その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は竹内健登さんの『 勉強嫌いな子でも一流難関大学に入れる方法 』です。
【まえがき】 今、上位大学合格のセオリーが変わろうとしている
「早稲田・慶應の一般入試の問題の傾向が、数年前と比べて大きく変わった」
「暗記や知識詰め込み型の勉強が得意な高校生は、今後、上位大学に合格できなくなる」
「偏差値が低いにもかかわらず、早・應・上智などの上位私大や筑波などの旧帝大の上位国公立大学に合格する人が、最近、急に増えている」
こんな話を聞いたら、きっと多くの親御さんはびっくりすると思います。自分たちの頃は、大学受験といえば塾通いをして、1日10時間とか12時間勉強することが当たり前でした。そうして英単語や古文、世界史・日本史の知識を徹底的に暗記することで、やっと難関大学に入れたのですから。
しかし最近は、「そんなこと」をしなくても上位大学に入れる人が増えています。
このようにお伝えすると、一部の親御さんは、「大学受験のレベルも落ちたものだ」「今の高校生はラクでいいなぁ」という印象を受けるかもしれません。
しかし、ことはそう簡単ではありません。この大学入試の変化は、すなわち、大学側が評価する人材の定義が変わってきているということ。大学入試というゲームのルールが変わったことに他なりません。
ルールが変わるということは、それまで勝てていた人が勝てなくなる―つまり、親御さんの常識で「塾通いで1日10〜12時間勉強して、徹底的に知識をたたき込んで」も、合格できなくなってきているということです。
そして、逆にそれまで負けていた人が勝ち始めているのです。
劇的な入試改革 なぜ変わる? どう変わる?
なぜ、大学入試というゲームのルールが変化しているのでしょうか。
背景にあるのは、文部科学省が行なっている「高大接続改革」―高校での学び・大学入試・大学での学びを一体化した教育改革です。
文科省は、これからの教育は「1 知識・技能」「2 思考力・判断力・表現力」「3 主体性を持って多様な人々と協働して学ぶ態度」が大切であると考え、これら3つを「学力の3要素」と定義しました。
入試の出題傾向の変化は、まさにこの定義にのっとったものです。この3要素が評価されるような問題が増えた結果、暗記が得意な「ガリ勉タイプ」が落ち、そうではない高校生が上位大学に合格するようになってきたのです。
特に2021年度から導入された大学入学共通テストでは、この傾向が顕著に見られます。
英語では発音や単語などの単純な語彙(ごい)問題は消滅し、代わりに日常生活で使う英会話が出題されました。国語においては物語と評論の2つの文章を見比べることで答えを見つけるという「メタ認知」を測る問題が出題されました。
英語・国語・数学に限らず理科や社会も含めた全般で、「読み取らないといけない文章・グラフ・表」が増え、試験時間が増加しています。
これはつまり、「知識や情報を持っているか」ではなく、「それらを活用して考える力があるか」を評価する形態に変わってきたということ。かつては難関国立大学の2次試験に求められた能力に近いものが、暗記偏重型で有名だった早慶の2次試験においても増加しているのです。実際、2021年に慶應義塾大学で出題され、話題となった、
あなたが不条理だと思うことについて記載し、どうすればそれを解決できるか論じなさい。
を筆頭に、答えのない問いについて考えさせ、その解決法を表現させる問題が不可避になりつつあるのです。
今後、この流れは一気に加速するでしょう。なぜなら、2022年度からは高校での学習指導要領が新しくなり、この学力の3要素を重要視した授業が展開されているからです。
特に2024年度の入試は、新しい学習指導要領で学んできた高校生が受験する最初の入試です。従来のものからガラッと変わることが予想され、すでに多くの大学では入試問題の変更について協議がなされているのです。
大事なお子さんの入試対策―誰に学ぶのが最適か?
