その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は高橋嘉尋さんの『 値決めの教科書 勘と経験に頼らないプライシングの新常識 』です。
【はじめに】
プライシングがNice to haveからMust haveな時代へ
ここ20〜30年の間、日本は価格競争の国でした。2012年には「あなたの企業は過度の価格競争に直面しているか」という問いに対して、「はい」と答えた日本企業は84%にも上り、グローバル平均の46%を大きく上回った※1という調査結果も出ています。企業努力でのコスト削減による低価格化。エブリデイ・ロープライス(EDLP)などに代表される低価格戦略。それを優位性にして競争をしてきたのです。
低価格競争大国の日本にも、2020年から2021年にかけてプライシングを見直す機会が訪れます。それは、COVID‑19(新型コロナウイルス)の影響によるものです。COVID‑19によって、経済の世界的停滞、外出の制限・自粛、リモートワークの推進などの事象が発生し、消費者の価値観・行動様式が変化しました。そして上記の事象を背景に、多くの領域で消費が減退傾向になったのです。事業の売り上げは、「価格×数量」によって決まることを踏まえると、上記の事象は「数量の減退」にほかならず、「価格」を改善することが売り上げ改善のソリューションであることが認識され、社会的にプライシングへの関心が高まりました。
2022年は、それに追い討ちをかけるように、原材料価格の高騰やロシアによるウクライナ侵攻、急速な円安など様々な要因が絡み合い、記録的な値上げの1年となりました。実際、「上場する主要飲食料品メーカー105社における、2022年の価格改定品目数は、最終的に2万822品目、値上げ率は平均14%という結果となり、バブル崩壊以降の過去30年間でも類を見ない『記録的な値上げラッシュ※2』となった」ようです。2023年もこの状況は続きます。2023年の値上げ品目数は2022年11月末時点で累計4425品目に上り、早くも4000品目を超えたといいます。これまで低価格路線を貫いてきた企業たちが、生き残りをかけ、続々と値上げに踏み切っているのです。まさにプライシングがNice to have(あるといい)からMust have(なくてはならない)になった時代といえます。
そんな、企業にとっても消費者にとっても、価格に対する常識が変わった今が、プライシングの変革に取り組む絶好の機会です。しかし、16.4%の企業が値上げしたいが、できていないというデータ※3もあるように、大多数の企業に、急に価格を変えることへの不安や抵抗があるのではないでしょうか。本書は、この絶好の機会に、1社でも多くの企業の値上げや、プライシングの変革への後押しとなってほしいという思いから、執筆するに至ったものです。
プライシングは、非常に奥が深い分野です。世界中で数多くのプライシング戦略、調査・分析手法、テクニックなどが研究され、多くの専門書で網羅的に解説されています。たしかに、それらの知識を網羅的に学ぶことができる本は非常に有用だと思います。しかし、それらの知識を「実務の現場でどう活用し、どう実践すればいいのか」について書いている本は、ほとんどありません。誰が、どれくらいのスケジュールで、具体的にどんな業務をすればいいのか、といったことについては触れられていないのです。私はプライシングの実務家として、そんな数多くの専門知識を、本書で1つでも多く紹介したいという思いがあるのも事実です。しかし、プライシングの実務家である私に、そんな本は求められていない。専門知識を詳しく解説するのは研究者の仕事でしょう。むしろ、それらの知識を「実務の現場でどう活用し、どう実践すればいいのか」といった内容にフォーカスした、まだ国内にはないプライシングの実用書が求められていると思います。そのため、あえて知識の羅列は避け、最低限知る必要のあるものだけを厳選して、本書を作成しました。
本書は、プライシングに関わる・興味があるビジネスマンが一番最初に読む本を意識しています。そして、実務の現場で役に立つ知識だけを凝縮し、1つのストーリーとして書き上げました。この実務の現場で役に立つ知識は、私が経営する企業の価格決定・プライシングを支援をするプライシングスタジオ株式会社が、これまで30以上の業界、100以上のサービスに対して行ってきた数々のプロジェクトを通じて得られた成功体験、中にはもっとこうしたらよかったのではないかという反省点に基づく生きた実践知です。それをふんだんに盛り込みました。
本書は以下の大枠で進めます。
第1部 プライシングの前提
第1章:プライシングの必要性……歴史、重要性
第2章:前提知識……価格を決めている要素、支払い意欲、一物一価と一物多価
第2部 プライシングの実践
第3章:プライシングの全体像……大まかな流れ、スケジュール、 担当者、ダイナミックプライシング
第4章:調査……調査設計、価格体系一覧
第5章:分析……分析手法、意思決定
第6章:実行……PR、その他実行の論点
第3部 プライシングの内製化
第7章:組織的な能力開発……組織の構築、人材育成、プライシングツール
おまけ プライシングの調査・分析手法
第8章:調査手法……PSM分析、CVM分析、abテスト、EVC Analysis
前述の通り、本書は「プライシングに関わる・興味があるビジネスマンが一番最初に読む本」と位置付けています。つまり、プライシングを実行するために、必要最低限な情報でありつつも、なるべくプライシングの実行における全体像を分かりやすく理解できるような構成にしています。
第1章では、プライシングの歴史を通してプライシングの必要性を説明しています。
それに続く、第2~3章では、プライシング実行プロセスの概要を説明することで、まず全体像を理解することができます。さらに、第4~6章で、プライシング実行のプロセスごとに詳しく説明します。ただし、プライシング調査の手法については、第8章で詳細を説明します。そして、第7章で、プライシングを継続的に実施するために必要な組織構築について説明しま
す。
プライシングの実行の概要を理解したい人は、第2章および第3章をお読みください。全体像を理解することができます。プライシングを実行する上で、詳細な内容を把握したい人は、第4章から第6章におけるプロセスごとの説明をご参照下さい。また、プライシングの調査手法(PSM分析やCVM分析、EVC Analysisなど)を知りたい人は第8章をご覧ください。そして、プライシングの実務ではなく、継続的なプライシング力の向上に意識が向いている方は、第7章をお読みください。
繰り返しになりますが、本書はプライシングの先進的な知識や情報を盛り込むのではなく、あくまで実用書として必要な情報を、実際に弊社が結果を出した経験を基にまとめたものです。本書を読み終える頃には、プライシングとは何か、また実務的にどのような業務が発生し、それにどのように対応していけばいいのかを理解していることを目指しています。
プライシングがNice to haveからMust haveの時代になった今、本書が1人でも多くの方に届き、プライシングが議論され、ひいては多くの日本企業の価格決定力向上の一端を担うことを願っています。
※1 週刊東洋経済2012年5月19日号:独サイモンクチャーが行った調査
※2 株式会社帝国データバンク 情報統括部[2022]『特別企画:「食品主要105社」価格改定動向調査― 2022年動向・23年見通し』株式会社帝国データバンク
※3 株式会社帝国データバンク 情報統括部[2022]『止まらない!値上げ実施済・予定企業は64.7%に!!~ロシアのウクライナ侵攻で原材料価格の高騰が加速、6社に1社は値上げできず~』株式会社帝国データバンク
【目次】




