その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は遠藤功さんの『 ガリガリ君の秘密 赤城乳業・躍進を支える「言える化」(日経ビジネス人文庫) 』。「文庫版まえがき」をお届けします。

【文庫版まえがき】――今こそお手本にすべき経営がここにある

 本書は2013年10月に潮出版社から刊行した単行本『言える化』を文庫化したものである。この本は国民的アイスキャンディである「ガリガリ君」を生み出した赤城乳業という会社を舞台にしたビジネスノンフィクションである。

 平成という時代は、多くの日本企業が個性を失い、その存在感が希薄化した時代だったとも言える。今一度大戦略を立て直し、組織全体の活力を取り戻さなければ、令和という時代はさらに厳しい局面に立たされるだろう。

 そんななかでも、個性を際立たせ、活力にみなぎる会社は存在する。その代表格が赤城乳業だ。

 単行本を出版した時点では6年連続増収(V6)を達成していたが、それ以降も勢いは衰えず、2018年にはなんと12年連続増収(V12)を実現した。日本経済が縮んでいく中でも、会社は成長、発展できることを証明している。

 厳しい経営環境をものともせず、赤城乳業はどうして成長、発展を続けることができるのか。その秘密を解き明かすのが、本書の狙いである。

 その秘密を垣間見ることができるエピソードをひとつだけ紹介しよう。

 2013年に単行本を刊行した際、出版記念イベントを丸の内で開催した。当日は200人近い参加者で会場は満席だった。

 トークショーの内容は、本書にも登場する赤城乳業の20代、30代の若手社員3人と私が赤城乳業の経営について語るというものだった。赤城乳業のご厚意で、参加者全員にアイスを配るというサプライズもあり、会場は大いに盛り上がった。

 実は、私が当初考えていたイベントの内容は、私と井上秀樹社長(当時、現会長)との対談だった。メディアにほとんど登場されない井上社長から、赤城乳業の経営のエッセンスについて直々に語っていただきたいと私は考えていた。

 しかし、井上社長はそれを固辞された。代わりに、若手社員たちに思う存分語らせてほしいと依頼され、トークショーへと模様替えした。そして、その試みは成功した。

 井上社長はお忍びで会場に来られ、隅っこでトークショーの様子をご覧になっていた。

 井上社長が会場におられることを知った私は、イベントの締めくくりに「今日は井上社長が会場に来られています。すいませんが、社長、ひとことお願いできませんか」とマイクを向けた。事前の打ち合わせもない、突然の無茶ぶりである。

 静かに立たれた社長は、短いが力強くこう話された。

 「すべては社員たちの頑張りのお蔭です。本当にありがとう!」

 会場は割れんばかりの拍手に包まれた。

 若手社員たちにここまであけっぴろげに感謝を表す社長が、いまどきどれだけいるだろうか。経営者と社員がこれほどつながっている会社がどれほどあるだろうか。

 赤城乳業という会社が12年も連続で成長できている理由の一端は、間違いなくここにある。

 文庫化にあたっては、2016年に経営トップの座を引き継いだ井上創太社長へのインタビューを巻末に加えた。リーダーが代わろうとも、その基本思想はきちんと受け継がれている。

 なお、取材当時の熱気を活かすため、本書の記述内容、赤城乳業のみなさんの肩書き・年齢、経営数字などは、基本的に単行本刊行時のままとしている。その後の変化は、巻末のインタビュー内でできる限りフォローしているので、あわせてご覧いただきたい。

 本書が、経営において大事なものとは何かを考えるヒントになれば著者として大きな喜びである。

 令和元年5月

遠藤功


【目次】

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