その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は中山聡史さんの『 トヨタが実践する品質トラブルの未然防止手法 DRBFM 』です。
【はじめに】
開発設計時に設計者が悩んでいる姿を多くの企業で見掛けます。品質不具合のリスクを考える際に何をどこまで検討したらよいかが分からずに困っているのです。
開発設計プロセスの前工程で負荷をかけるフロントローディングを実践するために、「設計する前にリスクを検討しなさい」と上司に命じられ、頑張ってリスク要因をリスト化します。ところが、いざ設計を開始してみると、思ってもみなかった問題が次々と顕在化する──。こうしたトラブルに直面して初めて、抜けや漏れがあり、リスクを事前に捉え切れていないことに気づいて愕然(がくぜん)とする設計者は少なくないのです。
しかし、そうなるのも無理はありません。設計者が1人で自分の頭の中でリスクを検討し、リスト化したとしても限界があるからです。リスクを検討するには、正しい考え方とそれに基づいた方法を理解しなければなりません。そのために必要なのがDRBFMです。DRBFMは品質不具合を未然に防ぐための設計品質ツール(品質管理手法)です。
品質不具合を未然に防ぐための設計品質ツールとしては、もともとFMEA(故障モード影響解析)がありました。FMEAは1940年代に米国で開発され、日本では1970年代から使われるようになったツールです。長年使われたツールであることから、トヨタ自動車では「現在の開発設計方法と合っていない」「使いにくい」と感じる技術者が増えてきました。加えて、大量のFMEAを作成する協力会社の負担まで目立つようになってきたのです。そこで新たなツールの開発に着手した結果、2001年ごろに生まれたのがDRBFMです。
トヨタグループはすぐにこのDRBFMを開発設計に導入しました。これにより、負担を減らしつつ、現在の設計手法に合った方法で協力会社と共にリスクを抽出し、ロバスト性(頑強性)の高い製品を生み出せるようになりました。
その後、DRBFMはトヨタグループだけではなく、自動車業界、さらには自動車業界以外にも広がり、ここ5年ほどで一般的な製品の設計にも使用されるようになりました。
ところが、普及の仕方に問題がありました。トヨタグループから外に向けて広がっていく際に、DRBFMのワークシート(帳票、以下、DRBFMワークシート)だけが受け渡され、正しい使い方が伝わらなかったのです。その結果、何が起きているかと言えば、DRBFMのワークシートの空欄を埋めるだけ。各社が勝手な解釈でDRBFMを行っているため、ほとんど効果が得られていないというのが実態です。
筆者はコンサルタントとして、これまで多くの企業で行われているDRBFMを確認・評価してきました。しかし、率直に言って、DRBFMを正しく使用してきちんとリスクを抽出できているケースはほとんどありませんでした。せっかくDRBFMを使っているのに、これでは意味がありません。すなわち、設計者1人が自分の頭の中で検討したリスクを一覧にしているだけの抜けや漏れが多くある状態なのです。
こうした状態から脱却するには、運用方法を含めたDRBFMの正しい実践方法を学ぶ必要があります。それを解説したのが本書です。
DRBFMを正しく実践するには、次の3つを押さえる必要があります。
[1]変更点・変化点管理
[2]DRBFMワークシートの作成
[3]DRでの議論
これらがDRBFMの3本柱です。先述の通り、[2]のDRBFMワークシートを使うだけでは全く意味がありません。また、これら3つを実践するだけではなく、それぞれを実践するタイミングも非常に重要です。
[1]変更点・変化点管理
現在の設計は流用設計が基本です。すなわち、過去に実績のある図面を利用して新たな図面を作成する設計方法です。参考するための製品があり、その製品の図面を踏まえながら新たにカスタマイズする設計を行っています。参考にする製品が存在し、それらを流用しているのであれば、その部分についてリスクを検討する必要はありません。既に市場で問題なく使用されており、実績があるからです。その製品の一部を変更し、新たな機能や性能アップを行う部分のみを設計するというのが現実的です。
