その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日はアビームコンサルティング(著)の『 AIエージェント 設計&実装 完全ガイド ローコード開発やユースケースを徹底解説 』です。
【はじめに】
AI(人工知能)は近年の技術の中でも目覚ましい広がりを見せており、その影響は急速に拡大しています。2025年時点の推計では、世界人口約82億人のうち約18億人(約22%)がAIツールを活用しており、そのうち約6億人が日常的に利用しているといわれています。2022年11月にChatGPTが登場してから、わずか3年余りでこの数字に達したことは、AIが急速に社会に浸透していることを物語っています。
歴史を振り返ると、電話の普及率が50%に達するまでには45年、パーソナルコンピューターが20%に達するまでには3年、インターネットは2年を要しました。これらと比較すると、AIツールの普及率が約22%に達したのは登場から約3年であり、インターネットと同程度のスピードで社会に浸透していることがわかります。こうした急速な普及は、AIが単なる技術革新にとどまらず、社会構造の転換につながる可能性を持っているといえます。
米国ではホワイトカラーの業務がAIに代替され始め、「AI失業」が顕在化しています。特に、エントリー層の仕事がAIによって代替できることが証明されたことで、大学卒業生における就職難が起こり始めています。インドにおいても同様の現象が起こっており、ITやアウトソーシング分野において大規模な人員削減や業務の再編が進んでいます。
これらはすべて、従来人手が必要とされてきた業務や職種がAIに置き換えられつつあるという現実を示しています。こうした動きは、今後は日本を含む世界各国に波及していくと予測されます。産業革命が蒸気機関・電気・電子技術などの革新によってブルーカラーの仕事に変革をもたらしてきたように、AIはホワイトカラーの仕事に影響を及ぼし、労働市場のあり方を根底から揺るがす可能性があります。
一方で、AIは人の仕事を代替する存在ではなく、働き方を改革し、生産性を飛躍的に高める強力なツールとしても注目されています。生成AIを導入した企業の事例では、業務コストの30%削減や20%超の生産性向上が報告されています。コールセンター等での顧客対応の現場では、AIの補助によって処理時間が短縮され、処理量が向上しています。教育や医療分野においても、AIが人的負担を軽減し、サービスの個別化を促す事例が増えています。つまり、AIは人間の創造性や戦略性を支援する存在としても期待できます。
こうしたメリットと課題が併存するAIの発展は、効率化と変革が同時に進行するという特徴を持っています。日本においても、少子高齢化や労働力不足といった社会課題と相まって、AIがもたらす構造変化は単なる技術論を超え、国家の制度設計や企業の経営戦略にまで広範囲に影響を及ぼすといわれています。
本書はこうした文脈を踏まえ、日本企業でAI活用に携わる読者の皆さまが、どのようにAIと向き合うべきかを考えるきっかけを提供できればと思い出版しました。AIは、私たちの働き方や業務のあり方を大きく変える可能性を持つ技術です。だからこそ、AIを単なるツールとして受け身で捉えるのではなく、その設計や活用に主体的に関わる姿勢が、今後ますます重要になっていくでしょう。新しい働き方や必要なスキル、AI倫理や活用の枠組みまで、広い視点からAI活用を考えていただくことで、読者の皆さまの業務やキャリアの一助になれば幸いです。
■本書のコンセプト
本書のコンセプトは、AI活用の最前線で企業支援に取り組むコンサルタントの視点から、単なる理論や技術解説にとどまらず、日々の業務に応用できる具体的なユースケースを提示することです。
本書では、ローコードツール「Dify」を取り上げ、利用方法や操作画面、設計プロセスなどツールとしての特徴や機能を整理します。Difyは専門的なプログラミングスキルがなくても、直感的な操作でAIアプリケーションやAIエージェントを構築できる環境を提供するツールです。Difyを実際に操作しながら学べるハンズオン構成も取り入れ、「AIを利用する立場」から「AIを設計して活用する立場」へ進む体験を重視しています。
さらにAI導入に向けた具体的なイメージが湧くように、AIエージェントを導入する際のガイドやユースケース事例も取り入れています。
なお、本書で提示するユースケースはDifyに限定されるものではありません。Microsoft Copilot Studioやn8nなど、他のローコード/ノーコードツールでも十分に実現可能です。重要なのは、特定のツールに依存することではなく、AIの仕組みを理解し、それぞれの環境に合ったプラットフォームで活用できるようになることです。ぜひ、本書を通じて得た考え方や設計手順を、自身の利用環境に適したツールに置き換えて実践してください。
また、AI活用を考えるうえで欠かせない関連用語や概念も説明しています。例えば「AIエージェント」や「プロンプトエンジニアリング」など、これまで専門家の領域だった技術をわかりやすく解説します。こうした知識を身につけることで、ニュースやビジネスの現場で語られるAI活用を理解し、自らも活用し、さらにはつくれるようになりましょう。
