その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は長内厚さんの『 半導体逆転戦略 日本復活に必要な経営を問う 』です。
【はじめに】
自動車やスマートフォンをはじめ、ほとんどの家電製品はいまやIC(半導体集積回路)なくして成り立たなくなりました。このように、もはや生活必需品となった半導体ですが、最先端の半導体はIT、AIなどの技術の優劣の決め手にもなり、これらの技術は民生用だけでなく、軍事用途にも応用されています。ウクライナとロシアとの戦争では、ドローンや誘導兵器が多く使われていますが、これらには多くの半導体が使われており、半導体とソフトウエアの技術によって、戦争の行方さえも決まってくるような状況です。
一方で、家電製品や自動車に使われている半導体製品は、世界的にその不足が叫ばれています。自動車の新車納入時期が延びる、PCやスマートフォンなどの通信機器の供給が滞る、そのほかにも機能制御のために半導体が欠かせない各種の家電製品の生産・流通など、大きな影響が出ています。
半導体不足は複合的な要因で発生しています。コロナ禍によりリモートワークが増えたため急激にPCやタブレットなどの機器の需要が増え、自動車産業では自動運転技術等の進化により自動車に使われる半導体が急増していることも一因ですし、ウクライナ危機や、米中の経済摩擦によって、ゲルマニウムやガリウムといった半導体に使われる希少金属が輸出規制になるなど、材料レベルでの半導体の正常な流通が阻まれていることも大きな原因となっています。一方で2024年に入り、半導体不足は急速に解消したとの報道もあり、この業界の不確実性の高さを物語っています。
さらに、半導体不足が長引いたのは、不足する半導体に偏りがあるためです。現在の半導体製品はメモリとロジックICに大別できます。メモリとはデータを記憶する半導体、ロジックICとは演算を行う半導体と理解していただければ結構です。今日不足しているのは、22/28ナノプロセスと呼ばれる回路幅が22~28ナノメートルの半導体など比較的古い技術の製品です。現在ではさらに高精細な3ナノプロセスの最先端半導体の生産が始まっています。
3ナノに比べると28ナノは古い技術、具体的には10年ほど前の最新技術になるのですが、28ナノの半導体は、自動車や家電製品の制御や、スマートフォン、PCに使われるメインのロジックICではないものの、各種機器の制御に必要な半導体部品を構成しています。つまり、最先端のロジックICやメモリ製品については、必ずしも不足していませんし、メモリ製品の価格は2023年度も下落トレンドにあります。
古い技術の半導体が不足していることも昨今の半導体不足の解消を遅らせています。というのも、半導体メーカーにとっては、最先端半導体のほうが利益を大きく取れるので、あえて利益率の低い古い半導体の生産を増強するために設備投資をしたいとは思いません。さらに、半導体の需要には波がありますので、需要が一巡すれば、再び半導体が余るということもあり得ますし、現にそうした懸念がささやかれはじめています。
一部報道によれば、熊本に建設中の台湾積体電路製造(TSMC)の22/28ナノプロセスの工場も完成した頃には半導体不足が解決していて売り先に困るのではないかという予測もあります。このような状況では、各社積極的に22/28ナノプロセスの生産増強を早急に進めたいとは思わないでしょう。
一方で、日本の半導体製造のシェアは現在10%ほど。もともと半導体は日本が強みとしていた技術であり、かつては世界の50%を超えるシェアを誇り、「半導体大国」と呼ばれていたことを思えば、まさに隔世の感を免れません。
そうしたなかで、このほど経済産業省が音頭を取り、国内企業が共同出資して半導体開発を行う新会社が設立されました。電子情報技術産業協会(JEITA)は、この動きを指して、日本の半導体の復権に向けた「最後で最大のチャンス」と述べています。
日本の半導体産業はなぜ凋落し、その復権には何が必要なのか。
本書では、日本の半導体産業が抱える課題を、日本企業が陥りやすい技術論ではなく、ビジネスとしての成功を目指す経営学的な見地から解き明かしていきます。
2024年2月
長内 厚
【目次】





