その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は吉田大貴さん、吉田まみなさんの『 Copilotエージェントの教科書 AIによる業務自動化の大本命 』です。

【はじめに】

 生成AIの普及により、業務でAIエージェントを試すこと自体は珍しくなくなりました。一方で、PoC(Proof of Concept:概念実証)は成立しても本番運用にうまく乗せられない、公開後に問い合わせやエスカレーションが増える、品質や統制の観点で止まる――。そういった課題も同じ頻度で発生しています。多くの場合、その原因はAIのモデル性能ではなく、設計と運用の前提が不足したまま、AIエージェントとの「会話」だけを先に作ってしまうことにあります。
 本書は、非エンジニアの業務担当者から情報システム部門まで、AIエージェント導入に携わるすべての方々を対象として、Copilot Studioを中心に「業務で使えるAIエージェント」を実装するためのアーキテクチャ(構造)を整理しました。ナレッジ、会話設計、ツール連携、プロセス化、自律化、そして運用・ガバナンスまでを体系立ててまとめています。
 Copilot Studioの機能は豊富で、画面操作を覚えるだけでも一定の成果は出るでしょう。しかし、業務で「使われ続ける」ために必要なのは、エージェント設計を「型(パターン)」として整理することです。

本書の業務シナリオ:家電製造メーカー「コントソ」

 本書では、業務の想定シナリオとして、冷蔵庫・電子レンジ・炊飯器などを製造する架空の家電メーカー「コントソ」の業務部門を舞台にしています。製造・需要供給・物流・アフターサポートまで業務を横断し、問い合わせ対応、保証・修理手配、配送状況確認など、現実に起こりやすい業務シナリオを題材として多く取り入れています。
 このシナリオは、あえて業務の「難しい面をそろえる」ことを意図しています。例外が多く、システムが分断され、手戻りが起こりやすい領域でAIエージェント設計の「型」を身に付けることで、他業務への転用が容易になるからです。

解説動画について

 本書では、全章を通してコントソの業務シナリオを一貫して取り扱っています。読み手の前提となる認識が途中でずれると理解が難しくなってしまう箇所があるため、本書の読者の方に限定して、コントソの業務全体像(登場人物、業務の分断点、手戻りが起こる箇所、典型的な問い合わせの流れなど)を短時間で把握できる解説動画を各章に散りばめています。記載されているQRコードまたはURLから動画にアクセスしてみてください。章を読み進める中で「いま扱っている設計が、全体の業務のどこに効いているか」を見失ってしまったら、解説動画に戻って前提を確認できるようにしています。

本書の構成

 本書は、全体を13章に分け、章を追うごとにエージェント設計を積み上げていき、各章でそのエージェントの構成要素を分解して解説しています。各章の内容は以下の通りです。

第1章 マイクロソフトが描くエージェントの世界

 エージェント中心の世界観が、なぜ「次のプラットフォーム転換」として語られているのかを整理します。相互運用(MCP・A2Aなど)と企業ガバナンスが同時に前提になる点を押さえ、新たな働き方のスタンダードとなる「人とエージェントが共に働く」という視点を、本書全体の見取り図として紹介します。

第2章 エージェントとCopilotの基礎概念

 「Copilot」と名の付く製品やサービスについて解説し、CopilotとAIエージェントの役割の違いを、具体的な業務の例で説明します。会話・ナレッジ・ツール・フローといったエージェントの構成要素を共通言語としてそろえ、以降の章の理解を促すための基礎概念を整理します。

第3章 従来型自動化/AI自動化/AIエージェントの違い

 エージェンティックオートメーションを成功させるための3つの重要なアプローチ(ルールベース、AI補助ベース、ゴールベース)について解説し、使い分けの判断基準とフレームワークを学びます。実際の業務タスクを取り上げて、「何でもエージェント化しない」ための切り分け(効果・実現性・リスク)を整理します。

第4章 Copilot Studioの基礎

 Copilot Studioのアーキテクチャと、エージェントを構成する基本要素を解 説し、業務で使えるエージェントを設計・運用・展開するための進め方を押さ えます。次章から取り扱う「共通業務シナリオ」の土台となる構成や環境を整え、 全体像をまとめます。