本書の目的は、読者の皆さまが「AIに使われる側」ではなく、「AIを使いこなす側」へと移行するための第一歩を踏み出すことを支援することです。Difyを中心に据えながらも、用語の解説や具体的なユースケースを用いたAIの開発に触れることで、AIに対する理解を深め、業務や特性に即した自分なりのユースケースを設計できることを目指しています。読了後には、「自分の手でAIを作る」という実感が得られるようになれば幸いです。
■本書の想定読者
本書は、自身の業務に生成AIを取り入れたいと考えるビジネスパーソンを主な読者と想定しています。ChatGPTなどの生成AIを利用した経験はあるものの、「自分の業務に最適化されたAIアプリケーションを開発したことがない」層をイメージして執筆しました。プログラミング経験は必須ではありません。業務課題を実感し、AIを使って解決を進めたいと考えられる人こそが本書の主な対象読者です。日々の業務でExcel、Teams、Notion、Google Workspaceなどを活用し、資料作成、報告業務、顧客対応、企画などを担うビジネスパーソンが典型例です。
Microsoft Copilot Studio、Power Automate、n8n、Zapierなどのローコード開発環境に触れたことがある、あるいは今後学びたいと考えている人も読者として想定しています。これらのツールに共通する「コードを書かずに業務を設計する」という発想は、AI活用の第一歩として極めて有効です。
共通の課題は、「AIを使うことはできても、自分の業務にどう組み込めばよいかわからない」という点です。AIの進化を目の当たりにし、「このままでは自分の仕事がAI に置き換えられるのではないか」と不安や課題意識を抱いている人は少なくありません。そうした読者にAIを正しく理解し、AIを設計して活用する側へ転換していただきたいと考えています。
また、本書が対象とする職種は、営業、マーケティング、経理、人事、教育、コンサルティング、製造、行政など多岐にわたります。共通点は、自分の業務を深く理解し、その中に改善の余地を見出せることです。AI活用の価値は技術ではなく、業務知識と課題発見力にあります。本書では、そうした読者が自らの専門領域を生かしてAIを設計できるよう導きます。
■本書の構成
本書は、業務に生成AIを実装するための最短ルートを示します。まず、AIとDifyの基礎を押さえたうえで、小さくつくって確かめるハンズオンを通じて設計と実装の往復を体験します。そして業務領域別のユースケースをもとに、投資判断と運用定着の勘所を整理していきます。
鍵となるのは技術そのものではなく、業務理解と課題定義です。As-Isの把握とTo-Beの設計、評価指標の事前合意、ローコードツールを活用した反復的なAIエージェントの試作と改善。この一連の流れが、本書全体を通じた実践の軸です。
第1章 AIエージェント実装のための前提知識
AIエージェントの基本概念、プロンプト設計、RAGの要点、評価・ガバナンスの基本事項を整理します。さらに、Difyの主要機能(アプリ種別、フロー、データ接続、ツール連携)を俯瞰し、業務要件を機能ブロックに写像する方法を示します。ここでは、As-Is/To-Beの描き方、KPIとリスクの定義、PoCから試験導入までの進め方を明確にします。以降の章で迷わないための「設計基盤」をここでつくります。
第2章 AIエージェントハンズオン
Difyを使って4つのエージェントを実装します。「面接アシスト」「調査」「社内規定検索」「問い合わせ対応」といった具体的な業務シナリオを題材に、各節で業務ペインを特定し、最小構成でプロトタイプを作成します。さらに、GUIでのブロック調整やデータ差し替えを体験し、要望に即応できる開発サイクルを身につけます。狙いは「まず動くものを出し、議論を前に進める」ことです。
第3章 AIエージェント導入の実践ガイドとユースケース
実装した知見を業務全体に広げるため、AIエージェント導入に向けた実践ガイドとユースケースを紹介します。
実践ガイドでは、導入時に検討すべき論点を整理し、導入背景からプロセスまで順を追って説明しつつ、再現可能な型(フレームワーク)として提示します。また、AIエージェント導入を推進するための業務効果設計のアプローチと組織形態(CoE:Center of Excellence)を示し、要件定義ステップを基盤とした現場での進め方を具体化します。なお、要件定義ステップの解説では、専門領域への適用事例として、筆者が実際に支援している順天堂大学における検討プロセスをコラム形式で紹介し、応用のポイントを補足しています。
ユースケースでは、専門ナレッジの活用をテーマに、コーポレート領域(財務・経理、総務)における一般的なAIエージェント事例を取り上げ、汎用的な導入イメージを具体化します。
AIを「知識」として理解する段階を超え、「業務の仕組み」として取り込む段階へ進むことが、これからのビジネスパーソンに求められます。AIをどのように使って自分の仕事を再定義するか。本書は、読者がその問いに実践をもって答えられるよう設計しています。AIを理解し、活用し、業務改善の武器として使いこなす。その第一歩として、本書が皆さまの実践のきっかけとなることを願っています。
【目次】




