その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は中川淳さんの『 中川政七商店が18人の学生と挑んだ「志」ある商売のはじめかた 』です。

【はじめに】 本書の読み方〈「志」ある商売には何が必要か〉

 企業の行き過ぎた短期利益追求が地球環境を傷め、社会にしわ寄せが及び、限界を迎えつつある現在、ポスト資本主義が模索されています。これからの時代における「いい会社」とは何なのか? その問いに対する答えの一つは、いいビジョンを持ち、その達成のために全力を尽くすことだと考えます。

 本書の前半では、ビジョン=志を起点に、いかにしてビジネス全体の設計図をつくり上げるかを話していきます。物事を始めるには、まず全体の設計図が必要です。ビジネスももちろん同様です。全体の設計図を描くために必要なのは、こうなりたい、こうしたいという「意思」です。意思なくして物事は始まりません。そして、その意思には「社会性」と「愛情」と「覚悟」が含まれていなければなりません。個人の「意思」が会社になったとき、ビジョン、ミッションあるいはパーパスへと昇華します(この3つはすべて同じようなものなので、本書では今後ビジョンと表記しますが、必要とあれば各自読み替えていただければと思います)。

 そして、そのビジョンを達成するにはどうしたらよいのかを損得の前に考え、独自のユニークな競争戦略を生み出していきます。これによってビジョンをきれいごとで終わらせず、実現可能な道筋を描き出します。「『志』ある商売のはじめかた」の肝はそこにあります。

 本書の後半(9章〜)では、前半で描いた全体の設計図をいかに実装していくのかを3つのファンクション(プロダクト、コミュニケーション、オペレーション)に分けて詳細に解説していきます。ビジョンと競争戦略を描けたとしても、それを戦術・戦闘に落とし込まなくては意味がありません。

 また、ブランドが動き出した後のフェーズについても考えていきます。ブランドをつくるフェーズと、ブランドが動き出した後のフェーズとでは考え方がまったく異なります。この切り替えがうまくできずに、結果としてうまく立ち上がらないブランドを数多く見てきました。ブランドが立ち上がった後は、お客さんがいて、その反応があるのです。お客さんと向き合いながら理想とするあるべき姿にいかに近づけていくのか、それを阻害しているものは何か、それを解消するには何をすればよいのか、そういったPDCAを回しながら進んでいかねばなりません。前半が右脳寄りの思考に対して、後半は左脳寄りの思考といえるかもしれません。

 こうした内容を、教科書形式ではなく、あえてストーリー形式でお届けいたします。18人の学生と共に「アナザー・ジャパン」というお店をオープンさせるまでの生々しいやり取りを、実況中継的にテキストにしています。抽象論としては理解しても、それを実践に持ち込むのはなかなか難しいものです。特に、本書の主題である「ビジョンからユニークな競争戦略を導く」というのは、フレームワークに当てはめさえすればうまくいくものではありません。さまざまな視点で材料を集めながら、有機的に仕上げていく過程です。経営の前提知識のない学生が主体となってビジョンを考え、それをお店という形に仕上げていく過程を共有することで、「ビジョンからユニークな競争戦略を導く」過程を実践的な知識としてお伝えできればと期待しています。

 本音と建前、理想と現実、ダブルスタンダードに陥らず、いい会社をつくりたい、いい会社で楽しく働きたいと思っているすべての方に、ぜひ読んでいただきたいと思います。


【目次】

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