その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は中沢康彦さんの『 教科書経営 本が会社を強くする 』です。
【はじめに】
本はビジネスにさまざまなヒントを与える。
例えば、企業が課題に直面したとき、しっかりしたデータや調査に基づいて編み出された経営学の理論は進むべき方向をしっかり照らしてくれる。ビジネスパーソンによっては、名経営者の経験やその言葉が迷いを断ち切るためのヒントになることもある。本を読むことによって、自分の取り組んできた施策の意味を知ったり、進んでいる方向を確認したりすることもある。インターネットでさまざまな情報を簡単に入手できるようになっているものの、まとまった知識を得るにはやはり本が役立つ。これまでも、そしてこれからも本がビジネスに果たす役割は大きいはずだ。
本書はビジネスに役立つ本を「教科書」と位置づけ、教科書を生かしたマネジメントの在り方を、経営者、学者の皆様の取材を通して明らかにする。
「教科書? 実際のビジネスは本のようにいくはずがない」と思う人がいるかもしれない。確かに本の内容と自分の会社の状況が完全に一致することはなかなかないだろう。しかし、ビジネスの世界は共通するところが多く、学問の世界では研究成果が日々積み上がっている。また過去の経験が生きてくる場面も多数あり、ビジネスを少しでも前に進めたいならば、本に書いてある知見を生かさない手はないだろう。何よりも本は1冊の価格が安く、しかも自分の都合のよい時間に読むことができる。これほどコストパフォーマンスのよい方法はなかなかない。
問題は本を実際のビジネスにどう使うか、だ。世の中に流通する本はビジネス関連だけでも膨大で、扱うジャンルも多岐にわたる。そのほかのジャンルも含めて役立つ本もあれば、そうでない本もある。このため書店に出かけたり、インターネット経由の検索などで自分の役立つ本を探そうとしたりしても、手掛かりがつかめないことがある。何とか本を見つけたとしても「何を学んだらいいのか」「読んだ内容をどう実際のビジネスに生かしたらいいのか」となると、いっそう分からなくなるケースも多いはずだ。
これに対し、本書は経営者の皆様が実際にどうやって本を選び、どんなふうに読み、そしてどう役立てているかを具体的に記している。ありそうでなかなかない切り口であり、その意味で画期的だと自負している。登場する経営者のキャリアや業種などは多様だが、「実際に経営に役立てたからこそ、分かること」を記している点で共通する。それだけに本からビジネスのヒントをつかみたいと考える人にとって「超実践派」のブックガイドとなるはずだ。また学問の最前線からの声も収録しているため、経営学などを学ぶ人にとっても、実際のビジネスとのつながりを考える点において役立つだろう。
私はビジネス誌や新聞の記者として取材をスタートしてから30年以上になる。経営学などの知見や伝説の経営者の発想などと実際のビジネスとの関係をずっと見つめてきた。幾多の取材経験からたどり着いたのが本書であり、登場する皆様はもちろん、これまでの取材にご協力いただいたすべての皆様にこの場で謝意をお伝えしたい。本書の内容は日経ビジネス本誌、日経ビジネス電子版などに掲載した記事がベースとなっている。内容の一部は掲載後に変わったケースもあるが、ご容赦いただきたい。
今後もこのテーマを深掘りし、その成果は日経ビジネス電子版の連載「会社を強くする『教科書経営』」などに掲載していく。機会があれば、ぜひそちらもお読みいただきたい。
2023年3月 日経ビジネス編集部 シニアエディター 中沢康彦
【目次】