その本の「はじめに」には、著者の「伝えたいこと」がギュッと詰め込まれています。この連載では毎日、おすすめ本の「はじめに」と「目次」をご紹介します。今日は田中秀明(編著)の『 人口半減ショック 地域の新戦略 賢く縮み乗り越える 』です。

【はじめに】

本書を貫く3つのテーマ

 本書の目的は、今後30年間で首都圏などを除く地域で人口が半減することを前提として、それを乗り越えるための基本戦略を描くことにある。日本では人口総数が半減するだけではなく、人口1万人未満の市町村数が全市町村の半分になる。いま既に、各地域において、空き家の増大、商店・スーパー・デパートの廃業、バスや鉄道の路線廃止、学校の廃校、病院や診療所の廃業、道路・橋・上下水道などの維持困難、労働者の不足・農林業従事者の激減、自治体職員の確保困難など、深刻な事態になっている。これが今後さらに悪化するのであり、大都市圏などを除くと、人々はとても生活できなくなるだろう。

 地方の行財政・政府間関係や人口減少などをテーマとする書籍は無数にあるが、特定のテーマを掘り下げる専門書や人口減少への処方箋を提示するものが多い。本書は、次の点でそれらとは異なる。

 第1に、問題の科学的な分析に基づいて、それを解決するための骨太な戦略を提案していることである。国・地方を通じて人口減少や少子化を反転させる試みが繰り返し行われてきたが、ほとんど成功していない。人口動態は変えられないという厳しい現実を直視して、いかに「賢く縮むか」を考えなければならない。

 第2に、国と地方自治体の関係を巡っては、分権化か集権化かという軸で主に議論が行われてきたが、そのような単純な二元論をとっていないことである。それだけでは問題を解決できないからであり、パラダイムシフトを試みる。また、従来の議論は思いつきのような急進的な提言も多く、制度改革の移行過程のスピードを考慮しておらず、この点で体力の弱い自治体を中心に反発をかうことも多かった。こうした問題に対応するための仕組みも重要になることを指摘する。

 第3に、政治・行政・財政全般を対象としていることである。これら3つの分野を必ずしもバランスよく論じているわけではないが、これらを同時に議論しないと戦略にはならない。また、国際比較を通して、日本のシステムが特異であることも指摘する。

地方創生に関する政策の成果は科学的に評価されてこなかった

 さて、日本は、明治維新、そして第二次世界大戦後、経済復興とキャッチアップのために官僚主導による中央集権体制を築いてきた。これを是正するべく、1990年代以降、政治・行財政改革が行われてきたが、そのひとつの柱が地方分権改革である。第1次地方分権改革(1993-99年)では、中央集権の象徴とも言える機関委任事務制度が廃止された。市町村合併が行われ、市町村の数は、1999年の3,229から2011年の1,724まで、およそ47%減少した。次は、小泉純一郎政権(2001-06年)が行った「三位一体改革」であり、主に財政改革が行われた。地方分権と地方の財政的自律のために、地方交付税や補助金が削減され、税源が地方に移譲された。2006年からは第2次地方分権改革が始まり、地方に対する規制緩和(義務付け・枠付けの廃止)、国から都道府県へ・都道府県から市町村への事務・権限の移譲が行われた。そして、第2次安倍晋三政権(2012-20年)の「地方創生」である。それは、東京一極集中是正を旗印に、それぞれの地方が知恵を出して少子化対策や地域振興策を講じるものであったが、交付金を活用して地方を競わせるものでもあった。

 こうした改革や取組は、基本的には、中央集権=悪、地方分権=善という前提に立っている。ただし、実態については議論がある。例えば、地方創生については、建前としては、地方尊重であるが、実態としては、中央政府による統制強化とも言える。これまでの分権化が中途半端だったこともあり、中央省庁の官僚や政治家たちは、補助金などを通じて地方をコントロールした。その一方で、地方自治体は、地方創生の各種交付金獲得のために膨大な作業に追われた。

 1990年代以降の様々な政策は、急速な人口減少を予想していたにもかかわらず、地方分権という美名の下に実施された。地方分権すべきではなかったと主張しているのではなく、一律に分権化したことが問題である。市町村の人口は、数千人から数百万人まで非常に大きな相違がある。最近になって、分権だけでは対応できないことがようやく認識されるようになり、上下水道などの行政サービスの広域化、市町村の連携、都市圏の連携などが強調されるようになっている。さらに、新型コロナウイルス感染症対策の反省や大規模災害への対応などから、地方から国への集権化の動きも生じている。こうした動きに対しては、地方分権論者からは、時代を逆行させるものだとして批判も強い。現状を俯瞰すると、人口減少を前に、分権化か集権化かを巡って、立ちすくんでいるようにも見える。これまでの地方分権の限界が明らかになったものの、どうすればよいかという「戦略」がないからだ。

