その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は山田尚史さんの『 きみに冷笑は似合わない。 SNSの荒波を乗り越え、AI時代を生きるコツ 』です。

【はじめに】

令和の世には夢が足りない

 あなたには、人生をかけて叶えたい夢があるだろうか。

 私は上場を経験した起業家だ。今は東証プライム市場上場企業の取締役を務めている。叶った夢もあり、いまだ途上のものもあるが、これまでの人生では、いつも夢を追って生きてきた。

 過去に掲げた夢を振り返ってみると、最古の記憶では幼稚園生のとき、カービィ(*1)になりたいと公言してはばからなかった。残念ながら、大人になってもカービィになることは叶わなかったが、食べること、歌うこと、寝ることが好きな点は、私とカービィの共通点と言えるかもしれない。

 小学校の卒業文集では、将来は博士になりたいと書いた。現在、博士号はおろか修士号も持っていないのだが、本当にやりたかったのは研究開発で、自ら起業しAIという最先端技術の社会実装を仕事にすることができた。立ち上げた企業が時価総額1000億円を超えるまで成長したのも、あの日の夢があったおかげだ。

 その後、中学に上がって小説を読むようになり、作家に憧れるようになった。この夢は昨年叶って、プロの小説家としてデビューすることができた。デビュー作は文芸書の週間ベストセラーにもなり(*2)、2作目の長編を鋭意執筆中だ。今後は企業の経営に携わるかたわら、作家としても自ら創りあげた世界観をより多くの人に届けるため、日々精進していくつもりだ。

 自分語りが過ぎてしまった。このあたりで、この本が何なのかを書こう。本書は、科学的な観点を持とうと努めてはいるものの、なんらかの研究に立脚した本ではない。おそらくビジネス書、あるいは自己啓発本の棚に置かれることになるとは思うが、夢を掲げ、向き合うことの大切さと、社会的な成功のためのちょっとしたテクニックを書いた程度で、ビジネスの極意を明らかにしたものでもない。強いて言えば、深層学習(ディープラーニング)の登場から生成AIの隆盛まで、ビジネスの最前線に立って世界を見渡してきた筆者が、これから社会に出る若者、あるいは今社会で奮闘している皆さんに、もっと肩の力を抜いて、幸せに生きていくために、こういうことを試してみませんか? という提案をする本である。要するに、筆者のエッセイに近い。

 そう聞くと、誰かもわからない人のそんなものを読んで何になるんだ、と思うだろう。なのでもう少しきちんと自己紹介をすると、私は東京大学の松尾豊研究室で機械学習を学び、卒業後、就職せずにAI分野で起業し、20代のうちに上場を経験して、100億円規模の財産を築いた。その会社の役員を任期満了で退任した後、現在は東証プライムに上場しているマネックスグループ株式会社で取締役を務めている。35年間の人生で、企業の経営には、すでに12年以上携わっていることになる。

 そんな人間が、AIで変わりゆく社会と現代の日本を見て、SNS上に蔓延する冷笑主義に辟易し、皆にもっと夢を掲げてほしいと思い、それを発信せずにはいられなかった、というのが筆を執った動機である。加えて、息苦しい世の中をもっとうまく渡るコツなんかも書けば、読者の方に損はさせないだろうし、ついでに、一応筆者は小説家でもあるので、重めの内容も多少は面白おかしく書けるのではないかとも思った。そして、ブログのようなWeb媒体を選ばなかった理由は、まさにこの本の中にも書いているのだが、流行(はや)り廃(すた)りが激しく情報の良し悪しではなくバズるかどうかで価値が決まるWeb上よりも、自分の言葉はきちんと本という形で流通してほしかった、ということがある。

 そんなわけで、だいたいは思ったことをただ述べたまでであるが、多少は実生活に役立つことも書いたつもりなので、ぜひ楽しんでいただければ幸いである。

*1 人気ゲーム『星のカービィ』シリーズの主人公で、ピンク色の丸いキャラクター。
*2 トーハン調べ 「週間ベストセラー2024年1月16日調べ 文芸書」

【目次】

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