その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は浅川博人さんの『 インフラ再構築 次世代社会を支える集中×分散の事業モデル 』です。
【はじめに】
本書は、日本のインフラが直面している課題を踏まえ、それを乗り越え次世代化していくための考え方と事業モデルを提案するものである。
主に1990年代までに全国で整備されてきたインフラの多くは、老朽化して大規模な修繕や更新が必要となっている。しかし、少子高齢社会を迎えて人口減少が進む今、その全てを維持していくことは担い手・資金の制約から考えても現実的ではない。人々の生活水準を維持・向上させながらインフラの規模を適切に保つため、強化していくインフラと効率化しながら縮小していくインフラのメリハリをつけることが必要だろう。
一方で、AI(人工知能)の急速な発達をはじめとしたデジタル社会の進展という側面にも目を向ける必要がある。デジタル技術はこれまでも私たちの生活水準を向上させる重要な役割を果たしてきたが、21世紀に入ってからは社会活動の多くが次々にデータ化され、それを活用するAIが日々の企業活動や生活に不可欠な役割を果たすようになっている。その結果、例えば日本の電力需要は人口減少下にもかかわらず、今後増加していくことが想定されている。
こうした社会の変容に合わせて、日本のインフラをどのように再構築していくべきか。本書では「集中型インフラ」と「分散型インフラ」というキーワードを基に考察する。
筆者は、これまで20年以上にわたり国内外のインフラに対する投資や融資、そして行政及び民間事業者向けの調査・コンサルティングに携わってきた。その過程で感じる近年の顕著な傾向の一つに、インフラの小型化と分散化が挙げられる。例えば発電所といえば、2000年代頃までは大型の火力、水力、原子力発電所を指しており、これら施設の建設は数百億円以上の資金を要する大型プロジェクトだった。しかし2010年代に入ると、従来の大型プロジェクトに加えて、太陽光発電をはじめとした再生可能エネルギー(再エネ)の導入が始まった。再エネ施設一つひとつの事業規模は従来の発電所よりもかなり小さくなり、その担い手も大手電力事業者以外のさまざまな業種に広がった。今後は、建物の屋根や壁面を活用した太陽光発電など、さらに小型で建物などと一体化された発電方式が一般化していくだろう。エネルギーの分野では、これら多くの小型設備を統合して運用する仕組みを「分散型エネルギーシステム」と呼んで、大型の発電所や広大な送配電網からなる従来のシステムとの統合が進められている。そして、本書で紹介するように、この傾向はモビリティや上下水道など、幅広い分野で顕著になっている。これらの変化を捉えて適切な制度と事業モデルを構築できれば、分散型のインフラは、人口減少下の担い手不足や資金制約などの課題を解決する糸口となり得る。
筆者がインフラへの投融資の仕事を始めた2000年代頃、インフラは人々の生活に不可欠なサービスを提供するために、景気変動の影響を受けにくい安定的なキャッシュフローをもたらす投資対象と言われていた。しかし、社会構造の変化や技術革新の影響を受けて、インフラの事業モデルや、それにかかわるファイナンス手法にも変化が生じている。こうした新しいインフラの事業モデルやファイナンス手法は、インフラを次世代化するために不可欠と考え、本書でも紹介することにした。いずれ、これら手法のうちいくつかが広く普及して、定着することを期待している。
インフラの開発と運営は、行政、民間事業者、地域住民をはじめとした多様なステークホルダーの合意と協力があってはじめて成り立つものである。その構成要素の一つであるファイナンスの立場からインフラ全体の在り方について述べることに、躊躇(ちゅうちょ)するところもあった。しかし、事業モデル実装における要の一つともいえるファイナンスに携わってきた者の視点は、新しい構想を実現する上で一つの参考になるのではないかと考え、本書を執筆することとした。本書を通じて、インフラの次世代化について、何らかのヒントを提供できれば幸いである。
浅川博人
【目次】




