その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は河村泰貴さんの『 自分以外のすべてがわが師 高卒バイトが2000億円企業のトップになれたわけ 』です。
【はじめに】
バイト上がりの無気力な若者が、2000億円企業の社長になれたわけ
「頑張れば夢はかなうっていうけれど、手の届かないものはあるんだ」
10代半ばから、わたしはこんな思いにとらわれていました。「俺だってやればできる」と心のなかでつぶやきながら、実際には何もしない。そんなどうしようもない若者でした。
それでも、人生を大きく変えることができました。
19歳の頃、アルバイト(𠮷野家では「キャスト」と呼びます)として𠮷野家のお店で働き始め、24歳で「社員にならないか」と声をかけていただき、𠮷野家に入社。35歳のとき、グループ会社でうどんチェーンのはなまるに出向し、同社の再建に取り組み、38歳で同社社長に就任。その後、43歳で𠮷野家ホールディングスの社長を拝命し、2025年5月まで13年間、社長を務めました。
こう書くと、すごい人のように思われるかもしれません。ですが、全然そんなことはないんです。中学時代にあることで大きな挫折感を味わい、それからは、無気力で、将来のことなどこれっぽっちも考えず(努力しないので、当然勉強もできない)、大学も2度中退しています。
だから、本書を通じて声を大にして言いたい。
今がダメだからといって、自分の人生を諦めないでほしい。あなたが活躍できる場所はきっとあります。ただし、何かで人との違いを出そうと思ったら、そのことに対して、少なくとも他人と同じことをしていてはダメです。いろんなことを諦める前に、今、目の前にある仕事を、全力で頑張ってみてください。必ず人生を変えることができます。
無気力な若者を生み出した中学の挫折経験について、話しましょう。
わたしが通っていた中学は、バスケットボールの強豪で、県大会の常連校でした。友人に誘われてバスケ部に入部し、3年間、日夜練習に明け暮れました。1年のうち練習がなかったのは、盆と正月のたった2日だけ。自分としては、本当に精一杯努力したのですが、結局、レギュラーにはなれませんでした。そして、冒頭で述べたように「頑張れば夢はかなうというけれど、そうじゃないこともある」と思うようになってしまったのです。
もし、タイムマシンがあって、当時の自分にアドバイスできるとしたら、「確かに、バスケットボールでは夢がかなわなかったかもしれないけれど、頑張れば報われる場所というのはきっとある。視野をもっと広く持って」と言ってやりたい。でも、あの頃のわたしは、バスケ部での挫折体験から、何に対しても頑張れなくなってしまっていたのです。
高校に入っても、勉強に身が入らず、学校に行かずに映画を見に行ったり、公園でぶらぶらしていたりすることもしばしば(かといって、グレて不良になるわけでもなく)。出席日数がぎりぎりで進級し、卒業しました。大学受験も、ろくに勉強せず、努力しなくても行けるレベルの大学を受けて、入りました。当時、親の仕事の都合で広島に住んでいたのですが、その大学を受けたのは、どうしても小学生までを過ごした大阪に戻りたい、ただそれだけの理由でした。
そんなことだから、大学生活もつまらないと感じ、すぐに行かなくなりました。翌年、別の大学に入り直したのですが、そこにも1~2カ月で行かなくなった。アルバイトも、引っ越しから毛皮販売までいろんなことをしたが、長続きしなかった。
そんな中で、唯一続いたのが、𠮷野家でのアルバイトでした。おいしくてできたてのものを手頃な価格で提供し、お客様に喜んでもらえる(しかも、まかないつき)。それが、気に入っていたんですね。ただし、取り立てて優秀なアルバイトだったわけではなく、当初は「いらっしゃいませ」もろくに言えない、出来の悪いバイトでした。
そもそもわたしは、いまだにそうですけれど、自分が人当たりのいいほうだとは思っていませんし、社交的な人間ではないという自覚もあります。誰とでもうまくつき合えるタイプの人間ではないんですよ。
バイト店員なら、決められたタスクをマニュアル通りに黙々とこなしていれば、人づき合いが苦手であろうとなんとかやっていけます。けれども、店での仕事を一通り覚え、熟達してくると、アルバイトでも店長を任されるようになります。店長になると、自分の好き嫌いにかかわらず、さまざまなスタッフの方をとりまとめ、運営していかなくてはなりません。相性が合わない人であろうと、自分の母親くらいの年上の人であろうと、店長として接していかなければなりません。そういう人ともコミュニケーションを取って、会社やお店の方針を伝えて、協力してもらわなければいけない。そこがとても苦痛でした。
「どうしてわかってもらえないのか」
「なぜ、こちらの言うことを聞いてくれないのか」
苦闘の日々がしばらく続いたのですが、ある日、はたと気づいたんです。
「俺が相手とコミュニケーションを取って、相手がこういう反応をしたら、あるいは、こういう態度を取られたら嫌な気持ちになる。そのことを学んだじゃないか」
いつか別の場面で、例えば、エリアマネジャーや部長がわたしとコミュニケーションをして、わたしが同じような反応を示したら、彼らはきっと今の自分と同じ気持ちになる。だから、自分が嫌な気持ちになったときは、それを反面教師として生かせばいいんだ、と。
