その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は島津翔さんの『 NVIDIA(エヌビディア)大解剖 AI最強企業の型破り経営と次なる100兆円市場 』です。

【はじめに】

 2024年6月、米国の半導体メーカーであるエヌビディアの時価総額が初めて世界トップに躍り出た。半導体関連企業で世界一になった企業は歴史上、存在しない。伝説的な集積回路メーカー、米フェアチャイルド・セミコンダクターや、言わずと知れた半導体の雄、米インテルさえたどり着けなかった頂きに、画像処理用チップを祖業とするこの企業が到達すると誰が予想しただろうか。金融市場の期待を背負って株価の値動きは激しいものの、依然としてエヌビディアの時価総額は3兆ドルを超える水準を保っている。

 筆者が初めて同社を取材したのは2016年。そこから10年足らずで株価は約160倍に、売上高は約25倍になった。特に2023年以降の伸びは指数関数的だ。もちろん、ChatGPTの登場以降に発生した巨大な生成AI(人工知能)需要を一手に集めているという特殊要因はある。しかし、それを「特需」と単純化していいのだろうか。時代が動こうとするわずかな兆しを逃さず、経営資源を振り向ける迅速な意思決定をし、ぶれずに虎視眈々と準備をしてきた企業だけが、その恩恵を得られるはずだ。では、エヌビディアはどうやってAIに焦点を絞ったのか。それを可能にした経営と技術の本質は何なのか。そして、そこから日本企業は何を学ぶべきか。

 本書の目的は、世界中の企業で最も注目を集めるエヌビディアという企業体の意思決定の手法や組織、技術、歴史、人材を多角的に取材し、その秘密を解き明かすことにある。

 1章はイントロダクションとして、エヌビディアに対して多くの読者が抱えているであろう7つの疑問についてまず要点をまとめた。主力製品である「GPU(画像処理半導体)」とは何なのか、AI企業になった転機はいつか、そして無双とも呼べる状態はいつまで続くのか──。それぞれの回答に、その内容の詳細を記した章を示している。

 2章は「経営編」として、ジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)がタクトを振る同社の経営について記している。取材して改めて認識したことだが、その経営手法はまさに「型破り」。中期経営計画をつくらず、組織図もない。「トップ5」と呼ぶ従業員の報告や「EIOFs」と呼ぶ指標などの独自ルールは、いずれも常識からは外れているものの同社になくてはならないものだ。エヌビディアの超フラットで迅速に動く組織について、その詳細を記しているのは本書だけだろう。

 3章は「歴史編」。ファン氏の幼少期からの生い立ちを追いかけながら、エヌビディアの創業ストーリーや2度の破綻の危機を取り上げた。特に、ゲームメーカーであるセガがエヌビディアを救済することになったエピソードについて多くの頁を割いている。

 4章は「技術編」。他の追随を許さない「GPU」ともう1つの強みであるソフトウエアについて、その技術的優位性を深掘りしている。ややテクニカルな内容のため、同社の技術について詳細を求めない読者は読み飛ばしていただいても構わない。

 5章はエヌビディアの「死角」について詳述した。突如として現れて話題をさらった中国のAI開発企業、ディープシークの影響や、AIのフェーズが学習から推論に移りつつあるという環境の変化、原子力発電所を再稼働させるほどの電力需要などについて論じている。

 最終章である6章は、エヌビディアが虎視眈々と狙う「次なる100兆円市場」としてロボットや自動運転などの分野を取り上げ、日本企業の勝機や日本の半導体産業の可能性について解説している。

 AI最強企業のカラクリをぜひご覧いただきたい。

日経BPシリコンバレー支局記者 島津翔


【目次】

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