第5章 業務シナリオをエージェントに変える

 実際の業務シナリオをエージェントに置き換える上で考慮するべき事項につ いて、想定する業務の背景と、業務をエージェントが扱える形に翻訳する手順 を記載します。一次回答のゴール、確認項目、例外、人へ渡す条件などを先に固め、 「作る前に壊れにくい仕様」に整えます。

第6章 ナレッジと検索で「一次回答の土台」を作る

 一次回答の品質を安定させるために、Copilot Studioのナレッジ機能と検索 (RAG)の基本の考え方を整理し、どの情報をどの粒度で持たせるべきかを扱い ます。誤回答を増やす典型パターンと、その防ぎ方まで設計として説明し、ナレッ ジの追加・更新・範囲管理といった「運用後も品質を保つ」ための前提を押さ えます。

第7章 トピックで「会話」を成立させる

 会話の中核となる確認事項の設計(必須/推奨/任意)、分岐、例外処理、人 への引き継ぎ条件をトピックとして組み立てる手順を扱います。エージェント を「答える存在」ではなく、「会話を前に進める進行役」として機能させるため の方法を学びます。

第8章 ツールでシステム連携を行う

 照会・登録・更新・通知などエージェントが実行するアクションを、ツール 連携として安全に組み込む設計を整理します。権限の最小化、失敗時のリカバ リー、監査・記録を前提に、連携を「動くデモ」ではなく「業務を実行できる連携」 にする方法や、トピックとの役割分担も明確にします。

第9章 エージェントフロー、トリガーとマルチエージェント

 Copilot Studioのエージェントフローをルールベースの自動化として捉え、業務プロセスを確実に実行する基盤設計を作る勘所を押さえます。安定稼働と保守性の確保のために、エージェントの役割を分けて専門エージェント同士を連携させる「マルチエージェント」という考え方について取り上げます。

第10章 Dataverseやコードインタープリターで複雑なタスクに対応

 Dataverseを「業務の台帳」として使い、Copilot StudioからDataverseを参照・更新する方法を技術的に整理します。加えてコードインタープリターを使い、取得したデータの集計・形式変換・検証・レポート生成などの「複雑だが定型な作業」を再現性高く行い、タスクを業務として成立させるための実装パターンをまとめます。

第11章 Computer Use Agentとデスクトップフロー(RPA)でPC操作を自動化

 API連携だけでは埋まらない工程を、Computer Use Agent(CUA)とデスクトップフロー(RPA)で補い、エージェントの業務完了率を引き上げる考え方を整理します。エージェントによるPC操作は例外的な裏技ではなく、セキュリティに考慮した上で、外部ポータルや改修できないレガシーアプリが残る現実に対する正式な選択肢として位置付けます。

第12章 チャネル連携で公開する

 Copilot Studioのエージェント公開を、ユーザー体験と運用の設計として捉え直します。チャネルが変わると、認証、入力のしやすさ、UI制約、通知、責任範囲が変わるため、同じエージェントでも設計が変わります。公開は単なる最後の工程ではなく、現場定着までを見据えた「使われ続ける前提」を作る工程であることを押さえます。

第13章 モニタリング・ガバナンス・運用自動化

 エージェント公開後も品質を保ち、改善し、増やしていくための運用設計をまとめます。AIエージェントの文脈におけるガバナンス・監視・評価・権限・監査・標準化を含め、「PoCで終わらせない」ための条件を整理します。エージェントが意図したタスクを、意図した品質でこなせているかを体系的に測るプロセスである「評価(Evals)」の手法について解説します。

 本書の目的は、AIエージェントの「機能」の網羅ではなく、「実装の型」を学ぶことです。ぜひ本書を通じて、各要素をどう組み合わせれば、現場で使える形で「業務を完遂する」エージェントになるのかを、再現可能な手順として身に付けていただければ幸いです。

2026年2月
吉田 大貴、吉田 まみな

【目次】

画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示
画像のクリックで拡大表示