その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は清水覚さんの『 コンペ荒らしが実践する生成AI「超」企画術 “問いの技術”で勝ち筋を導く7つの創造ステップ 』です。「序章」をお届けします。
【序章】AIは、魔法の杖ではない
企画の現場で見てきたもの
はじめまして。清水覚と申します。私はこれまで、企画の現場で仕事をしてきました。広告代理店、事業会社、コンサルティング会社と立場は変わっても、常に向き合ってきたのは「まだ世の中にないもの」を企てるという仕事です。新しい商品、新しいサービス、新しい事業──。問いを立て、仮説をつくり、形にし、世の中へ届ける。そのプロセスの中で、何度も行き詰まり、何度も立て直しながら、企画という仕事に向き合ってきました。
生成AI(人工知能)が登場してから、そのプロセスは確実に変化しました。課題を考える、アイデアを出す、検証する、言葉にする、提案書にまとめる、実行に移す。かつては時間と労力をかけて1人で行っていた工程を、今ではAIと共に進めることができます。その結果、思考のスピードは上がり、視点は増え、提案の精度も確実に向上しました。企画の世界は、すでに元には戻らないところまで来ています。
私自身、これまで数多くのプロジェクトを現場で泥臭く実行してきましたが、生成AIを実務に深く取り入れてからは、企画の質と速度が自分でも飛躍的に向上しました。特に効果を発揮したのは、数多の提案の中から選考されるコンペ(公募)です。企業からの公募テーマに対してアイデアの共創を行うプラットフォーム「Wemake」では、約3・6万人(2026年3月時点)を超える会員数の中で1位を獲得。東京都と公益財団法人日本デザイン振興会主催の「東京ビジネスデザインアワード」では、最多受賞を重ねるという大変光栄な機会にも恵まれました。これは決して私1人の力ではなく、AIという強力な相棒を得たことで、個人の限界を超えて思考が広がった結果だと確信しています。
それでも、仕事が変わらない理由
しかし一方で、現場を見渡すと、こうした変化を十分に生かしきれていない状況にも数多く出合います。AIに改善案を出してと指示しても、返ってくるのは一般的な提案で、実務で役に立たない。質問してみても、返ってくる答えに「なるほど」で終わってしまう。結局、インターネット検索の延長や、メールや議事録を整えるための時短ツールとしてしか使えていない。期待していたほど、日々の仕事は変わっていない。そんな感覚を抱いている方もまだまだ多いのではないでしょうか。
世の中には、AI活用法を紹介する情報があふれています。「AIを使えば作業時間が半分になる」「アイデアを簡単に100個出せる」といった表現も珍しくありません。確かに、何らかのテーマでアイデアを100個出すことは、生成AIを使えば数秒でできます。しかし、その100個の中からどれを選ぶのか。そのアイデアに賭ける価値があるのかを判断するのは、依然として人間です。判断までAIに任せることも理論上は可能ですが、そのとき、企画者である「あなた」の役割はどこにあるのでしょうか。企画者が何かを企て、方向を定め、時に決裁者に決断を迫る仕事である限り、ただAIの出力をうのみにはできません。
AIができること、AIがすべきこと
私は、「AIができること」は多いが、「AIがすべきこと」は限られていると考えています。正解が存在しない状況で問いを立て、選択肢をつくり、意思決定を重ねていく。その中で人間が担うべき役割と、AIに委ねるべき役割を意識的に切り分けることができれば、思考を拡張する装置になります。
本書で扱うのは、企画という仕事の本質を見つめ直しながら、生成AIを「相棒」として組み込むための思考の設計──「問いの技術」です。
本書が目指すもの
一昔前、AIに仕事を奪われると危惧する風潮がありましたが、本書は、AIに仕事を奪われないための防衛論ではありません。むしろ逆です。AIによって外部化できる工程を外に出し、人間にしかできない判断や意味付けに集中するための実践論です。問いを設計し、構造を整え、反論を先取りし、組織を動かし、実行し、振り返り、学びを資産に変える。その一連の流れの中にAIを組み込むことで、企画という仕事はより再現性を持ち、より強くなります。
また、単なる「AIでできること事典」でもありません。ある企画者の物語を通して、実際の現場でどのようにAIを活用できるのかを具体的に描いていきます。企画に行き詰まる瞬間、上司の反論に揺さぶられる場面、合意形成に苦労する局面。そこにAIをどう組み込むかを、実践的なプロンプトとともに解説します。理論だけではなく、すぐに使える形で提示するのは、現場で試していただきたいからです。
AIは魔法の杖ではなく、鏡である
ただし、忘れてはならない前提があります。AIは魔法の杖ではありません。問いが曖昧であれば曖昧な答えを返し、前提が弱ければ弱い出力しか返しません。生成AIは、あなたの思考を映す鏡のような存在です。だからこそ、この本の主題は「AI活用」ではなく、「思考の扱い方」にあります。
日々、企画という仕事に向き合っている方。AIに触ってみたものの、まだ手応えを感じられていない方。本書が、あなた自身の思考を拡張し、企画の質を一段引き上げるきっかけになれば幸いです。生成AIと共に働く時代において、問いを立てる力、選ぶ力、決める力──つまり「問いの技術」は、これからますます価値を持ちます。その中心にいるのは、これからも人間であり、あなた自身です。
本書の構成について
企画という仕事の一連のプロセスに沿って、生成AIをどのように組み込むかを段階的に扱います。
第1章では思考の出発点である「問い」を設計する方法を、第2章ではアイデアを壊して磨く工程を、第3章では企画書として伝わる構造へ翻訳する工程を、第4章では組織の中で通すための合意形成を、第5章では実行を止めない設計を、第6章では経験を資産に変える方法を、第7章ではそれらを習慣化する働き方を扱います。第8章では私が実際の事例でどんな問いを立てたかを紹介し、そして終章では、生成AI時代における企画者の役割そのものを問い直します。
各章は、ある企画者の物語と実践的なプロンプトを行き来しながら進みますが、目的はプロンプトを覚えることではありません。プロンプトの書き方、各サービスの特徴も本書では扱いません。企画者の業務の中で、いかに問いを立て、選び、決めるかという思考の軸を鍛えることにあります。本書は読み物であると同時に、あなた自身の思考を更新するためのワークブックとして、ぜひ物語の登場人物を自分自身に重ねつつ、実際の業務テーマで試し、問いを磨きながら読み進めてください。
この本が、あなた自身の企画力を上げるきっかけになれば幸いです。
【目次】



