その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は須藤憲司さんの『 AIドリブン経営 人を活かしてDXを加速する 』。「プロローグ」をお届けします。

【プロローグ】適応か? 死か? 生成AIが拓く未来

1日に100以上も生まれる新プロダクト

 24時間365日休まずに、文句も言わずに働く優秀なアシスタントがいたら……。
 欲しいものがなんでも出てくる「四次元ポケット」を手に入れたら……。
 あなたはそれを夢物語だと思うでしょうか?
 そんな都合のいいものが手に入るわけないだろうと、疑ってかかるでしょうか?

 実は、その「夢みたいに都合のいいもの」が登場しました。
 ChatGPT(チャットGPT)、Midjourney(ミッドジャーニー)、RVC、Adept(アデプト)……。これらは「生成AI(Generative AI)」と呼ばれ、今やこの「生成AI」を組み込んだ新しいプロダクトが世界中で1日に100以上も生まれています。
 生成AIとは、人工知能の一種であり、深層学習(ディープラーニング)や機械学習(マシンラーニング)の技術を用いて新しいデータやコンテンツを自動的に作ることができるシステムです。与えられた入力情報から予測や創造的な生成を行い、文章、画像、音声などの多様な形式のデータを作成することができます。
 代表的な例としては、OpenAI(オープンAI)が開発したGPT(Generative Pretrained Transformer)モデルがあります。GPTは大量のテキストデータを学習し、その文脈から文章を生成します。
 2022年11月にチャットGPTが発表されると、多くのユーザーがその性能に衝撃を受けました。私も製品発表の2日後に米国の友人から「すぐに触った方がいい」と連絡をもらい、これまで自分がイメージしてきたAIとは全く次元の違う性能に驚きました。
 それから毎日のようにチャットGPTを触りました。何ができて、何ができないのか?不得意なことは何か? とにかく、自分自身で体感してみることから始めたのです。
 そうして、触っている中で確信したことがあります。それは、このイノベーションはこれまで私自身が経験してきたさまざまなイノベーション、例えばインターネットや検索エンジン、スマホ、SNS(ソーシャルネットワーキングサービス)などを遥かに超えるインパクトをもたらすだろうということでした。
 このイノベーションによって市場の競争ルールは大きく書き替えられ、それに伴い生成AIは、事業のあり方、組織のあり方、そして人々の生き方までも含め、社会全体に大きなインパクトを与えていくだろうということを1人の経営者として感じています。

 日本でも2023年に入ってから大きな話題になり、多くのメディアがその驚異的な能力や応用の可能性について報道し、技術関係者の間でも議論が巻き起こりました。これにより一般の人々もこの話題について知る機会が増えました。
 また、国内企業も次々と生成AIを活用したサービスを展開しています。
 例えば旅行予約サイト「じゃらん」がAIチャット( https://www.jalan.net/chat/ )でのコンシェルジュサービスを始めたり、アル株式会社が集英社の「少年ジャンプ+」編集部と共同ででComic Copilot( https://lp.comic-copilot.ai/ )という漫画づくりを手伝うサービスを始めたりしています。

生成AIは仕事の格差を広げる

 このようにすい星のごとく現れた生成AIは一部の専門家だけでなく、誰もが扱えるものとなりました。言うなれば「AIの民主化」が始まっているのです。
 しかし、話題とはいえ、どれだけの人が真剣に仕事で使い倒しているでしょうか?
 どれだけの企業が真剣に業務プロセスに取り込み始めているでしょうか?
 実は、日本企業における生成AIの利用率はまだ10%程度というデータがあります(図表0参照)。経営者の立場としては、この状況に危機感を抱かざるを得ません。

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 あくまでも、ひと足先に使い倒してみた私の印象ではありますが、生成AIはおそらく、仕事の生産性の格差を広げていくでしょう。仕事のできる人はさらにできるようになり、業務の多くがAIでカバーできるようになり、ホワイトカラーの仕事は今の10分の1以下で済むようになる可能性も否定できません。
 現在、日本では、労働力人口約6700万人のうち、約3500万人がホワイトカラーに従事していますので、生成AIの活用で約3000万人くらいの仕事を代替できる可能性があるというわけです。
 これから少子化でさらに生産年齢人口が減っていく日本においてはものすごく大きなインパクトがある話と言えます。
 一方、その過程で、人的資本経営の価値が暴落する可能性もあります。
 実際に、先日、投資家と「生成AIに関してどんなプレイヤーに投資したいか?」と話してみたところ、次の3つを挙げていました。