「どんな人からも学ぶことってあるんだな」と思うと、対人関係で嫌なことがあっても、あまり思い詰めなくなりました。そういうことを今、相手から学んでいると思うと、楽になれるんです。それまで人づき合いが苦手で、誰とでもすぐ親しくなれるというような人間ではありませんでしたが、それに気づいてからは、少なくとも人と接することがそれほど苦ではなくなったんですね。
この出来事をきっかけに、自分の座右の銘を「我以外皆我師(われいがい、みなわがし)」にしました。つまり、どんな人(あるいはどんなこと)からも学びがあるということです。
この座右の銘は、自分でつくった言葉だと思っていたんですが、実は、歴史小説家の吉川英治さんが好んで使っていた言葉だということを後で知りました。学生の頃、どこかで目にしていた言葉だったのかもしれないですよね。代表作『宮本武蔵』の一節にも、この言葉が登場します。
現場には、いろんなものの答えがあります。そして、どんなことからも学びがある。そのことに気づけたのは、わたしが自分の人生を変えるうえで大きな転機でした。ただし、ビジネスパーソンとして覚醒していったのは、もう少し先でしたが。
大学を中退し、バイトをしながらフリーターとして過ごしていましたが、二十歳を過ぎると自分の友人たちはどんどん就職していき、「自分はこのままでいいのか」という思いと将来への不安が日に日に強まっていきました。そんなとき、𠮷野家から「正社員としてうちで働いてみないか」と誘いを受けたのです。アルバイトを始めて5年目、24歳のときでした。
わたしを正社員として雇ってくれる会社なんて、日本中探しても、𠮷野家しかありません。だから、入社時に、「30歳までは、とにかく、もうこれ以上できないというくらい仕事をしてみよう」と決めたんですね。高卒で入社していたら、24歳の社員は入社6年目です。つまり、それだけ後れを取っているわけです。だから、彼らの6倍頑張って、やっと同じ土俵に立てると思いました。選択肢が一つしかないから、それを自分にとって良かったことにしたかったのかもしれません。
「やればできると思いながら、やらなかった人生を終わりにしよう」
その後も、決して順調だったわけではないのですが、少なくとも「努力すれば報われるなんてウソだ!」という呪縛からは脱することができました。
本書では、アルバイトから店長、正社員、そして社長になったわたしが、「自分以外のすべてがわが師」の精神で得た学びのエッセンスを、読者の皆さんにお伝えできればと思っています。わたしが試行錯誤し、何度も失敗しながら学んできた仕事のやり方、生き方、価値観などを、自身の過去のエピソードとともに紹介していきます。
「自分以外」の師匠たちから、何を見て、何を感じ、どんなことに気づき、学ぼうとしてきたのか。「仕事術」「コミュニケーション」「学び・挑戦」「人材育成」「生き方」「リーダーの心得」「若者へのメッセージ」「ホスピタリティー(接客)」「経営」という九つのジャンルに分けて紹介します。1話を3~4ページにまとめていますので、皆さんのお忙しい時間のすき間に、興味のあるところから読んでみてください。
もちろん、ここに書かれた内容は、わたし自身の体験や経験に基づく一つの考え方やモノの見方であって、唯一の正解などではありません。
本書のメッセージを特に受け取ってほしいのは、かつての自分のように、一方的な思い込みで人生に投げやりになってしまっている方たちです。繰り返しますが、頑張れば報われる場所はきっとあります。だから、自分の人生を諦めないでほしい。もちろん、誰かとの違いを出すためには努力が必要です。頑張ってそれを続けていれば、少なくとも、わたしのような経営者くらいにはなれます。誰でもです。そして、若い方だけでなく年配の方々にも、「何かを新しく始めるのに遅すぎることはない」と申し上げたいです。
年を取ると、時間が過ぎるのが早くなるとよく言われますよね。それはなぜか。わたしなりに考えた原因は、「初めてのこと」が減るから。初めて通る道は通過するのに長く感じ、初めて行く場所は遠く感じる。初めての仕事も、長く感じます。でも、同じ道でも2回目、3回目になるとそれほど遠く感じません。それと同じで、初めて行く場所、見るもの、経験がだんだんと減っていくことが、時間を早く感じてしまう理由なんじゃないかと思うんです。だったら、逆に、「初めてのことを増やせば、時間がたつのをゆっくりに感じられるんじゃないか?」。わたしも50歳半ばを過ぎましたが、新しいことを始めて、時間の流れにあらがおうと思っています。読者のなかの中高年の方々も、一緒にあらがいませんか? 新しいことに挑戦し、すぐにうまくできなくても、1ミリでも前に進めたら、自分を褒めてあげましょう。それが、わたしが実践している長続きの秘訣です。
本書は、わたしが従業員向けに出してきた「DUETメールマガジン」がベースになっています。子会社のはなまる時代から、社長業を仰せつかった18年の間で、通算560本のメルマガを書き続けてきました。このメールでは、わたしが一方的に説教するのではなく、読み手である従業員の方々の気づきを促せるように心掛けてきたつもりです。また、自分の過去の恥ずかしい失敗も紹介しました。失敗は「学びの宝庫」です。
本書が、皆様の仕事と人生にとって何らかの気づきを促すことができましたら、著者にとってこれ以上、うれしいことはありません。
河村泰貴
【目次】




