その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は越川慎司さんの『 一流のマネジャー945人をAI分析してわかった できるリーダーの基本 』です。
【はじめに】
なぜ、リーダーはこんなにも忙しいのか?
今、あなたは「正しいこと」をしているのに、なぜか苦しんでいませんか?
2019年に弊社クロスリバーが全国678社の管理職1万7172名を対象に実施した調査から、ある衝撃的な事実が浮かび上がりました。
管理職の実労働時間は、働き方改革以降、平均で17%も増加していたのです。
その内訳を見ると、いくつかの逆説的な傾向が明らかになりました。
- メンバーの残業を減らそうとすればするほど、残業が増える
- 効率化を追求すればするほど、管理業務に追われる
- 働き方改革を進めれば進めるほど、結局、仕事が増えていく
このような状況に、心身ともに疲れ果てているリーダーは少なくないはずです。
また、マイナビ転職の「管理職の悩みと実態調査」(2024年1月発表)でもリーダーの苦悩が明らかになりました。約800名のアンケート結果では「心身の健康が損なわれた」と答えた人が全体の69%となり、「プライベートや家族との時間が楽しめなくなった」と答えた人は55%と散々です。さらに「転職を考えるようになった」と答えた人は44%もいたのです。
なぜ、このようなことが起きているのでしょうか?
リーダーの負担は働き方改革が始まってからさらに増しています。
リーダーは働き方改革以降、メンバーの仕事を代わりに行うなどで、業務を抱え込み、労働時間が増えています。
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【働き方改革以降の労働時間】
- リーダーの労働時間は17%増
- メンバーの労働時間は11%減
その結果、「業務量が多すぎて、部下のマネジメントや育成に十分な時間を取れない」という状況に陥っています。
また、中間管理職の多くがハラスメント地獄におびえ、メンバーとの会話を避ける人も増えていて、「マネジメント以前の課題」としてリーダーを悩ませています。
今リーダーを務める人の多くは、「上司に言われたことをやる」を経験してきた世代です。
しかし今は、共感・共創の時代です。「上司に言われたことをやる」のではなく、「感情を共有し、ともに新しいものを創り出すこと」が求められています。
また先述した業務量の増加やメンバーとの関わり方の難しさも相まって、これまでの「正しいこと」が通用しない時代になっています。
そこで本書では、今まさに成果を出し続けているリーダーのエッセンスを凝縮した、これからの時代に必要な「リーダーの基本」をまとめました。
本書では1万8902人のリーダーの働き方をAIで分析し、そのなかでもずば抜けた成果を出し続けるリーダー945人の言動をそれ以外のリーダー1万7957人で検証。その中から、再現性が認められたノウハウを1冊にまとめました。
では、「これからの時代に必要なリーダーの基本」とはなんでしょうか?
それは、自分で考えて動くチーム、つまり「自走するチーム」をつくることです。
では、どうしたら「自走するチーム」がつくれるのでしょうか?
弊社のこれまでの調査から、そのために必要なステップが導き出されました。
それが、次の3つです。
- 人間関係の悩みを解消し、チームの結束力を高める「信頼関係」を築く
- マネジメントの時間確保と育成を両立する「任せ方」を身につける
- リーダーを支える「自走するチーム」ができる
そして、この3つがチームを動かす原動力になれば、マネジメントのボトルネックとなっていた悩みがなくなり、リーダーが本当に集中すべきことにコミットできるのです。では、「マネジメントのボトルネック」「リーダーが本当に集中すべきこと」とはなんでしょうか。
あるエピソードとともにその解像度を上げていこうと思います。
「苦しいリーダー」と「苦しくないリーダー」
弊社が新規事業の開発を支援していた際、クライアント企業に2人の優秀なリーダーがいました。2人とも同じような規模のチームを持ち、同じような課題に直面していました。しかし、プロジェクトが進むにつれ、私は彼らの間に決定的な違いがあることに気づいたのです。
1人(以降、Aさん)は常に疲弊。もう1人(以降、Bさん)は不思議なほど余裕を持っていました。2人は、自身の状況について、こう教えてくれました。