 どうしてこのような状態になっているのか。これまでの地方分権改革、市町村合併、三位一体改革などの結果について、科学的な分析とレビューが行われていないことに原因があると考えている。また、そうした分析に基づき問題を解決するための有効な政策が講じられていない。最近の典型例が第2次安倍政権の「地方創生」である。レビューもなしに、次から次へと様々な取組が講じられた。地方創生は東京一極集中是正を最大の目的としていたが、東京圏への人口流入は増加傾向にあり、是正の観点からは失敗した。もっとも、東京も2040年頃から人口減少局面に入ると予測されており、東京一極集中是正は早晩意味がなくなる。2024年10月になり、石破茂政権が誕生した。彼は、初代の地方創生担当大臣であったこともあり、就任にあたり、地方創生のさらなる推進を強調したが、単なる予算の増額だけでは、これまでと同じように失敗を繰り返すだろう。それでは地方はさらに疲弊する。こうした失敗を繰り返さないために、本書は地方創生に関係する問題をレビューした上で、改革を提言する。

本書の構成

 本書は、総論である序章と2つの部で構成される。第Ⅰ部(第1-4章)は、主にガバナンス、地方財政、国と地方の財政関係を論じる。第Ⅱ部(第5-8章)は、主に行政区分、役割分担、行政サービスの供給システムを論じる。

 序章は、これまでの地方分権など、政府間関係を巡る改革の経緯を整理し、その特徴や問題を分析する。特に、第2次安倍政権の「地方創生」の失敗を分析する。こうした問題分析を踏まえて、人口が半減する地方に焦点を当てた改革戦略を提示する。最も必要な基本戦略は、各自治体が、人口半減を前提として「賢く縮む」計画・対応策を考え、各地域が総力をあげてそれに取り組むことである。

 第1章は、これまでの地方分権改革の残された課題として、地方政治に関わる制度について検討する。地域住民が地方政治の責任を適切に問うことができることを目的として、地方政府の財政責任を明確にするとともに、その責任を問うための選挙制度を議論する。序章で議論した地方交付税改革を前提としつつ、政党が財政支出の責任を担うことを重視し、非拘束名簿式比例代表制の導入を提案する。さらに、政治の責任の明確化とともに、自律的な公共サービスの提供を可能にするための政治改革を議論する。

 第2章は、人口減少・高齢化という経済・社会環境における新たな地方行財政、地方交付税などの補助金を含む政府間関係の再構築について議論する。それは「パラダイムシフト」が必須となる。具体的には都道府県と市町村を「対等」なパートナーと位置付けてきた従前の地方分権を転換し、市町村に対する都道府県の権限を強化して、業務の標準化・ICT化、広域連携・民間委託を主導させる。また、全ての市町村が同等の役割を果たすことは困難であり、財政力などに応じて異なる行財政システムを導入する。

 第3章は、国の財政危機と地方財政の関係について考察する。日本においては、国の財政の持続可能性が懸念される一方、平均的には地方財政は比較的余裕がある。それは、地方が国の予算や税に依存しているからである。諸外国の財政危機においては、地方財政の再中央集権化が図られる事例もあるなど、国と地方の財政関係は、両者の財政状況を踏まえ、必要な見直しが行われている。そこで、国からの「予算ぶんどり」「税源ぶんどり」に依存した地方分権を終わらせるために、財政再建目標、臨時財政対策債の償還方法、地方交付税制度、財政危機対応の見直しなどを提案する。

 第4章は、アメリカの「強靱な連邦」論を手掛かりに、地域間の多様性により国民を豊かにする道を考察する。分権的統治は短期の安定を損ないつつも、多様な州の間の競争を通じ、長期的には豊かさをもたらす。州財政の自立性は「強靱な連邦」の礎であり、州の連邦への財政依存の高まりにもかかわらず、アメリカの州財政の自立性が持続していることを示す。その上で「強靱な連邦」論を日本で社会実装する際の課題を検討する。具体的には、財源確保のもと社会保障の安定を担保しつつ、日本を複数の大都市圏と地方に分け、大都市間での競争を促すことを構想する。

 第5章は、東京一極集中是正の妥当性を検証するとともに、都市のコンパクト化の問題を分析し、人口減少下で必要となる都市圏単位でのコンパクト化について議論する。東京を含む大都市への集積を抑制することは経済成長を阻害するが、多様な地域を維持するためには一定の集積が必要である。そこで、集積の経済によって自律できる都市構造を整えることを提案する。それは、市町村単位では小さすぎる一方、都道府県単位では広すぎる。現状では、都市圏単位のコンパクト化を進めるための仕組みやインセンティブが乏しいため、地方交付税などの改革が必要である。

