その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は藤屋伸二さんの『 ドラッカーに学ぶ 中小モノづくり企業のためのニッチトップ戦略 』です。
【はじめに】
本書のコンセプトは、「中小モノづくり企業が、ドラッカーで眠っている強みを覚醒し、粗利益率向上とともに、新しい顧客層を開拓する」です。
これらを実現するためには、①他社ができないことをやる、②他社がやりたがらないことをやることです。すでに、この2つの両方あるいは片方をやっているのであれば、それを価格に反映させるだけです。つまり、新たに技術開発したり、製品開発したりする必要はないのです。では、どのようにすれば、粗利益率向上&新しい顧客層を開拓することができるのでしょうか。それが次の10項目です。
- (1)現在の事業を分析する
- (2)理想事業を設計する
- (3)自社の強みを見直す
- (4)何を売るかを見直す
- (5)どのように売るかを見直す
- (6)提供価値を見直す
- (7)いくらで売るかを見直す
- (8)対象市場を見直す
- (9)対象顧客を見直す
- (10)メッセージ発信を見直す
ご覧のように技術開発や製品開発の項目はありません。もちろん、これらが必要になる場合も出てきます。しかし、多くの場合、ドラッカーのマーケティングとイノベーションで、現在やっていることを見直すだけで、眠っている強みが覚醒でき、粗利益率が向上し、新しい顧客層を開拓することができます。それが、ドラッカーの魅力であり、ニッチトップ戦略の魅力です。
さて、粗利益率を向上できるかどうかは、「付加価値がある製品や提供方法かどうか」と「取引の主導権を握れるかどうか」で決まります。前者の付加価値がある製品や提供方法かどうかは、他社ができないかどうか、あるいは、他社がやりたがらないかどうか、で決まります。とくに、中小モノづくり企業の場合は、他社ができないのではなく、他社がやりたがらないことができるかどうかで決まります。
後者の取引の主導権を握れるかどうかは、顧客がどうしても欲しいのに、貴社以外に供給してくれる製品や提供方法があるかどうかで決まります。
これらを『ニッチトップになるための基準』としてまとめたものが、次の16の要素です。
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[対象市場を選ぶ基準]
- その1 ニッチ市場を選べ
- その2 未対応のニーズを選べ
- その3 強力なライバルがいない市場を選べ
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[製品や提供方法を選ぶ基準]
- その4 他社が対応したがらない「製品や提供方法」を選べ
- その5 強みを組み込める製品や提供方法を選べ
- その6 時期変動がない製品を選べ
- その7 寿命が長い製品を選べ
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[顧客を選ぶ基準]
- その8 自社の理念・方針・価値観に合う顧客を選べ
- その9 価値に対して支払う意識がある顧客を選べ
- その10 取引の主導権を持てる顧客を選べ
- その11 高付加価値の製品を扱っている顧客を選べ
- その12 自社の製品の重要度・緊急度が高い顧客を選べ
- その13 時期変動がない顧客を選べ
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[メッセージ発信の基準]
- その14 意図的に、一貫性を持って、計画的に発信せよ
- その15 媒体も選択と集中せよ
- その16 「誰に・何を・どのように」を明確にして発信せよ
これらに沿って一つひとつ意思決定をしていくのが【ニッチトップ戦略の設計】です。なお、これら16の要素は、すべて本書に織り込んでいます。
また、別の視点から見てみましょう。貴社が、特徴ある製品や提供方法を持っているのに、望むような利益や売上を上げていないのであれば、それは戦略がないか、戦略を間違っているからです。戦略の間違いは、
- 製品や提供方法の価値に見合った価格で売っていない