誰かが休むと、その分は私がカバーする。
それが責任者としての務めだと思っているから。
でも正直、もう限界かもしれない。
Aさん
だから、彼らの仕事を肩代わりするのではなく、
自分で考えて動けるように支援することに注力しています。
Bさん
Aさんを苦しませているのは、具体的に次のような不安でした。
メンバーが退職してしまうかもしれない……
上司からの評価が下がるかもしれない……
Aさん
これらの不安が、Aさんを過剰な仕事の抱え込みへと駆り立て、「常に疲弊する状況」を生み出していたのです。
2023年に弊社が実施した「管理職の実態調査」(対象7314名)によると、なんと92%のリーダーが「重圧に押しつぶされそうになるときがある」と回答しています。特に顕著なのが、「板挟みの苦しみ」と「最終責任の重さ」のダブルパンチです。
たとえば、エース格のメンバーが他部署へ突然異動になり、残されたチームは実質半分の戦力に。あるいは慢性的な人手不足で現場が回らない。
こうした状況でも、上司からは「リーダーが何とかしろ」のひと言。
新人がミスをしてクライアントを怒らせたので、謝罪と指導をしないといけない。
上司から「パワハラにならない程度に部下を厳しく指導しろ」と言われる。
現場の声と上司の意向が真っ向から対立。
常に「自分が何とかしなくては」と抱え込む日々。
これがリーダーの現実であり、Aさんのような「苦しいリーダー」が生まれ続ける元凶なのかもしれません。
「自分ひとりで何とかするリーダー」はもう古い!
リーダーは「何とかする役」である――、2019年頃までは、それが当たり前でした。
働き方改革関連法と言われる労働基準法の改正で歴史上初めて時間外労働時間の上限が設定されました。
多くの業種で施行された2017年以降、リーダーは何とかして仕事を切り盛りしてきました。しかし、人手不足も重なり、もう限界。リーダーだけで何とかできなくなったのです。実際、多くのリーダーが「自分が何とかしなくては」というプレッシャーを感じ、不安を抱えています。
2017~2024年に弊社が実施した「働きがい調査」(対象17.3万名)では、リーダーの18%が週に1回は夜中に仕事のことで目が覚めると回答していました。そして73%が「家族との時間よりもチームの問題解決を優先せざるを得ない」と打ち明けています。
しかし、「何とかするリーダーはもう古い」という視点を提案させてください。
もちろん、リーダーが責任感を持つことは大切です。
しかし、真に成果を生み出すリーダーは、目の前の問題をすべて自分で背負うのではなく、メンバー1人ひとりが未来へ向けて自ら行動を進化させられる環境をつくります。これが、自走するチームです。
仕事はトラブルの連続で、ミスをゼロにするのはほぼ不可能です。
だから、リーダーが「トラブルをみんなでどう解決するか」を提案し、チーム全員を巻き込むことが大切です。
それには、メンバーがトラブルに対処できるだけの裁量と権限を与え、失敗した後のフォロー体制を用意し、何より「あなたひとりで何とかしなくてもいい」という空気をつくる必要があります。
ここで、先ほどのBさんを思い出してみてください。
だから、彼らの仕事を肩代わりするのではなく、
自分で考えて動けるように支援することに注力しています。
Bさん
こう言いきるBさんに不安はないかと尋ねると、こう教えてくれました。
でも、その不安に振り回されると、チームの成長を阻害してしまう。
だから不安があってもメンバーを信じ、任せることを選んでいます。
Bさん
Bさんの考え方は、これからのリーダーシップの本質も教えてくれています。
リーダーシップの本質とは、「不安をなくす」ことではなく、「不安があっても前に進む勇気」と「チームと共に成長する覚悟」を持つことなのです。
苦しくないリーダーは、不安を感じないのではありません。
むしろ、不安を感じながらも、不安に支配されることなく、チームと共に成長する道を選び、成果も上げ続けています。
大切なのは、「あなたも人間であり、完璧ではなくていい」と知ることです。
メンバーの前で弱音を吐いてはいけない、メンバーのミスは全部リーダーが責任を取らなきゃいけない、そんな「常識」に囚われすぎると疲弊するばかり。
周りの人があなたを「完璧なヒーロー」として見ているとしても、無理をしすぎて「何とかするリーダー」のままでいると、いつか自分が倒れてしまいます。