のっけから厳しいことを申し上げ、不快になられた方がいたら申し訳ありません。
しかし、本書を手に取ってくださっている親御さんには釈迦(しゃか)に説法(せっぽう)」かもしれませんが、大学受験はその先の就職や人生設計に関わる、お子さんにとっての非常に大きなターニングポイントです。それなのに、実に多くの方が、冒頭で紹介した「過去の常識」にとらわれて、
「受験対策? とにかく勉強、机に向かって問題集を解きなさい!」
「予備校に行っていれば大丈夫でしょ!」
など、誤ったアドバイスをしてしまっているのが現状です。
古い常識にとらわれた誤ったアドバイスで努力を強(し)いる―それで結果が出ればまだいいですが、その先に待つのが、見当違いな対策による不合格だとしたら……。その悪影響は計り知れません。
実際、私は「ホワイトアカデミー高等部」という、高校生向けの大学受験指導塾を運営していますが、そこで最初に行なうのは、この「見当違いな対策」の軌道修正です。従来の予備校や塾とは、教えている内容が根本から異なります。
そうした取り組みは、2020年度の志望校合格率100%、2021年度の95%という実績となって現れていますが、これは単純に、大学入試の新しい方式を分析し捉え、対応する授業を実施してきたからだと思います。
本書でこれから解説していくのも、まさに、「どうすれば、高校生のお子さんが志望校、特に上位大学に入れるのか?」「お子さんの受験のために、親御さんには何ができるのか? 何をすべきか?」ということです。
また同時に、「就活、そしてその先の将来を見据えた受験戦略」についても、しっかりご説明していきます。
大学受験は、いうまでもなく、お子さんの人生にとっては通過点の1つです。「志望校に入学したらそれでおしまい」というものではなく、そこから未来へと道は続いていきます。
そして、多くのお子さんにとっては、大学受験の次に訪れる大きな関門は、就活です。
私はもともと、デロイトトーマツグループという人事系コンサルティング会社に入社し、企業の新卒採用や研修に関わってきました。その経験を生かして立ち上げたのが、就活塾ホワイトアカデミーという「就活で大手ホワイト企業に行くための塾」です。
このように、受験と就活をセットにした進路指導をしているからこそわかることなのですが、昨今の就活で求められている能力と、本書で取り上げる新しい入試方式で求められている能力は酷似(こくじ)しているのです。
そのため、大学受験の先のことを考える際にも、本書の内容はぜひ知っておいて損はないと思います。
また、この大きな受験改革は今後しばらく継続することは間違いありませんから、高校生のお子さんだけでなく、中学生のお子さんの親御さんにも、お役立ていただけるはずです。
本書で取り上げること、取り上げないこと
現在、私のもとには、文理選択・大学選び・受験戦略・就職など多岐にわたる相談をいただいています。本書では、そうしたご相談の内容や過去の塾生の進路データをもとに、よりリアルな受験戦略について記載しています。具体的な内容について、ここで簡単に説明しておきます。
第1章では、「そもそも、よい大学とは何か?」という根本的な問いからスタートします。多くの親御さん・お子さんは、いい大学・そうでない大学を単なるイメージで捉えているようです。例えば、「GMARCH(学習院大学[G]、明治大学[M]、青山学院大学[A]、立教大学[R]、中央大学[C]、法政大学[H])以上に行けば就職では潰(つぶ)しが効く」という、よくある言説もその1つでしょう。
しかし、イメージはあくまでイメージで、実像を知らずにその大学を目指しても仕方がありません。また、イメージのままだとモチベーションにつながりにくいお子さんもいるのではないでしょうか。さらにいえば、ある子どもにとっての「いい大学」が、別の子にとっても「いい大学」とは限りません。
そこでこの章では、具体的な検証を通して、「いい大学」について考えます。
「うちの子は中堅高校だし、部活部活で成績がいいわけでもないし……どこの大学に行くのがいい?」
「そもそも、無理をしてでも上位大学を目指すメリットはあるの?」
「1人目の子どもの受験は本当に大変だった。2人目も同じ苦労を繰り返すの?」
「やりたいことがまだ決まらない。どの大学に行かせるべき?」
といった悩みにも答える内容になっていますので、そうした疑問をお持ちの方もぜひ、この章から読んでください。
第2章では、「今の時代に最適な受験戦略」を解説します。先ほど説明した高大接続改革によって、大学入試は親御さんのときとは様変わりしています。加えて、現在は「入試の方式」も複数あります。まずは最新の入試の知識を身につけておきましょう。
第3章では、お子さんのタイプ別に、どの入試方式が向いているのかを考えます。志望校を選んだ後に考えるべきは、
「お子さんにとって、どの入試の方式が一番勝てる可能性が高いのか」
ということです。方式を知らずに「とにかく受験勉強」と決めつけてしまえば、それだけお子さんがリスクを背負い、苦労を強いられることになるのです。
