その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は広木隆さんの『 株はずっと上がるもの 誰も書けなかった株式投資の真実 』です。

【はじめに】──株式投資がすべてを救う

 2025年は節目の年でした。
 昭和が続いていれば「昭和100年」に当たります。
 太平洋戦争終戦からは80年。その戦後の焼け野原から驚異的な復興・高度成長を遂げ、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と呼ばれた日本経済のピークが恐らく1985年。その年、主要国が協調してドル高是正に動いたプラザ合意から日本経済は変調をきたしていったわけですが、2025年はプラザ合意から40年に当たります。
 そうした節目の年に日本憲政史上で初めて女性の総理大臣が誕生し、日経平均株価は初めて5万円という大台に乗せました。
 2025年は間違いなく歴史に刻まれる1年であったと言えましょう。

 改めて振り返ると、大きなサイクルが一巡し、新しい時代の扉が開かれるような予兆を感じさせた年であったとも思えます。

AIが当たり前の時代、人が働く意味は?

 同時に深刻な将来への課題も見えてきました。
 AIやロボットなど機械との共存です。これらのテクノロジーを使いこなせる人とそうでない人との格差が拡大するばかりでなく、機械に人間の仕事が奪われるという事態がこれから起こるでしょう。米国では2025年の時点で、すでに若手の雇用を中心にその兆候が見え始めています。

 この大きな時代の転換点にあって、私たちは「労働の意味」を問い直すことが求められています。高市首相の「働いて、働いて、働いて……」の発言は2025年の流行語大賞にも選ばれましたが、働き方改革などという狭い枠にとどまらず、「人間が働く」ということの意味が根本から問われているのだと思います。

 経済の2大要素は資本と労働です。このふたつが結びついて経済は生産活動を行います。ここで問題になるのは生産した成果をどう分配するかですが、労働の取り分が悪いという不都合な真実があります。

 古くはマルクスが資本家は労働者を搾取すると主張しました。近年ベストセラーになった『21世紀の資本』の著者であるフランスの経済学者トマ・ピケティは、資本のリターンは常に(労働者の給料などに代表される)経済成長率を上回ることを示しました。端的に言えば、資本のリターン>労働のリターンです。汗水たらして働くよりも、株式や不動産などの富から得られる、いわゆる不労所得のほうが高いリターンを得られるならば、持てる者と持たざる者の格差は拡大していく一方です。

格差拡大を助長していくAI

 AIの進展は「資本のリターン>労働のリターン」という状況を一段と加速させるでしょう。なぜならAIに代替される人間の労働の価値が低下する一方、「AIによる労働」への対価はAIを導入し、AIを保有する資本家が最終的に獲得するからです。
 しかし、それで資本家は幸せでしょうか。
 AIの利用で業務効率も改善し人件費も抑制できるため企業の利益率も上がります。ですがAIにとって代わられる人が失業し、不景気になれば結局、企業の売上も伸びません。
 AIは、仕事はするけれど消費をしてくれないからです。人間は労働者であると同時に生活者であり、家計は消費の面からの経済の主体です。AIによる失業が増え、家計の収入が乏しくなれば、それは不況という形で企業の収益にも打撃を与えるのです。

資本のリターンをフルに享受するには

 さらに言えば、不況や格差が蔓延し世の中が暗くなれば治安の悪化など、社会のいろいろなところに不具合が生じてきます。
 例えば近年頻発している無差別殺人事件などです。
 本当の動機は知る由もありませんが、報道によれば無差別殺人事件を引き起こした容疑者がみな異口同音に「世の中が嫌になった」と語っているといいます。資本主義の競争社会では優勝劣敗、勝ち組負け組が生まれるのを防ぐことはできませんが、では勝ち組になればそれで安泰かといえばそうではありません。
 勝ち組のひとだけが暮らす隔絶した社会というものが構築できるなら別ですが、この日本という社会の構成員であり続けるなら格差や貧困の問題は社会の不安や動揺という形で誰にも降りかかる負担になります。
 このような社会の不安定化をどう抑えていくかという問題は「社会のコスト」として、社会の構成員全員で取り組むべき課題でしょう。
 ここで根本的な問題がどこにあるかをもう一度確認しましょう。それは、
 「資本のリターン>労働のリターン」
 ということでした。読者のみなさんが各々どのような方で、どのような立場や状況におられるかは、無論のこと存じ上げませんが、個々人ベースでこの問題に対応できる解決策はなんでしょうか? 言うまでもありません。資本のリターンを享受する側に回ることです。では資本のリターンを得るにはどうすればよいでしょうか。
 一番簡単なその方法は株を買うことです。
 マルクスの時代に資本家になるのは難しかったでしょう※1。しかし、現代では誰もが資本家になれます。
 インターネットで、手数料ゼロで少額から株を購入できます。そうすればあなたも株主、立派な資本家です。

