドルが150円を突破することもありました。多くの企業で想定以上のクラウドコストがかかっている可能性は高いでしょう。
AWSのコストは円安になると増えるのは当たり前です。しかし原因は本当に円安だけでしょうか。実はAWSの使い方やシステム設計が原因となり、高コストになっている場合もあります。レファレンス通りの使い方でとどまっていないでしょうか。AWSの利用方法やシステム構築に関する情報は、比較的簡単に見つかります。AWSが分かりやすく情報を発信しているだけでなく、多くのユーザーが自身の取り組みをインターネットで公開しているからです。ですが、筆者は「実践的なやり方」についての情報が不足していると感じていました。この本を執筆するきっかけも、実践的なコスト最適化の方法を提示したいという思いがあったからです。
現在、AWSを使っている人やコストについて課題意識はあるものの実践的なアプローチにたどり着けない人、これからAWSで生成AIなどを活用した新しいサービスを構築したい人など、すべてのAWSユーザーに向けた「コストの削減」が本書のテーマです。AWSのコストを最適化し、AWSの優れたサービスを使い続けるため、本書では誰もが実践できる実用的で効率的な基本知識から驚きの削減テクニックまでを盛り込みました。
企業のIT予算は限られています。AWSを適切に使うことでコストを削減し、余力を生み出し、そして新たなサービスの開発に投資する。このコスト最適化こそが現在のIT部門に求められているのです。
本書は3つの章で構成しています。第1章は基本、第2章は応用という位置づけにしています。既に長期にわたってAWSのコスト削減に取り組んできた読者の方は、第2章から読んでもらえればと思います。
特に第2章は、コスト最適化には欠かせない手法が盛りだくさんです。IT現場のエンジニアだから生み出せたコスト削減テクニックに注目してください。実際に検証した結果も合わせて掲載しています。どれほどの効果があったのかが分かると思います。中には、コスト9割削減を達成できたテクニックもあります。ぜひ自社システムで活用できるかを検討し、導入してみてください。
第3章はAWSのコスト最適化に取り組んできたプロジェクトマネジャーや経営層といったビジネスサイドの立場から、開発におけるポイントをピックアップしました。筆者が所属するSBI生命保険にとって、一連のAWSコスト最適化への取り組みは「技術の不確実性」を前提にした「実施してみないと分からないプロジェクト」ばかりでした。
プロジェクト開始当初は、プロジェクトメンバー全員がAWSについての十分な知見があったわけではありません。大量に買い込んだAWS関連の書籍で学習し、頭の中はAWSのハウツーでいっぱいとなりました。その状態で満を持してプロジェクトに取り組みましたが、実際にサービスを利用してみるとうまくいかないこともありました。想定以上のコストがかかってしまったり、手戻りが発生したりして苦労しました。
Amazon S3を「えすさん」、QuickSightを「クリックサイト」と誤読する人がいたのですが、その間違いに気づく人すらいないほど、AWSについては素人同然でした。今となってはいい思い出です。そんな何も知らない状態からプロジェクトを進めるうちに、徐々にAWSのポテンシャルや用途、応用先、活用イメージなどが見えてきました。
最適なやり方を見つけるには、ムービングターゲットとの格闘が必要です。筆者も最初からすべてが思い描いた通りに進んだわけではありません。それでも困難を乗り越えられたのは、「AWSは面白い」「AWSのことが好きだ」という強い気持ちがあったからです。こうした気持ちさえあれば、どんな困難でも乗り越えられるはずです。
本書がAWSサービスをさらにうまく使うきっかけとなり、皆様の革新的なサービスを生み出す一助となれば、これほどうれしいことはありません。
2024年2月
池山 徹
【目次】