1 ユーザー数を抱えている会社
<例>マイクロソフト、グーグル、アップル、アドビ

2 生成AIビジネスの基盤を提供している会社
<例>NVIDIA(エヌビディア)、オープンAI

3 社長1人もしくはごく少数で経営される会社
<例>無人コールセンター、無人ペイロール、ゲームや映画などの制作プロダクション

 注目すべきは3番目の「社長1人もしくはごく少数で経営される会社」です。オープンAIのサム・アルトマンCEOも「1人で10億ドル規模の会社を築くことができるようになるだろう」と話しています。
 想像してみてください。何千人、何万人も電話応対する人を雇っているコールセンターと、すべてAIに電話応対を任せているコールセンター。後者の方は人件費がかかっていないので、料金が安い。受電率100%も夢じゃない。そのうえで顧客対応のクオリティが同じであれば、安い方に発注しますよね。同様に1人、あるいは少数のチームで、大作ゲームや映画を制作することも可能になってきています。
 投資家としても、利益率が高く、規模の経済が利きやすい「1人会社」に投資したいと考えるでしょう。しかも、1人会社は人件費がかかりませんし、設備投資など大きな投資を必要としなければ、投資家は出資すら断られるケースもあり得ます。
 つまり、人的資本の重要性が相対的に下がると同時に、金融資本の価値も相対的に下がるのです。逆に価値が高まるのは、知的資本です。

投資すべき価値は「プロディジー」

 人的資本が重視される世界では、個々の業務はなるべく個人に依存しないよう仕組み化され、属人的にならないよう組織全体で協力、連携することで、成果が生み出されます。
 だからこそ、人材を大量に採用して育成する必要があり、企業は求職者へのアピールポイントとして「育児休暇取得率」「DE&I(ダイバーシティエクイティ&インクルージョン)」「リスキリング」といった働きやすい環境づくりに注力していくことで優秀な人材を集めようと努めます。人材こそが成長のカギを握っており、投資すべきファクターなので、金融資本も当然そこに集中します。

 一方、知的資本が重要な世界では、天才的な発想やユニークな考え方ができる少数あるいはたった1人の人間がAIをフル活用することで、成果が生み出されます。人的資本はおろか、金融資本もそこまで多く必要としません。つまり、AIの民主化後は、プロディジー(天才性)こそが投資すべき価値になる可能性があるのです。
 米半導体大手エヌビディアのジェン・スン・ファン最高経営責任者(CEO)は、「エヌビディアのビジョンは、次のアインシュタインやダ・ヴィンチのライフワークを成し遂げるための支えになること」と述べています。このスピーチを聞くと、彼は圧倒的に優れた個人の時代を予見しているように思えてきます。
 現在、日本で自民党の岸田政権が推進している成長と分配の好循環を軸とした「新しい資本主義」とは全く異なる形態の経済社会が現れる可能性もあります。AIをフル活用することによって、雇用の数を抑えながら大きな収益を上げることも可能になってくるとすれば、利益がごく少数の人たちだけにしか渡らない、ということも十分にあり得ます。格差が拡大することも視野に入れておく必要があるでしょう。
 生成AIの登場とともに、世界中で同時に全く新しい次元に突入しました。経営者も同時に、この市場環境にどう適応し、どう舵を切るべきなのか。そのことが経営のトップアジェンダになったと言っても過言ではありません。
 本書を通して、経営者の目線で生成AIが巻き起こす市場の大変化とその対応策について考えていきましょう。

 本書は、全5章で構成されています。
 第1章では、生成AIとは何で、市場のルールをどのように変えていくか、について掘り下げていきます。第2章では、その市場のルール変化に合わせて、どのように事業を変革していくか、についての本質的な考え方について述べていきます。
 第3章では、市場の変化とそれに対応した事業変革に合わせ、どのような組織に変革していくべきかの論点を提示します。第4章では、AIに使われない組織にするために考えるべきことや雇用形態を具体的に解説します。第5章では、市場、事業、組織とそれぞれに合わせて戦略を考えた際に、最後に人をどう動機付けして動かしていくべきかをまとめていきます。

 戦略と実行の両輪が回ることで、あなたの会社が生成AIを前提にした「AIドリブン経営」を実現する一助になれば幸いです。

2024年4月 須藤 憲司


【目次】

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