それこそがチーム全体にとってのリスクになってしまうのです。
私たちリーダーは今、「何とかするのが当たり前」と思われてきたリーダー像を、新しい形に変えねばならない過渡期にいます。リーダーには、たしかに「率先して行動する力」や「最後に責任を取る覚悟」が求められます。
しかし、今、そしてこれからのリーダーが注力すべきことは「ひとりで何とかする」ではなく、「未来への道筋を示し、チームを巻き込んで前に進む」ことにあるのです。これが、リーダーが本当に集中すべきことです。
だから「自分ひとりで何とかする」は、もはやマネジメントのボトルネックになるのです。
20年以上のリーダー経験、2万人以上のリーダーの育成を通じて
「すべての人にリーダーを目指してほしい」と本気で思う理由
私は、大学卒業後、国内外の通信会社で勤務したのち、2005年にアメリカのマイクロソフト本社に入社。その後、日本マイクロソフトの業務執行役員として、PowerPointやExcelなどの事業責任者を務めながら、ITツールを活用した働き方改革を進めてきました。
現在は、クロスリバーの代表として「週休3日制でも週休2日制より利益が下がらない働き方をする」という目標を掲げ、815社、約17万3000人の働き方改革をサポートしています。
「マイクロソフトを経て起業」という経歴に華やかで優秀な印象を抱かれる方もいますが、多くの失敗や挫折を経験してきました。何度も壁にぶつかり、鬱病を2回も経験しました。
しかし、失敗から多くのことを学び、特に管理職時代の学びでリーダーシップに対する考えが180度変わりました。
あれは、2月の凍えるように寒い夜でした。
チームメンバーが重要な法人顧客にミスをしてしまい、私は深々と頭を下げていました。顧客からの信用に傷をつけてしまったのだから、リーダーである私が訪問して直接謝罪するのは当たり前だと思っていたのです。
謝罪に向かう前にそのメンバーが「自分も一緒に謝りたい」と言ってくれました。
内心、とても嬉しかったのを鮮明に覚えています。
しかし、当時の私には「リーダーが何とかしなければ」という思いが強く、彼の申し出を受け入れられなかったのです。
また、こんなこともありました。
私がマイクロソフトでマネジャーを務めていたとき、大規模なイベントの準備で疲弊しきっていると、あるチームメンバーが思いもよらない提案をしてきたのです。
「越川さん、私たちにもっと任せてもらえませんか?」
最初は戸惑いました。
それまで「私が責任者だから」「メンバーは経験が浅いから」と、つい先回りして指示を出し、確認を怠らないでやってきました。
しかしメンバーのそのひと言で、私のこれまでの振る舞いが自分の首を絞めていたことに気づけました。
「任せる」というと、放任と混同されがちです。
しかし、真のチームづくりは、むしろ緻密な設計を必要とします。
マネジャーの本質的な役割は、「プレイヤーの延長」ではありません。
それは、チーム全員が自分で考えて動く「自走するチーム」づくりにあるのです。
その実現のために、マネジャーは「不安」を手放して、メンバーと向き合わなければいけません。
令和の時代に求められるリーダーシップは、もはや孤高の英雄ではありません。
メンバーの多様性を活かし、組織内外の対話から生まれるアイデアを柔軟に受け入れ、メンバーが自律的に動ける環境を整える役割を果たす人です。
これこそが、これからの時代のリーダーの在り方なのです。
本書では、それを7章にわたってお伝えしていきます。
第1章 なぜ、メンバーとすれ違うのか?――よかれと思ってやりがちな失敗事例
第2章 「いい関係」の土台をつくる
第3章 「揺るぎない信頼」を築く対話
第4章 「任せる」のゴールは、メンバーが「考えて動ける」ようになること
第5章 できるリーダー「初級編」(リーダー歴2年以内)
第6章 できるリーダー「中級編」(リーダー歴10年未満)
第7章 できるリーダー「上級編」(リーダー歴10年以上)
第1章から第4章までは、自走するチームづくりに必須の「信頼関係の築き方」と「任せ方」を解説し、第5章から第7章は、リーダーに必要なマインドセットとアクションを経験年数別に解説していきます。
チームだけではなくリーダー自身の個人スキルも磨ける設計になっています。
大丈夫! あなたのリーダーとしての新たな一歩を、心から応援します!
2025年6月
越川慎司
【目次】