※1 マルクスの時代(19世紀前半〜中盤)に「資本家になれた人々」は、彼が『共産党宣言』(1848)などで呼んだブルジョワジー(bourgeoisie/資本家階級)です。資本家階級とは、生産手段(工場・土地・機械)を所有し、労働者を雇用できる人です。その時代には、そもそも資本を持っていないと資本家にはなれなかったのです。

今こそ一億総“資本家”に

 これまでくどくど述べてきましたが、この本は要するに「株式投資をしましょう」という本です。これは僕がずっと多くの方に言い続けてきたことなのですが、なかなか日本では株式投資が普及しません。それでも昔に比べれば、NISA制度などもあって少しは株式投資がポピュラーになったとも言われますが、まだまだ全然足りません。
 なぜ日本では株式投資が進まないのか。歴史的な経緯、日本人のメンタリティ、社会・文化的な背景、金融リテラシーの欠如と金融教育の不備などなど、それらの議論は数多くなされており、アカデミックな研究、政府の資料、メディアの論考などで確認することができます。でも僕が思う理由は極めてシンプルです。
 多くのひとが、
 「株は上がるものである」という事実を知らないからです。
 株は上がるようにできているのです。

 そのメカニズムを理解すれば、株は上がるものだということが腹の底から納得できるでしょう。長期的な株価上昇を信じることができれば、積み立て投資などを通じて株式投資がもっと普及するに違いない。多くのひとに納得してもらえるように「株は上がるようにできている」理由を根本のところから説明しよう。そう考えてこの本を書きました。
 僕の夢は日本の国民全員が株式市場に参加するようになることです。それはパナソニックの創業者で名経営者として知られる松下幸之助さんの思想に倣ったものです。松下さんは、健全な個人株主を増やし、「一億総株主化」を実現することが理想であると説きました。

「人々はみな自分の仕事からの収入を得る一方で、株主となって配当を受けるというような状態がおそらく生まれてくるであろうし、また生み出さなければならないと思う。そこに私は、国民全体の安定と繁栄を生み出す一つの道があるように思う」(『PHP』1967年11月号「株式の大衆化で新たな繁栄を」より抜粋※2

※2 この論文は日本証券業協会のホームページで閲覧可能です。https://www.jsda.or.jp/about/teigen/itiokusoukabunusi/index.html

 「一億総株主化」──これこそがいま起きている社会の様々な問題解決の方法だと信じています。

 資本主義は大きな転換点に差し掛かっていると言われます。資本主義の行き過ぎで持てる者と持たざる者の格差が拡大し、貧困が生まれ、それが憎悪や妬みなど負の感情と結びついて犯罪や社会不安の温床となっています。
 そこまで深刻ではなくとも、賃金上昇がインフレに追いつかずに生活が苦しいひとも大勢います。この先、AI失業が本格化すれば再び就職氷河期を招いてしまうかもしれません。
 こうした問題を解決するのは──少なくとも改善するのは、身も蓋もない言い方ですが、「お金」です。
 「お金」はそれほど重要なものだと僕は思っていませんが、少なくとも「お金」があることで解決できる問題があるのも事実。「お金」はないよりあったほうがいい。そのためにはどうするか? まずは一生懸命働いて稼ぐのが本筋ですが、ここまで述べたように、働きたくても働けない状況が来たり、あるいは本業の賃金の収入だけではインフレに対処できなかったりすることが考えられます。
 そこで株式投資です。松下さんが言う通り、「自分の仕事からの収入を得る一方で、株主となって配当を受ける」のです。もちろん、株式投資から得られるのは配当のリターンだけでなく、キャピタルゲイン(値上がり益)といった大きな利益を得ることもできます。「お金」で解決できる問題は、「お金」で解決したらいい。それには株式投資が一番簡単です。
 こんな簡単なことが、松下さんが言うところの「国民全体の安定と繁栄を生み出す一つの道」であるならば、これを推進するのが世のため、ひとのためです。まさに株式投資がすべてを救う──僕はそう信じてやみません。

著者


【目次】

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