 第6章は、医療・介護・福祉に関する地方自治体の機構改革を検討する。現在、医療・介護・福祉制度の見直しでは「地域の実情」という言葉が多用されており、医療では都道府県、介護・福祉では市町村が主体的に体制整備に取り組むことが期待されている。しかし、人口減少を踏まえた市町村の機能低下という難題への対応に加えて、包括的な医療・介護・福祉サービスを安定的かつ効果的に提供するためには、そうした役割分担だけでは限界があり、域内の医療・介護・福祉行政を一元的に所管する自治体や包括的に提供する主体の構築を提案する。

 第7章は、人口減少を所与に国と地方の関係や国土空間のあり方を再構築するシナリオを検討する。地方創生などで出生率を引き上げ、人口減少のスピードを緩和または反転させるような微修正では問題に対応できない。そこで、都道府県や市町村の現行制度は維持しつつ、人口減少を前提とした国土空間のあり方を検討し対応するために「地方庁」を設置することや「国土形成計画」と「広域地方計画」に選択と集中の数値目標を設定することの重要性などを考察する。

 第8章は、人口減少社会下の地域の持続可能性には、行政区分と役割分担の見直しが必要であると提案する。先進諸外国の事例として英国の行政区分と権限委譲を概観するとともに、日本の行政サービスの担い手の現状を検討し、道州制議論と地方分権改革の変遷と定義を把握する。それらを踏まえ、国家―道州(地方自治体)―都道府県(地方自治体)―市町村(地方自治体+一部事務組織や広域連合、任意組織)―地域の担い手(地域運営組織+指定地域共同活動団体+町内会・自治会など)の5階層を提案する。道州に任せた方が適切な国の権限は移管され、道州は広域的な戦略や計画の策定や意思決定機能、行政監視機能を担う。

本書の主張

 最後に、本書が伝えたいメッセージをまとめる。

 第1に、分権・集権の択一ではなく、地方自治体が「自律」することを目指す。その場合、デジタルシステムのインフラ整備などについては国の責任が重要となる。これらは地方がそれぞれに対応すると、非効率的であるからだ。市町村が自律するためには、これまでのように市町村が一律的にフルセットのサービスを担うのは無理であり、都道府県の広域的な役割が求められる。また、都道府県を越えた主体も必要となるだろう。自律を担保するために、政治的なアカウンタビリティを明確にするとともに、国に過度に依存しない財政システムをつくる。自律することは、国土の均衡ある発展ではなく、インフラ整備などをしないエリアの明確化を含め、一定の格差を許容することになる。

 第2に、各地域で総力をあげて「賢く縮む戦略」を考え、今から実施することである。人口密度の維持・向上と生産活動や生活の質には密接な関連があることから、公共施設の整備など行政の事務事業に関して、都市機能の縮小を促す地方交付税のインセンティブ、縮まないことへのディスインセンティブが必要である。地方創生で多くの自治体は出生率2.00への回復を目指しているが、そのような非現実的な計画は問題の先送りであり、事態をさらに悪化させる。人口動態は変えられないことを認識しなければならない。小規模自治体の数や人口の集積度、地形などの状況は、地域によって大きく異なるため、一律の対応では人口減少を克服できない。政令指定市などは自ら対応できるかもしれないが、それ以外は都道府県のリーダーシップがより必要となる。また、都道府県別では対応できない場合には、国の地方出先機関がリーダーシップをとる。そうした取組には住民が積極的に参加する。縮む戦略には厳しい改革を伴うため、住民が自分事として考えない限り、改革は頓挫するからだ。対応が遅くなるほど、問題の克服は難しくなる。

 第3に、国・地方に通ずる、改革を実行するための専門性を持った人材の育成である。昨今、国家公務員も地方公務員もなり手が減少し、若手の早期退職も増えている。日本の公務員制度は、民間企業と同様にメンバーシップ型雇用システムであり、多様性や流動性に乏しい。それでも、地方自治体では、民間から中途採用された者が改革をリードしている事例も見られる。人材なしには人口減少に対応できない。これが直面する最も大きな課題だ。知事や市町村長のリーダーシップが求められている。

 本書は、各章が一体となった総合的な改革案を提案しているわけではない。改革案の細部において異なる点もある。地方のガバナンスや政府間関係は複雑であり、単純な答えはない。問題解決のためには多様なアプローチがあってよいと考えている。しかし、改革の目的や方向は同じであり、本書が急速に進む人口減少を乗り越えるための検討や議論に貢献することができれば幸いである。

 最後になるが、本書は、一般財団法人鹿島平和研究所における「国と地方の関係を再構築する研究会」(2021-24年度)での調査・研究の成果である。同研究所の支援に対して感謝を申し上げたい。

 2025年5月

執筆者を代表して 田中秀明

【目次】

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