従って、DRBFMでは新たにカスタマイズした部分だけに着目してリスクを抽出します。これが変更点・変化点管理(変化・変更点管理)のポイントです。これにより、リスクを効率的に抽出できるようになります。
ただし、デメリットも存在します。変更点・変化点に絞り込んでリスクを抽出するわけですから、そもそも変更点・変化点自体の抽出に抜けや漏れがあると、リスクの抽出にも抜けや漏れが発生してしまいます。従って、抜けや漏れがない変更点・変化点管理の仕組みを構築し、考え方を身に付けることが大切です。
[2]DRBFMワークシートの作成
DRBFMワークシートの作成には、様々な「コツ」が存在します。例えば、故障モード(機能の欠損や機能の喪失、商品性の欠如)について記載するときに、過去のトラブル(過去トラ)などの内容からリスクを無作為に抽出するケースが目に付きます。しかし、これではリスクを正しく抽出できているとはいえません。故障モードをどのように抽出すべきか、その方法を正しく定義しておかなければならないのです。
[3]DRでの議論
現在の製品は様々な機能が複雑に絡み合っており、一目見ただけでは理解できないほどです。しかも、ハードウエアだけで構成される製品は少なく、ソフトウエアと組み合わせて機能するシステム製品が増えています。非常に複雑な造りになっているため、1人の設計者だけでは全てのリスクを抽出できなくなっています。こうした現実に対応するために、DRBFMではDR(デザインレビュー、設計審査)によって多くの設計者や各分野の技術者といった有識者と議論してリスクを抽出します。
要するに、DRBFMは様々な有識者と議論することを前提とした、問題を未然に防ぐための仕組みです。従って、DRで議論して抜けや漏れがないようにリスクを抽出していく必要があるのです。
本書では、DRBFMを正しく実践するために必須のこれら3本柱の考え方や仕組みについて解説します。最終章には、DRBFMワークシートへの具体的な記載方法が分かるように事例紹介にもページを割きました。
本書は以下の構成によって成り立っています。
第1章はDRBFMとは何かです。DRBFMの正しい定義と考え方を説明します。そして、現在の設計の手法とDRBFMの良いつながりを解説し、変更点・変化点管理とDRBFMの全体的な体系をまとめています。
第2章は間違った変更点・変化点管理とDRBFMです。現在の設計プロセスが抱えている課題を設計者における“あるある”を基に解説し、DRBFMの必要性をまとめています。
第3章は開発設計の役割と立ち位置です。DRBFMを正しく実施するには、開発設計部門の役割と責任を理解する必要があります。そこで、全社的に見たときの開発設計部門の立ち位置を紹介し、適切なタイミングで行うべき各部門との連携方法を解説します。また、設計へのインプットで最も重要な「機能」を抽出する方法を押さえます。
第4章はあるべき開発設計プロセスです。フロントローディングとコンカレントエンジニアリングについて解説します。これらの考え方を用いた場合に実施すべき開発設計プロセスに触れ、DRBFMを実施する適切なタイミングを説明します。
第5章は変更点・変化点管理です。DRBFMを実施する上で重要な変更点・変化点管理の仕組みについて取り上げ、DRBFMにおいて故障モードを抜け漏れなく抽出するための方法についてまとめています。
第6章はDRBFMの考え方と進め方です。変更点・変化点管理を踏まえた上で進めるDRBFMの具体的な実施方法を解説します。DRBFMは設計者のみで実施するのではなく、議論するための仕組みであるというポイントを押さえます。
第7章はDRで検証するDRBFMの内容です。変更点・変化点管理とDRBFMを使用し、「良いディスカッション(議論)」を行うための方法を解説します。DRBFMは開発設計だけではなく、営業や企画、購買、製造など多くの部門と協力して作り上げる必要があることを理解します。
第8章はDRBFMの事例です。自動車のエンジンカバーを事例に選び、変更点・変化点管理を具体的に進めた上で、DRBFMを実践する際に重要なポイントを解説します。いわばDRBFMの「紙面演習」です。
本書を読めば、設計者は正しいDRBFMを効率良く実践し、品質不具合やトラブルを未然に防ぐことができるようになります。貴社の開発設計の競争力向上にぜひ役立ててください。
中山 聡史
【目次】