そこでこの章では、お子さんのタイプに応じた入試方式の選び方についても、目下進行中の大学入試改革のトレンドを踏まえてご紹介していきます。
第4〜7章では、「提出書類・小論文」「面接・口頭試問」「基礎学力」「集団討論」という4つの切り口から、上位大学合格法――たとえ勉強嫌いな子でも、上位大学に合格するための、アピール入試の攻略法――と求められるレベル感をお伝えしていきます。
今後、一般入試はより高難度化し、合格枠も減少し続けていくことが見込まれます。どんなに知識を詰め込んだとしても、上位大学の一般入試では、灘(なだ)高等学校や開成高等学校などの超進学校の生徒の独壇場(どくだんじょう)となっていくはずです。
「合格」という少ない椅子を、もともと地頭がよく、さらにそこからハイレベルな教育を受けている彼らと奪い合わなければいけない。つまり一般入試に関しては、文科省の改革とは反対の方向に変化する―一部のエリート高校以外の高校生は突破しにくくなる――ことは確実です。
では、どうしたらいいのか? その答えが、総合型選抜(旧AO(アドミッション・オフィス)入試)や学校推薦型選抜です。
これらの方式では、「学問への熱意(「こんなことを学びたい」という気持ち)」や「主体性・多様性・協働性」が評価されますから、単純な知識量・詰め込み量での戦いではなくなります。冒頭で紹介した「偏差値が低いのに、早稲田・慶應・上智などの上位私大や旧帝大・筑波大学などの上位国公立大学に合格する人が最近増えている」という事実は、この入試方式で合格している生徒が年々増えているということなのです。
総合型選抜や学校推薦型選抜では何が評価されるのか、どんな対策が必要か、どんな子が合格するのか。それをじっくり理解してください。
また、それぞれの章では、実際の合格事例も紹介します。合格者の志望動機や作文などを見ながら、具体的なイメージと求められるレベル感をつかんでください。受験のサポートとして何をしたらいいか迷っている方にも、参考にしていただけると思います。
第8章は、お子さんの受験のために親御さんにできること・すべきことです。
本書を手に取ってくださっている方にとって、お子さんの大学受験は、自分事以上に気になることかもしれません。しかし、だからといって過度に干渉してはお子さんのやる気をくじくことにつながります。反対に必要なサポートもしなければ、お子さんは孤独な戦いを強いられることになってしまうでしょう。
受験制度の変化に伴い、親御さんに求められる役割も変わってきています。この章を参考にして、お子さんとの関わり方を決めていただければと思います。
最後に第9章では、お子さんの受験に際して、よくお問い合わせいただく質問と、その回答をまとめてお伝えします。進路のこと、大学選びのこと、学部のこと、就職のことなど、リアルな話・込み入った話を含めて記載していますので、具体的な悩みを抱えている方はまずはここからご覧ください。
念のため、本書では取り上げないことも、ここで記しておきます。
まず本書で取り上げないことは、特定の大学の一般入試の出題傾向やその突破法です。ご覧の通り、本書は「猛勉強(暗記)→一般入試」という「大学受験の思い込み」を捨て、新しい制度に合わせた突破法をお伝えしていくことを目的としています。そのため、同様に「模擬試験の成績を上げる方法」「偏差値を上げる方法」などを記すつもりはありません。また、一般的な勉強法や記憶力を高める方法なども、本書では取り上げません。
もし、本書を読んだうえで、「それでも我が子は一般入試だ」と思われたなら、そのときは、他の参考書や過去問題集、あるいは予備校に当たってください。
一般入試のことはほとんど取り上げない分、総合型選抜や学校推薦型選抜に関しては、本書1冊で十分な備えができるように、可能な限り詳しく、すぐ役立つ形で紹介していきます。こうした目的を理解したうえで読み進めていただければ幸いです。
受験改革はピンチか、チャンスか? それは備え次第
この受験の大変革は、実際のところ、大きなチャンスに他なりません。
大変革を知っているか。そしてきちんと対策を立てられるか。
それだけで、これまで、
「うちの子は一般受験は厳しそう」
「超進学校に通っているわけじゃないから、いい大学は行けないよね……」
「部活ばっかりやっているから、浪人しないと上位校は無理だろう」
というご家庭には、思ってもいなかったミラクルが生まれる可能性があるのです。
一方で、
「小さい頃から塾で勉強をしてきたから大丈夫」
「文系だし、高3から本気で受験勉強を頑張れば、GMARCHには行けるでしょ」
「これまで受験も定期テストも丸暗記でなんとかしてきたのよねぇ」
「我が子は一夜漬けの追い込み型だから、ギリギリになってから頑張って、行けるところに行くしかない」
というご家庭は、かつてないリスクに直面することになるでしょう。
これが今、大学入試で起こっている地殻変動なのです。
本書が日本の未来を担う子どもたちの、よりよい進路選択と希望の未来につながれば、これ以上の喜びはありません。
【目次】