- 製品や提供方法の価値を認める顧客に売っていない
- そもそも自社の製品や提供方法の価値がわかっていない
- ブランディングしようと思っていない。あるいは、ブランディングできないと思い込んでいる
- 適切なメッセージ発信ができていない
- 選択と集中をせずに、できることはすべてやっている
- 薄利多売の大企業と取引している。あるいは、付加価値の低い企業と取引している
です。該当するものはありませんか。
貴社に何らかの強みがあれば、それを活かして、「他社が作った市場やビジネスモデル」ではなく、「貴社が創った市場やビジネスモデルで事業展開する」へ、軌道修正が可能です。
本書のベースになっている「マネジメントの父」と呼ばれるピーター・ドラッカーは、現在の知識社会での経営を次のように言っています。
これからはあらゆる組織にとって、いかなる規模が適切であるかが課題となる。機械的なシステム(筆者注:工業社会)では、大規模化により一段と大きな成果をあげることができた。より大きな力が、より大きな産出を意味した。より大きいことが、より良いことを意味した。だがそれは、(筆者注:知識社会に対応する)これからの生物的なシステムには通用しない。生物的なシステムでは、規模は機能により決まる。
ゴキブリにとって、大きいことは反生産的である。ゾウにとって、小さいことは反生産的である。生物学者は、ネズミはネズミとして成功するために必要なことをすべて知っているという。ネズミが人間よりも頭がよいかどうかは愚問である。ネズミはネズミとして成功するうえで必要なことについて、他のあらゆる動物の先を行っている。=中略=
今後、機能に適した規模が課題となる。その仕事が最もできるのはミツバチか、ハチドリか、ネズミか、シカか、ゾウか。いずれの大きさも必要である。それぞれの仕事にふさわしい大きさがあり、生態系がある。(『テクノロジストの条件』、P・F・ドラッカー著、上田惇生訳、ダイヤモンド社、p.231)
これを企業経営に置き換えると、「中小モノづくり企業にとって大きいことは不利である。中小モノづくり企業が大企業よりもヒト・モノ・カネ・時間・ノウハウ・スキルで劣っているかどうかは愚問である。中小モノづくり企業が中小モノづくり企業として成功するうえで必要なことについて、大企業よりも先を行っている」となります。
工業社会から情報社会、そして今、知識社会に変わりつつあります。知識社会では、企業の規模は、役割や機能によって決まります。ですから、強い大企業や中堅企業と棲み分ければ、貴社は対象とする市場で強者になれます。
ニッチトップ戦略の目的は、「小さい池の大きな魚になる」あるいは「もっと小さい池の唯一の魚になる」ことです。小さい池といっても、数百億から数千億円の市場規模はあります。また、もっと小さい池といっても、数十億、百数十億の市場規模はあるのです。このような、ニッチ市場でトップに立てば、貴社も粗利益率を向上させ、新しい顧客層を開拓することができると思いませんか。
本書は、ドラッカーの経営論をベースにしている私が、実際の経営コンサルティングや、主宰する【藤屋式ニッチトップ戦略塾】での指導で、粗利益率を向上させるとともに、新しい顧客層の開拓を支援してきた実績に基づいています。
あなたも、本書に基づき、ぜひ、ワークシートに取り組んでみてください。きっと、目から鱗が落ち、粗利益率を向上させるとともに、新しい顧客層を開拓できるはずです。
なお、ワークシート間の整合性は、さまざまな産業に属する読者のために、あえて一貫性は持たせていません。
また、事例は、必ずしも最新のものではありません。ドラッカーが言うように、事例は内容の理解を促進するためのものですから、古くてもかまいません。むしろ、最新の事例は短期間で陳腐化する可能性を秘めています。それに対して、たとえば、ジレットの「替え刃」の事例は、100年以上も前に確立されたものですが、今でもマーケティング理論では、「替え刃モデル」として立派に通用しています。
このような理由から、ドラッカーの著書に出てくる事例を多用していることを、ご了承ください。
本文中に出典を明記しましたので、ぜひ元本にも目を通していただき、ドラッカーの説く経営の真髄に触れていただければと思います。
2025年4月
藤屋伸二
【目次】



