その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は特定非営利活動法人 金融IT協会(著)の『 金融モダナイゼーション レガシーシステム刷新の成功メソッド 』です。
【はじめに】
金融機関各社が、現在利用している基幹系システムのベースを構築してから約40年がたつ。『金融情報システム白書(昭和64年版)』(財団法人金融情報システムセンター編)をひもとくと、1980年代に入ってから、当時「第3次オンラインシステム」といわれた大規模開発プロジェクトが開始されている。同白書によれば、多くの生損保・証券会社においても、同時期に「社内または顧客との間の業務の機械処理を大幅に変更する」システム開発に着手している。
レガシーシステムの対象は、この時期に生まれたシステムを指すことが多い。これらのシステムは顧客に時間的・空間的制約を超えたサービスを提供しつつ業務処理コストを軽減するものであったが、金融商品のさらなる複雑化やIT技術の高度化等によって、見直しが急務となっている。これまでも、システム再編についての議論は行われてきたが、近年では既存システムを熟知した要員のリタイア、生成AIによるシステム開発といった要素が加わり、モダナイゼーションは先送りできない状況にあると考えられる。さらに、今後の生産年齢人口の減少を考えれば、レガシー脱却を目指して作り上げた新システムが、いずれレガシーになって負担になる事態を招かない防止策も同時に立案する必要がある。
当協会は「金融ITに関わるすべての人へ組織の枠を超えたコミュニティを提供する」ことを活動の目標としている。各企業を人的ネットワークでつなぎ、共通する課題や互いに提供・利用可能なノウハウを共有することで、個社単独で取り組むよりも効率的かつ高品質な活動を実現していきたい。その意味で、まさに「モダナイゼーション」は最重要テーマの1つである。
当協会でこうした活動の中核を担うのが「モダナイゼーション委員会」である。同委員会では、人材・組織・業務・技術を横断して議論し、各社の取り組みに共通する「構造」を抽出しようと努めてきた。モダナイゼーションの現場では、単純そうに見える課題が実は複雑に絡み合っているがゆえに、ともすれば打ち手が局所的になるリスクがある。実務家同士が経験を持ち寄り、成功や失敗を学ぶことによって、思いもよらない視点を得たり、自社の方針に成功の確信を持って進めることができたりする。本書はそうした活動から生まれた知見を整理し、成功例として提示する試みである。ここで扱う事例は、単なる技術導入の紹介ではない。それぞれの企業がどのように課題を定義し、どのように意思決定を行い、どの領域から変革を進め、どのような成果に結びつけたのか、その「思考のプロセス」にこそ共有すべき価値がある。
本書を発行するもう1つの目的は、IT部門の専門家だけでなく、経営に携わる方にも目を通していただきたいという思いからである。企業活動の基盤となるシステムを変えることの意義と実際の変革プロセスについて経営陣の理解を得ることが、成功への道筋であることは、委員会の中でも幾度か議論されてきた。書物の性格上、専門用語を多用せざるをえないテーマもあるが、業界内で起きている大きな潮流をくみ取っていただける内容であると自負している。
金融業界のレガシー脱却を目指すITシステム、ひいてはそれを利用した新しい業務のあり方は、大きな変化の入り口にある。システム的な制約によって従来は困難だった商品やサービスの提供が可能になるからである。私たちがどのような一歩を踏み出すかによって、金融業界全体の役割も社会に提供できる価値も変わっていくだろう。本書がその未来をともに形作るためのかぶら矢となることを願ってやまない。
奥田 雄弘
金融IT協会(FITA) 理事、モダナイゼーション委員会 委員
【目次】


