その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は日経ビジネス、日経クロステック、日経クロストレンド(編)の『 ChatGPTエフェクト 破壊と創造のすべて 』です。

【はじめに】

 どのような質問にも、たちどころに流ちょうな言葉で「それらしい」答えを返してくれる「ChatGPT(チャットGPT)」。2022年11月の公開直後から、耳の早い人たちを中心にインターネット上で話題を集めていました。
 「面白いことを言わせてみた」
 「自分の名前を入れてみたら、事実とまったく異なる経歴が表示された」
 その頃はまだ、人々は対話型の人工知能(AI)という「新しいおもちゃ」に興じているようでした。経済誌の編集者である私も、まだ「何か面白そうなものが出てきたな」と思った程度でした。

 ほどなくしてChatGPTで遊んでいた人たちの目の色が変わっていきます。使っているうちに、言語を自在に紡ぎ出すAIがもたらす革新のすさまじさに気付いていったのでしょう。
 かねて親交のあるベンチャー企業の経営者が興奮気味に連絡してきたのは、23年2月のことです。「今はとにかくChatGPTに集中しようと決めました! ほかのIT(情報技術)投資はすべてストップするよう社内に指示しましたよ」。彼はベンチャー経営者らしいフットワークの軽さで、大きな変化の訪れを千載一遇のチャンスと捉えているようでした。
 その影響が及んだのはビジネスだけにとどまりません。ある県立高校で国語教師をしている友人は「テスト問題があっという間に出来上がる。残業時間が大幅に減った」と驚いていました。

 今や、ChatGPT関連のニュースを聞かない日はないと言っていいでしょう。多くのメディアや専門家が、世界や社会、経済にAIがもたらす影響を論じ、未来を熱心に予想しています。
 それは、ChatGPTの振る舞いを見ていると、人間の存在意義が揺さぶられるような感覚になるからかもしれません。普通の人が答えられる情報よりもはるかに広く深く、かつ破綻がないように見える回答をあっという間につくり出すのです。これまで人間の専売特許だと思われてきた「創造」の領域に機械が踏み込んできた上に、人間よりも高度なことができてしまうのかと驚かされます。
 「なぜ機械に、こんなことができるのだろうか」という言いようのない違和感と、個人の想像を大きく上回る能力。その両方が相まって、ChatGPTなどのAIに対する、期待と畏怖がない交ぜになったような複雑な感情が社会に広がっています。

 かつて「アマゾンエフェクト」という言葉が話題になりました。米アマゾン・ドット・コムの躍進が小売りやコンテンツなどの産業に破壊的な影響をもたらす様子を表現したものです。どこに影響を及ぼすか分からないことを指す「バタフライエフェクト」を語源として、アマゾンはどんな産業にも影響を及ぼしかねないという意味を込めたという説もあります。
 ChatGPTを含む「生成AI」の登場は、アマゾンの急成長以上のインパクトをもたらすだろう──。本書の書名を『ChatGPTエフェクト』とした背景には、我々のこんな予感があります。

 「インターネット以来の大発明」。こうも表現されるChatGPTは、世界の産業勢力図をも塗り替えつつあります。世界の巨大IT企業たちが、生成AIを前提にあらゆるサービスを作り替えようと必死になっています。
 国家を動かすエリートたちも例外ではありません。生成AIにどのように向き合い、規制するか。それが23年5月に開催された主要7カ国首脳会議(G7広島サミット)における主要議題の一つとなりました。

 本書は、日経BPの専門誌記者、総勢約40人が、生成AIがもたらす変化の最前線を国内外で取材し、そこから見えてきたものを詳しく解説した1冊です。経営・経済の専門メディア「日経ビジネス」、技術の専門メディア「日経クロステック」、マーケティング・消費の専門メディア「日経クロストレンド」の3媒体に掲載した記事に加筆修正し、ChatGPTエフェクトの全貌をつかめるようにしました。
 そもそもChatGPTとはどんなもので、生み出した米オープンAIとは何者なのか。米マイクロソフトや米グーグルなどの世界のトップ企業はどう動くのか。ChatGPTを個人や企業はどのように使っているのか……。
 ビジネスパーソンが、自らのビジネスや働き方を考える上で知っておきたいことを詰め込みました。最初から通しで読んでも、興味のある部分から順不同で読んでも理解できる構成にしています。
 各章の末尾には、一線級の識者や、ChatGPTと深く関係する企業の経営者たちのインタビューも多数掲載しています。なお、人物の肩書きや商品・サービスの名称などは基本的に記事の初出時の情報に従いました。

 誰も逃れられないChatGPTエフェクト。その影響を正しく推し量れるのは、生成AIを恐れすぎず、期待しすぎず、実像を理解しようと試みる人たちでしょう。皆さんにとって、この本が、これからの世界を生き抜くための「航海図」のような存在になれば、これ以上の喜びはありません。

2023年6月
編集チームを代表して 日経ビジネス副編集長 広岡 延隆

【目次】

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